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日高敏隆 『生き物の世界への疑問』(朝日文庫)

最終章に近いところで、これまでさんざん侮られてきたラマルクの獲得形質遺伝説と、今や完全に進化論の定説になった突然変異・自然淘汰説は、実は言われているほど違わないのではないかという興味深い考え方が示されている。 p315-6 生物の持つ遺伝的な性質…

ユヴァル・ノア・ハラリ 『21 Lessons』(河出書房新社)4/4

ベーシックインカム社会にむけて、若い人全員にのしかかるプレッシャ― p340-1 マルクスが1948年に出した『共産党宣言』には「確固たるものもすべて、どこへとも消えてなくなる」と宣言している。もっともマルクスとエンゲルスは、主に社会構造と経済構…

ユヴァル・ノア・ハラリ 『21 Lessons』(河出書房新社)3/4

p302-13 ホモ・サピエンスは「事実」だけでは満足しないポスト・トゥルースの種である。ホモ・サピエンスの力は事実を超える虚構を作り出し、それを信じることにかかっている。自己強化型の神話は石器時代以来ずっと、人間の共同体を団結させるのに役立って…

ユヴァル・ノア・ハラリ 『21 Lessons]』(河出書房新社)2/4

AIや生物工学は数十年以内に巨大な「無用者階級」を生み出す。 ベーシックインカムなどの社会実験を本格化しなければならない。 p38 AIが社会に対してこれから何をするかを考えるには、まず雇用市場に目を向けるのが最善かもしれない。世界の研究者たち…

ユヴァル・ノア・ハラリ 『21 Lessons』(河出書房新社)1/4

著者は『サピエンス全史』、『ホモデウス』と大著2作にわたって、人類の知性はどこまでEvolution=展開を続けるのかを、その「展開」が必ずしも「成長」や「進化」を意味するものではないことに十二分に注意を払いながら、問い続けてきた。Evo…

村上春樹 『インタビュー集 夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』(文春文庫)2/2

<2005年>『夢の中から責任は始まる』 p361-2 文春編集部 地下鉄サリン事件の被害者を丁寧にインタビューしてそれをもとにまとめられた『アンダーグラウンド』で村上さんはこう書かれています。「私たちが今必要としているのは、おそらく新しい方向からや…

村上春樹 『インタビュー集 夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』(文春文庫)1/2

<1997年> 『アウトサイダー』p18-9 僕はポップカルチャーみたいなものに心を惹かれるんです。ローリング・ストーンズ、ドアーズ、デイビッド・リンチ、ミステリー小説。僕はだいたいにおいてエリーティズムというものが好きじゃないんです。ホラー映画も…

村上春樹 『約束された場所で』(文芸春秋)

1995年の地下鉄サリン事件の1年半後、村上春樹はごく普通の市民生活をしている62人の被害者に自ら直接取材した『アンダーグラウンド』という長大なインタビュー本を出している。相手の心情に極めて丁寧に配慮しながら、どんな状況で突然被害にあい、それがど…

村上春樹 『神の子どもたちはみな踊る』(新潮文庫)

p116 僕たちの寿命と神のいやがらせ 更年期という問題は、いたずらに寿命をのばしすぎた人類への、神からの皮肉な警告(あるいはいやがらせ)に違いないと、さつきはあらためて思った。 つい百年ちょっと前まで人間の平均寿命は五十歳にも達していなかった…

村上春樹 『東京奇譚集』(新潮文庫)

p16-7 人間以外の物事に、人への憎しみはない 僕はオカルト的な事象には関心をほとんど持たない人間である。占いに心を惹かれたこともない。わざわざ占い師に手相を見てもらいに行くくらいなら、自分の頭をしぼって何とか問題を解決しようと思う。決して立…

村上春樹 『職業としての小説家』(新潮文庫)3/3

海外へ積極的に出ていく p314-7 僕の本は、米国とアジア以外の国で、まず火がついたのはロシアと東欧でした。それが徐々に西進し、西欧に移っていきました。1990年代半ばのことです。実に驚くべきことですが、ロシアのベストセラー・リスト10位の半分くら…

村上春樹 『職業としての小説家』(新潮文庫)2/3

小説を書くのはどこまでも個人的でフィジカルな営み p193-6 小説家の基本は物語を語ることです。そして物語を語るというのは、言い換えれば、意識の下部に自ら下っていくということです。心の闇の底に下降していくことです。大きな物語を語ろうとすればす…

村上春樹 『回転木馬のデッドヒート』(講談社文庫)

子供がスポイルされるということはどういうことなのか。それを調べる場合、親が普通の職業についている女の子を調査対象にすると、数が大きすぎるので得られる結論は深度が浅く、女性週刊誌の読者アンケート結果みたいなものになりやすい。 そこで村上は「有…

村上春樹 『やがて哀しき外国語』(講談社文庫)

村上春樹は1991年の初めから2年半、ニュージャージー州のプリンストンに住み、プリンストン大学の東洋文学科で、半分研究学生のような半分教員のような生活をしながら、長編小説を書いていたようだ。どの作品か調べればすぐにわかると思うが、それはたぶん『…

村上春樹 『辺境・近境』(新潮文庫)

ノモンハンの鉄の墓場 p167-8 ぼく(村上)が強くこの戦争に惹かれるのは、この戦争の成り立ちがあまりにも日本人的であったからではないだろうか。 もちろん太平洋戦争の成り立ちや経緯だって、大きな意味合いではどうしようもなく日本人的であるのだが、…

村上春樹 『アフターダーク』(講談社文庫)

場所は大都市の片隅。自室でただ眠り続ける美人の姉。ファミレスで本を読んで夜をやり過ごす妹。ラブホテルで中国人の女を襲うごく普通に見える変質者。何年か前、ヤクザを裏切って背中に焼き印を押され、日本中を逃げ回っているラブホテルの従業員。登場人…

プルースト 『失われた時を求めて 13・14 見出された時』(岩波文庫)13/13

第13巻の4分の1ほどで、読む根気がとうとう尽きてしまった。14巻の本文は全く読まず、吉川教授の簡単な「まえがき」と詳細な「あとがき」を斜め読みした。 「まえがき」によれば、本作の大団円となるゲルマント大公邸における午後のパーティ描写から最終巻は…

★プルースト 『失われた時を求めて12 消え去ったアルベルチーヌ』(岩波文庫)12/13

本篇冒頭で、「私」の「囚われの女」だったアルベルチーヌが出奔してしまう。本篇は600ページを超す長大なものだが、その半分以上が不在となった恋人をめぐる「私」の心中の苦悶の描写にあてられている。縺れ合ってほぐせない大きな漁網か、捻転した小腸…

★プルースト 『失われた時を求めて 11 囚われの女2』(岩波文庫)11/13

「私」は、やっとの思いで手に入れて、いまは自分の家に囲っているアルベルチーヌを、じつは少女時代からゴモラ(男も愛せるレズビアン)ではないかと深く深く疑っている。疑いの間接的な証拠は実際にいくつもあるのだが、これでもかこれでもかと読まされる…

★プルースト 『失われた時を求めて 10 囚われの女』(岩波文庫)10/13

バルベックの保養地で見初め、「私」がやっとの思いで手に入れた美しい少女アルベルチーヌ。本巻は、そのアルベルチーヌがバルベックで一瞬そぶりを見せたようにやはりレズビアンなのではないか、あるいは男も悪くないと思ってパリのどこかで会っているので…

★プルースト 『失われた時を求めて 9 ソドムとゴモラⅡ』(岩波文庫)9/13

前の巻に続いて主要登場人物のソドム(男性同性愛)とゴモラ(女性同性愛)が語られる。いま小説で同性愛を書いても何も新鮮味はないが、プルーストの時代では社会の「良識派」が指弾の標的にするスキャンダルであり、貴族であれば表向きの社交界から招待状…

★プルースト 『失われた時を求めて 8 ソドムとゴモラ Ⅰ』(岩波文庫)8/13

長大な『失われた時を求めて』の半分をようやく越えた。読むのはたいへんだが、トルストイ『戦争と平和』と違って読者に対する説教臭さがみじんもないのがありがたい。 『ソドムとゴモラ』はその名の通りソドム(男性同性愛)とゴモラ(女性同性愛)が中心テ…

★プルースト 『失われた時を求めて 7 ゲルマントのほうⅢ』(岩波文庫)7/13

この第7巻は、主人公「私」をめぐる人間関係が前の第6巻とはかなり変わってしまったところから始まる。「私」をあれほどかわいがってくれた祖母が亡くなって数か月がたっており、「私」は祖母を思い出して気がふさぐこともほとんどなくなっている。第1・第2…

★プルースト 『失われた時を求めて 6 ゲルマントのほうⅡ』(岩波文庫)6/13

この巻は全14巻の中で本文380ページほどと特別に「薄く」、外見だけはとっつきやすそうだ。だがそのうち前半の300ページほどは、わずか2、3時間のお茶会で繰り広げられる、「私」をふくめた上流貴族社会のばかばかしい戯画で塗りたくられている。訳…

★マルセル・プルースト 『失われた時を求めて 5 第三篇 ゲルマントのほう Ⅰ』5/13

pu p187 夢と覚醒について プルースト(1871~1922年)はフロイトと同時代の人なのだが、フロイトの『夢判断』(1900年)は読んでいなかったらしく、眠りと覚醒を精神錯乱と復活ととらえていた。当時はそれがまだ一般的には「進んだ認識」だった。プルース…

★プルースト 「失われたときを求めて 4 第二篇花咲く乙女たちのかげにⅡ」(岩波文庫)4/13

全14巻の4冊目!前途ははるかに遠い!訳者・吉川一義氏は刊行前の約束どおり、半年に一冊必ず出してくる。頭がたれる力業である。ノルマンディー海岸でのリゾート生活を描いたこの巻は本文だけで650ページを超える大冊だが、主人公の「私」の意識の流れ方に…

プルースト 『失われたときを求めて 3 第二篇 花咲く乙女たちのかげに スワン夫人をめぐって』(岩波文庫)3/13

翻訳者・吉川一義氏によれば、岩波文庫版全十四巻のうち読者がもっとも苦労するのが第三巻に当たる本巻らしい。スワンとオデットの娘であるジルベルトへの「私」の恋心と自意識が全巻を覆いつくしていて、その全長何千メートルもある蛇のような自意識の流れ…

プルースト 『失われた時を求めて』 第一篇「スワン家のほうへⅠ」1/13(2013年9月26日分の再録)

昔、新潮社・井上究一郎訳の8巻本を買って読み始めたわたしもそうだったが、『失われた時を求めて』を読もうとする人は最初の10ページほどで挫折する。岩波文庫の今回の新訳でいうと、有名な「ながいこと私は早めに寝むことにしていた」という書き出しか…

プルースト 『失われたときを求めて 2 第一篇「スワン家のほうへⅡ(スワンの恋)』」2/13

p404-14 この巻においてスワンの中でオデットが決定的に変貌し、穏やかな情愛で愛される女性になる。もちろん数十ページ前からその準備は巧みに描かれているのだし、次の篇でスワンがオデットと結婚するのだから、この変貌は予想されていたのだが・・・。…

村上春樹 『職業としての小説家』(新潮文庫)1/3

スラスラ読んでいくうちに読者をいつの間にか謎の井戸の中に引き込んでしまう、平明さと不可解なメタファーが同居する村上春樹独特の文体。彼はそれをどうやって自分のものにしたのか。 40年近く小説を書いてきた職業人としての身上書であるこの本には、その…