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R・リーキー 『ヒトはどうして人間になったか』(岩波現代選書)1/2

著者リチャード・リーキーは1972年に東アフリカ・トゥルカナ湖畔で有名なホモ・ハビリス(ハビリスとは「器用な人」の意味)の化石を発見し世界的有名人になったルイス・リーキーとメアリー・リーキー夫妻の二男。人類最古の時代についての両親のいくつかの…

養老孟司・茂木健一郎 『スルメをみてイカがわかるか!』(角川新書21)

例えば絆(きずな)という言葉がある。広辞苑の少し古い(第4)版には、第一義として<動物を繋ぎとめる綱>とあり、第二義として<離れがたい情実、ほだし、係累>とある。しかし21世紀に入って以降は第一義の意味で使うことはほとんどなくなり、とくに…

杉浦明平 『小説渡辺崋山』(朝日新聞社)

私たちが「渡辺崋山」に対して持っている高校生の受験日本史的な知識はどのあたりが平均点だろうか。江戸後期の武士であり有名な画家だったが、晩年は高野長英らとともにヨーロッパ列強との融和・通商の必要を説いた。しかしその開明性が幕府保守派の怒りに…

アラン・シリトー 『土曜の夜と日曜の朝』(新潮文庫)

いわゆる悪党(ピカレスク)ロマン。しかし主人公アーサーは悪党ではあるが犯罪者ではない。第二次大戦終わって間もないのに今度はアメリカとソ連が怪しくなる。モスクワに水爆が落とされてなにもかもおさらばになっちゃかなわない。その前にしがない人生を…

ロバート・ゴダード 『千尋の闇』(創元社推理文庫)

2週間前の本ブログでぼくは本作はすでに紹介済みだとしていた。ところがこれは勘違いだった。 本作はイギリス中上流階級の3世代にわたる陰謀と裏切りの複雑きわまりないミステリー。20世紀初頭に南アフリカで起きた重婚詐欺が数年のちの内務大臣(A)の更迭…

ウィングフィールド 『フロスト始末』 創元推理文庫

6作品、9巻にわたって楽しませてくれたウィングフィールドの遺作である。上下巻あわせて約900ページ。これまでの作品と同じように、この『フロスト始末』 にも数々の変態的な犯罪が、読者がその場を目撃しているかのような迫真の描写力で描かれている。…

ロバート・ゴダード 『蒼穹のかなたへ』 文春文庫

これまで僕が読んだロバート・ゴダードは、デュ・モーリア『レベッカ』をさらに不気味にしたような超傑作『リオノーラの肖像』、著名な経済名士家系を翻弄する詐欺師の天才ぶりに読者が唖然としてしまう『欺きの家』、実名で動き回るロイド・ジョージやチャ…

村上春樹 『騎士団長殺し』(新潮社)

村上春樹は、展開の卓抜さでも登場人物の語り口の意味の深さでも、他の作家に後を追おうという気をなくさせる力量を持つ。『1Q84』以来ちょうど7年ぶりの長編だが、現実世界の座標をほんの少しだけずらしたメタファーの時空間を舞台にしているのは、『1Q84』…

福岡伸一 『福岡伸一、西田哲学を読む』(明石書房)

福岡伸一が、自身の「動的平衡」論をメインモチーフにして、池田善昭という西田幾多郎研究者と「生命とは何か」を語り合った対談本。20歳以上も年長である池田氏に敬意を表して、福岡が池田氏に西田哲学の生命論を教えてもらい、そこから動的平衡論が西田…

夏目漱石 『道草』(筑摩書房)

未完に終わった遺作『明暗』の前に書かれた自伝的要素の濃い作品。亡くなる2年ほど前のもの。養子に出された自分の生い立ちや身の回りの人々の欲望の世界を、細かい写実画のように描いている。漱石がときどき強い筆先で批判した自然主義派の作風をこの時だけ…

夏目漱石 『行人』(角川 漱石全集10)

小説の体裁をとりながら「個人」と「世界」についての漱石の哲学をストレートに著した作品。100年以上前の朝日新聞に連載したものだが、大半の朝日読者にとっては不人気だっただろう。いまでも文庫本では、漱石の作品としては格段に重版の数が少ないのではな…

ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史』(河出書房新社)7/7

下巻 第20章 超ホモ・サピエンスの時代へ p247-9 このさき、脳内配線にわずかな変異が起きるとすると、 サピエンスはいったい何になろうと望むだろう ロシアと日本と韓国の科学者から成るチームが最近、シベリアの氷の中で発見された古代のマンモスのゲノム…

ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史』(河出書房新社)6/7

下巻 第14章 無知の発見と近代科学の成立 P59-61 近代科学は、人間がいろいろなことに無知であることを公に認める。 この無類の知的伝統が、「世界理解」に至るための基本的な足がかりになった。 近代の科学革命は、知識の革命ではなかった。何よりも、無知…

ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史』(河出書房新社)5/7

下巻 第13章 歴史の必然と謎めいた選択 p43-48 歴史は、予測が原理的にできない二次のカオス系である グローバルな社会の出現が必然的だというのは、その最終産物が、いま私たちが手にしたような特定の種類のグローバルな社会でなくてはならなかったという…

ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史』(河出書房新社)4/7

上巻 第6章 神話による社会の拡大 p136-42 サピエンスは、ネアンデルタール人と近縁のホモ属が、 ただ無目的に進化しただけのもの 紀元前1776年、バビロニアの王ハンムラビは当時の正義と公正のあり方を示したハンムラビ法典を、楔形文字を石柱に刻んで残し…

ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史』(河出書房新社)3/7

上巻 第3章 狩猟採集民の豊かな暮らし p69-70 狩猟採集時代の平均的サピエンスの脳は われわれ定住社会のサピエンスの脳よりも大きかった サピエンスの集団はたいていの生息環境では、融通をきかせ、うまく現地にあわせた食生活を送った。シロアリを探し回…

ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史』(河出書房新社)2/7

上巻 第2章 言語による虚構の獲得が協力を可能にした p35-50 ネアンデルタール人は1対1の喧嘩には強かったが 情報がモノを言う集団の戦争には弱かった 7万年前から3万年前の間に、たまたま遺伝子の突然変異が起こり、サピエンスの脳内の配線が変わったらし…

ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史』(河出書房新社)1/7

昂奮しながら本を読んだのは久しぶりだ。 原著には a brief history of humankind(概説人類史)という副題が付いているが、内容を正しくいえば、日本語副題のとおり「文明の構造と人類の幸福」である。数年前に本書が出たことは知っていたが、サピエンスの…

夏目漱石 『それから』(角川 漱石全集7)

『それから』は1908年作『三四郎』の翌年に書かれた。だから『それから』は小川三四郎の人生がそれからどうなったかを描いたものであるという人がいる。が、これはまったく間違っている。両作品は牛と馬ほどに違うことを書いている。 まだ江戸時代である…

最相葉月 『絶対音感』(新潮文庫)

絶対音感とは、ごく簡単にいうと、例えば440ヘルツに調律されたピアノのA音(ラの音)を基準にして、そこからすべての音を正確に聞き分けられ、楽器でも声でも再現できる能力のことだそうだ。完璧な絶対音感を身につけた人は、街中のさまざまな雑音の中か…

木村尚三郎  『西欧文明の原像』(講談社学術文庫)3/3

自分以外のすべてに対する不信感こそ、西欧の力の源泉 P251-258 権力を掌握する者は悪いことをする、彼らを信じきることは破滅を意味する。人はそれぞれ自分で自分の身体・生命・財産を守らなければならない、ーーこれが16・17世紀の宗教戦争期以…

木村尚三郎 『西欧文明の原像』(講談社学術文庫)2/3

ウマイヤ朝ムスリムが紹介するまで、西ヨーロッパはアリストテレスを知らなかった p77-9、86-9 西ヨーロッパがプラトンやアリストテレスを知ったのは12世紀のことであり、それもスペイン・ウマイヤ朝のイスラム教徒を介してのことだった。ウマイヤ朝の首…

木村尚三郎 『西欧文明の原像』(講談社学術文庫)1/3

いまのアメリカは、「西欧の精神」の露骨な見本帳だといえる p46-8 欧米人にとって戦争は、長いあいだほとんど唯一の、そして確実なコミュニケーションの手段そのものだった。今日なお、その意味は失われていない。 欧米の文化はまさに戦士の文化であり、一…

シュテファン・ツヴァイク 『マリー・アントワネット』(岩波文庫)

ナチスドイツによって永遠に葬り去られた古きよきヨーロッパ。社会上層の教養主義がまだ本来の意味で生きていた時代への愛惜を、ツヴァイクは脱出先の南米のホテルで何の資料も持たずに、ただ驚くべき記憶力だけを頼りに、『昨日の時代』として一気に書き上…

木村尚三郎 『歴史の発見』(中公新書)

歴史を学ぶとき、今までのような古代・中世・近世・近代・現代といった時代区分ははたして有効なのか。現代の自分たちの世界は、はたしてそのような順序をたどって変化してきたのか。 著名な西ヨーロッパ文明史家である著者は、その時代の人々が自分の生きる「…

村上春樹 『国境の南、太陽の西』(講談社文庫)

男性には直感的に見とおすことのできない「女性性」というものの――そんなものがあるとすればだが――奥深さ。村上春樹が初期のころから書いてきて、特に若い年代の読者から支持を受けてきたテーマが、この本でも甘く、せつない長編抒情詩になって繰り返されて…

村上春樹 『風の歌を聴け』(講談社文庫)

村上春樹30歳のデビュー作。冒頭や後書きも含めて何度か、村上自身が「最も影響を受けた作家」としてデレク・ハートフィールドという架空の人間が登場する。登場のさせ方が巧妙なので、村上のことをよく知らない人は実在の作家だと思ってしまう。 それはとも…

フリーマントル 『別れを告げに来た男』(新潮文庫)

亡命・スパイ小説の傑作。1983年4月、私がサラリーマンをやめる前後に読んだものの35年ぶりの再読。10年以内にソ連がなくなるとはだれも予想していないときだった。 主人公アンドレイ・パーヴェルはまだ十分に強大だったソ連の宇宙ロケット開発の絶対的…

アレクサンドル・デュマ 『モンテ・クリスト伯』(岩波文庫)

近代小説史上最大&最高のエンタテインメント作品。 ボナパルト派と王党派の陰謀に巻き込まれ、冤罪で14年間地下牢に閉じ込められたエドモン・ダンテス。その彼が、同じく入牢中だったイタリアの老司祭からモンテ・クリスト島に隠された巨万の財宝のことを教…

ゾラ 『居酒屋』(新潮文庫)

牧師、売春婦、洗濯女、豚肉屋、門番、小間使い、労働者・・・・・、パリの最下層の男たち女たちがひどい貧困と汚濁の中で、他人の幸福を妬み、不幸を哄笑し、安すぎる賃金を呪い、くず肉のスープを水増しして食べ、強い火酒で喉をただれさせ、夫は隣の娘を…