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アガサ・クリスティ 『終りなき夜に生れつく』(ハヤカワ文庫)

善良に見えた主人公Aがじつは子供のころから犯罪性精神障害を示していた男だったという話。そういう人をアガサ・クリスティは「終りなき夜に生まれついた人」と名づけた。 Aは物欲が異常にはげしく、昔、学校仲間の少年がしているいい腕時計が欲しくてたまら…

レマルク 『西部戦線異状なし』(新潮文庫)

第一次大戦の若いドイツ兵は、学校の教師から強制的に志願させられた未成年が多かったという。その若者が、訓練中に古参下士官からいじめられ、新兵のうちに最前線で機関銃になぎ倒され、2、3年たつとずるくなって生き延びるようになるが結局は同じように…

バーバラ・W・タックマン 『八月の砲声』上(ちくま学芸文庫)

第一次世界大戦の西部戦線の激戦地はフランスだった。ドイツは150万の全軍を7軍に分け第1・第2・第3の主力3軍団をベルギー経由で反時計回りに動かす「シュリーフェン計画」をもってパリを攻略しようと考えていた。一方フランスは同じ150万を5軍…

白井聡 『永続敗戦論』(太田出版)3/3

p167-9 昭和天皇が吉田内閣を飛び越して、米軍の日本駐留継続を直接訴えかけた 1996年、豊下楢彦は著書『安保条約の成立――吉田外交と天皇外交』によって、それまで広く共有されてきた歴史認識を大きく更新した。共有されてきた歴史認識とは 「1951…

白井聡 『永続敗戦論』(太田出版)2/3

p130-3 TPP交渉における従属構造 1970年代から基本的には衰退し始めた米国経済は、市場経済の新自由主義化と金融バブル許容化によって延命を図ってきた。TPP戦略はその戦略のひとつである。多数の識者が指摘するように、保険・医療・金融・農業といった諸分…

白井聡 『永続敗戦論』(太田出版)1/3

衆愚政治のまんなかにいる安倍晋三とその一派への怒りを、気鋭の政治思想家・白井聡がマジになって書いた。2013年のベストセラーになった。 白井の「永続敗戦」とは、①事あるごとに「戦後民主主義」に対する不平を言い立て、戦前的価値観への共感を隠さ…

丸山真男 『「文明論の概略」を読む』中(岩波新書)2/2

第11講 徳育の過信と宗教的狂熱について p213-18 宗教的狂信の精神構造 ギゾー『ヨーロッパ文明史』とともに福沢の『文明論之概略』の思想的下敷きとなったバックル『イングランド文明史』のなかで、バックルはフランス、スペインでの宗教裁判、異端審問…

丸山真男 『「文明論の概略」を読む』中(岩波新書)1/2

第8講 歴史を動かすもの 中巻 p49-51 p58-9 福沢は言います。<古より英雄豪傑の士君子、時に遇ふ者、極めてまれなり。・・・・孔子も時に遇はずと云ひ、孟子もまたしかり。道真は筑紫に謫せられ、楠正成は湊川に死し、これらの例は枚挙にいとまあらず。>…

バートランド・ラッセル 『西洋哲学史 3 哲学上の自由主義』(みすず書房)

イギリスが「名誉革命」をなしとげた1688年前後の政治思想状況を簡潔にまとめた一章。贅言を用いない文章の内側に、超一級の頭脳に恵まれたバートランド・ラッセル卿らしい皮肉とユーモアが隠されている。 p593-6 17世紀に発達したロマン主義の精神運動は、…

生田耕作 『ダンディズム』ーー栄光と悲惨(中公文庫)

著者の生田耕作教授は非常にダンディなかただった。1924年、料亭の板前長を父として京都・祇園に生まれ、あの南座を遊び場にして育ったという。しかし京都は爆撃こそされなかったが、暮らし全般を覆う軍国主義が「国家=負なるもの」のイメージを繊細な…

セリーヌ 『夜の果てへの旅』(中公文庫)

表があるから裏があるというのがこの世界だと思うのだが、セリーヌはこの途方もなく暗い小説の中で人性と人生の裏面だけを狂ったように描く。およそ小説作品というものの中に、なんらかのポジティブなものを見出したい人は、上下2巻のこの長編を読み通すには…

國分功一郎 『民主主義を直感するために』(晶文社)

p239・256 沖縄・辺野古周辺で行われているカヌーや漁船の抗議行動に対して、海上保安庁は激しい排除行為をしている。海上保安庁はゴムボートでカヌーに体当たりして転覆させるとかするのだが、そのゴムボートは、「ゴム」とは名ばかりでトラックのタイヤの…

佐伯啓思 『さらば、資本主義』(新潮新書)2/2

第八章 アメリカ経済学の傲慢 p157-65 経済学の本格的な研究書でありながら大ベストセラーになった『21世紀の資本』。著者のフランス人経済学者トマ・ピケティは、自国で博士課程を終えた22歳のときアメリカのMITに職を得ます。経済学者としてはめったに得…

佐伯啓思 『さらば、資本主義』(新潮新書)1/2

第二章 朝日新聞のなかの「戦後日本」p35-49 2014年6月末、安倍政権が集団的自衛権についての従来の政府見解見直しを決めたころのことです。朝日新聞の東京・大阪本社版に、「制服向上委員会」なる「肩書き」をもった15歳女子高校生のインタビュー記事がの…

加藤周一 『日本人の死生観』(岩波新書)2/2

三島由紀夫――仮面の戦後派 下巻 p176-8 私(加藤)は太平洋戦争直後、戦後世代の作家たちが同席している場所で、何回か三島にあったことがある。当時の印象では、三島は非常に小さく、やせぎすで、眼が大きく、態度は神経質でぎこちないところがある一方、…

加藤周一 『日本人の死生観』(岩波新書)1/2

近代日本知識人の「自分の死」に関する考え方を、乃木希典、森鴎外、中江兆民、河上肇、正宗白鳥、三島由紀夫の6人を選んで、ケーススタディとして述べた本。そのうち特に興味深かった乃木希典と三島由紀夫について――二人はともに割腹自殺した――いくつかのパ…

シェイクスピア 『リチャード三世』(新潮文庫)

『リチャード三世』はシェイクスピアにとっては初期の習作にすぎなかったということだが、客入りや出版では大評判をとっていたらしい。1594年の初演に使われた四折り本が1623年の最初のシェイクスピア全集までに六度も版を重ねているそうだ。その人気の理由…

シェイクスピア 『ジュリアス・シーザー』(ちくま文庫)

この芝居、タイトルが『ジュリアス・シーザー』だから、シーザーが主役かと思っていたら違った。シーザーはただの殺され役だ。主役は『アントニーとクレオパトラ』でクレオパトラに溺れたあげく、オクタビアヌスに大敗して自殺したアントニーである。自分の…

中沢新一 『レヴィ=ストロース・野生の思考』(NHK100分de名著)

「NHK100分de名著」とは、「世界の名著を読もう」的な教養番組のための薄い教科書シリーズ。地デジ2チャンネルで放送されているらしい。そのうちの一冊である中沢新一氏のこの本をたまたま本屋で見つけ、パラパラめくっていたら、あの難しいレヴィ=ストロ…

丸山真男 『「文明論の概略」を読む』上(岩波新書)2/3

第3講 西洋文明の進歩とは何か――野蛮と半開 上巻 p104、 106−7 「御殿女中根性」が幅効かせる半文明化社会 福沢は幕末維新期の日本を野蛮期と文明期の中間段階にあるとしています。特色ある考えではないのですが用いられている言い方が興味深い。とくに社…

丸山真男 『「文明論の概略」を読む』上(岩波新書)3/3

第5講 国体・政統・血統―――国体の定義 上巻 p167-8 幕末・維新期は西欧列強の帝国主義政策によって日本の独立が激しく揺さぶられたときでもありました。いわゆる「国体」の維持をめぐる大変な時期です。この「国体」という言葉ほど、日本の近代を通じてお…

丸山真男 『「福沢諭吉・文明論の概略」を読む』上(岩波新書)1/3

名著の30年ぶりの再読。今の政治学者、メディアの論説家は「一党派に与せず」を臆面もなく旗印にする。その結果はもちろんメディア露出度の高い体制を擁護することになる。体制は、たまには失言したりするものの、たいていは耳触りのいい表現で時局を説明…

丸山真男 『開国』(岩波・著作集第八巻)

「絆」と「和」は社会が閉じていることを表すキーワードである 開国とは、国家がいろいろな意味で「閉じた社会」の状態から「開いた社会」の状態に移ることを意味する。そして「国家」はその成員のすべての団体――藩であれ県であれ、会社であれ町内会であれ、…

カミュ 『転落』(新潮文庫)

『転落』が出されたのは1956年のこと。「革命か反抗か」というサルトルとの有名な論争の4年後である。この論争で、哲学者でないカミュは、サルトルの切れ味鋭く容赦ない論理の力に完全に打ちのめされた。論争は西欧人特有の「歴史」観をめぐるものだった…

カミュ 『ペスト』(新潮文庫)

学生以来の再読。ペストとはナチズムのことだとして読むと分かりやすい。学生の頃、ハナ・アーレントの本はまったく知らなかったからそのような視点は持つことができなかった。 (アイヒマンのような)ごく陳腐な人間が方法的に組織されたとき未曽有の悪を実…

ロバート・ゴダード 『欺きの家』(講談社文庫)

1954年生まれのベストセラー作家ロバート・ゴダードの23作目ということ。この年齢ではじめて知った『リオノーラの肖像』はあのデュ・モーリア『レベッカ』の謎をもうひとすじ深くしたようなゴシック・ロマンだった。 本作『欺きの家』はこれと違ってイギリス…

ロバート・ゴダード 『リオノーラの肖像』(文春文庫)

「ゴシック・ロマンの本場のミステリー小説とはこういうものである」と、作者が誇らしげに胸を張っているかのよう。訳者の言葉をかりれば、「過去形でなく現在形でやり取りされる会話のやり取りに、何か得体のしれない大きな秘密が隠されているといった不気…

デュ・モーリア 『レベッカ』(新潮文庫)

『レベッカ』は高校の文学史の勉強で必ず覚えなければならない小説のタイトルだった。作者ダフネ・デュ・モーリアはその姓からわかるようにもともとはフランスの家系。フランス革命期にイギリスにわたったいわゆる逃亡貴族出身の女性である。 この小説は最初…

池澤夏樹 『氷山の南』(文春文庫)

南極大陸から海へせり出した1億トンの巨大な氷山をオーストラリアまで曳航しようとする「冒険小説」。南極海で氷山を探す探査船の名はシンディバード。アラビアンナイトに出てくる船乗りシンドバッドのアラビア名だ。 読み始めたとき、1億トンの巨大な氷山…

池澤夏樹 『光の指で触れよ』(中公文庫)

2011年の作品。2015年アマゾンで買ったのだが届いたのはまだ初版だった。著者にしては不人気の作品なのだろう。 著者はこの作品で未成年の子供を持つ夫婦の家庭内の役割のあり方という、解決しようのないことというか、保守派の私から見ればそんなことは問題…