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村上春樹 『職業としての小説家』(新潮文庫)3/3

海外へ積極的に出ていく p314-7 僕の本は、米国とアジア以外の国で、まず火がついたのはロシアと東欧でした。それが徐々に西進し、西欧に移っていきました。1990年代半ばのことです。実に驚くべきことですが、ロシアのベストセラー・リスト10位の半分くら…

村上春樹 『職業としての小説家』(新潮文庫)2/3

小説を書くのはどこまでも個人的でフィジカルな営み p193-6 小説家の基本は物語を語ることです。そして物語を語るというのは、言い換えれば、意識の下部に自ら下っていくということです。心の闇の底に下降していくことです。大きな物語を語ろうとすればす…

村上春樹 『回転木馬のデッドヒート』(講談社文庫)

子供がスポイルされるということはどういうことなのか。それを調べる場合、親が普通の職業についている女の子を調査対象にすると、数が大きすぎるので得られる結論は深度が浅く、女性週刊誌の読者アンケート結果みたいなものになりやすい。 そこで村上は「有…

村上春樹 『やがて哀しき外国語』(講談社文庫)

村上春樹は1991年の初めから2年半、ニュージャージー州のプリンストンに住み、プリンストン大学の東洋文学科で、半分研究学生のような半分教員のような生活をしながら、長編小説を書いていたようだ。どの作品か調べればすぐにわかると思うが、それはたぶん『…

村上春樹 『辺境・近境』(新潮文庫)

ノモンハンの鉄の墓場 p167-8 ぼく(村上)が強くこの戦争に惹かれるのは、この戦争の成り立ちがあまりにも日本人的であったからではないだろうか。 もちろん太平洋戦争の成り立ちや経緯だって、大きな意味合いではどうしようもなく日本人的であるのだが、…

村上春樹 『アフターダーク』(講談社文庫)

場所は大都市の片隅。自室でただ眠り続ける美人の姉。ファミレスで本を読んで夜をやり過ごす妹。ラブホテルで中国人の女を襲うごく普通に見える変質者。何年か前、ヤクザを裏切って背中に焼き印を押され、日本中を逃げ回っているラブホテルの従業員。登場人…

プルースト 『失われた時を求めて 13・14 見出された時』(岩波文庫)13/13

第13巻の4分の1ほどで、読む根気がとうとう尽きてしまった。14巻の本文は全く読まず、吉川教授の簡単な「まえがき」と詳細な「あとがき」を斜め読みした。 「まえがき」によれば、本作の大団円となるゲルマント大公邸における午後のパーティ描写から最終巻は…

★プルースト 『失われた時を求めて12 消え去ったアルベルチーヌ』(岩波文庫)12/13

本篇冒頭で、「私」の「囚われの女」だったアルベルチーヌが出奔してしまう。本篇は600ページを超す長大なものだが、その半分以上が不在となった恋人をめぐる「私」の心中の苦悶の描写にあてられている。縺れ合ってほぐせない大きな漁網か、捻転した小腸…

★プルースト 『失われた時を求めて 11 囚われの女2』(岩波文庫)11/13

「私」は、やっとの思いで手に入れて、いまは自分の家に囲っているアルベルチーヌを、じつは少女時代からゴモラ(男も愛せるレズビアン)ではないかと深く深く疑っている。疑いの間接的な証拠は実際にいくつもあるのだが、これでもかこれでもかと読まされる…

★プルースト 『失われた時を求めて 10 囚われの女』(岩波文庫)10/13

バルベックの保養地で見初め、「私」がやっとの思いで手に入れた美しい少女アルベルチーヌ。本巻は、そのアルベルチーヌがバルベックで一瞬そぶりを見せたようにやはりレズビアンなのではないか、あるいは男も悪くないと思ってパリのどこかで会っているので…

★プルースト 『失われた時を求めて 9 ソドムとゴモラⅡ』(岩波文庫)9/13

前の巻に続いて主要登場人物のソドム(男性同性愛)とゴモラ(女性同性愛)が語られる。いま小説で同性愛を書いても何も新鮮味はないが、プルーストの時代では社会の「良識派」が指弾の標的にするスキャンダルであり、貴族であれば表向きの社交界から招待状…

★プルースト 『失われた時を求めて 8 ソドムとゴモラ Ⅰ』(岩波文庫)8/13

長大な『失われた時を求めて』の半分をようやく越えた。読むのはたいへんだが、トルストイ『戦争と平和』と違って読者に対する説教臭さがみじんもないのがありがたい。 『ソドムとゴモラ』はその名の通りソドム(男性同性愛)とゴモラ(女性同性愛)が中心テ…

★プルースト 『失われた時を求めて 7 ゲルマントのほうⅢ』(岩波文庫)7/13

この第7巻は、主人公「私」をめぐる人間関係が前の第6巻とはかなり変わってしまったところから始まる。「私」をあれほどかわいがってくれた祖母が亡くなって数か月がたっており、「私」は祖母を思い出して気がふさぐこともほとんどなくなっている。第1・第2…

★プルースト 『失われた時を求めて 6 ゲルマントのほうⅡ』(岩波文庫)6/13

この巻は全14巻の中で本文380ページほどと特別に「薄く」、外見だけはとっつきやすそうだ。だがそのうち前半の300ページほどは、わずか2、3時間のお茶会で繰り広げられる、「私」をふくめた上流貴族社会のばかばかしい戯画で塗りたくられている。訳…

★マルセル・プルースト 『失われた時を求めて 5 第三篇 ゲルマントのほう Ⅰ』5/13

pu p187 夢と覚醒について プルースト(1871~1922年)はフロイトと同時代の人なのだが、フロイトの『夢判断』(1900年)は読んでいなかったらしく、眠りと覚醒を精神錯乱と復活ととらえていた。当時はそれがまだ一般的には「進んだ認識」だった。プルース…

★プルースト 「失われたときを求めて 4 第二篇花咲く乙女たちのかげにⅡ」(岩波文庫)4/13

全14巻の4冊目!前途ははるかに遠い!訳者・吉川一義氏は刊行前の約束どおり、半年に一冊必ず出してくる。頭がたれる力業である。ノルマンディー海岸でのリゾート生活を描いたこの巻は本文だけで650ページを超える大冊だが、主人公の「私」の意識の流れ方に…

プルースト 『失われたときを求めて 3 第二篇 花咲く乙女たちのかげに スワン夫人をめぐって』(岩波文庫)3/13

翻訳者・吉川一義氏によれば、岩波文庫版全十四巻のうち読者がもっとも苦労するのが第三巻に当たる本巻らしい。スワンとオデットの娘であるジルベルトへの「私」の恋心と自意識が全巻を覆いつくしていて、その全長何千メートルもある蛇のような自意識の流れ…

プルースト 『失われた時を求めて』 第一篇「スワン家のほうへⅠ」1/13(2013年9月26日分の再録)

昔、新潮社・井上究一郎訳の8巻本を買って読み始めたわたしもそうだったが、『失われた時を求めて』を読もうとする人は最初の10ページほどで挫折する。岩波文庫の今回の新訳でいうと、有名な「ながいこと私は早めに寝むことにしていた」という書き出しか…

プルースト 『失われたときを求めて 2 第一篇「スワン家のほうへⅡ(スワンの恋)』」2/13

p404-14 この巻においてスワンの中でオデットが決定的に変貌し、穏やかな情愛で愛される女性になる。もちろん数十ページ前からその準備は巧みに描かれているのだし、次の篇でスワンがオデットと結婚するのだから、この変貌は予想されていたのだが・・・。…

村上春樹 『職業としての小説家』(新潮文庫)1/3

スラスラ読んでいくうちに読者をいつの間にか謎の井戸の中に引き込んでしまう、平明さと不可解なメタファーが同居する村上春樹独特の文体。彼はそれをどうやって自分のものにしたのか。 40年近く小説を書いてきた職業人としての身上書であるこの本には、その…

シュテファン・ツヴァイク 『ジョゼフ・フーシェ』(岩波文庫)2/2

p329-32 1815年、エルバ島を脱出しパリに凱旋した「100日天下」当時のナポレオンは、運命の回り合わせで名前だけが皇帝であったにすぎなかった。しかるに彼の傍らにいるフーシェは、まさにこの時代こそ、あぶらの乗った最中だった。刀のように鋭い切れ味を…

シュテファン・ツヴァイク 『ジョゼフ・フーシェ』(岩波文庫)1/2

大革命時代のフランスに興味のある人ならジョゼフ・フーシェという名前は聞いたことがあるかもしれない。あるいはタレーランやメッテルニヒといった一筋縄ではとてもくくれない権謀術数の外交家にちかい人物ではなかったかと、それくらいのぼんやりした記憶…

シュテファン・ツヴァイク 『三人の巨匠』(みすず書房)2/2

ディケンズ ディケンズの作品は伝統の中に安住しようとする イギリス国民の無意識の意志が芸術と化したものである p59-61 イギリスという国の伝統は、フランスがフランス人に対するよりも、ドイツがドイツ人に対するよりも、微細な血管の網目をとおして、あ…

シュテファン・ツヴァイク 『三人の巨匠』(みすず書房)1/2

バルザック、ディケンズ、ドストエフスキーという19世紀の大文豪三人について、その人となりや作品について、それぞれ50~100ページで簡潔にまとめて一冊にしたもの。本としては最後にモンテーニュもおまけとしてついている。 「評伝のツヴァイク」ら…

丸谷才一 『輝く日の宮』(講談社)

『源氏物語』の前半にある『薄雲』の巻で、前の中宮・藤壺は37歳の美しい盛りにあって死の床に就いている。そしてしだいに途切れがちになる意識の中で、かつてあのように自分を慕ってくれた源氏への思いがよみがえる。「あの若い日に、局の御簾や几帳に紛れ…

高橋和巳 『堕落』(新潮文庫)

高橋和巳はつくづくメランコリーの人、鬱の人だと思う。 主人公・青木は第2次大戦中に満州・関東軍の参謀本部に所属していたことがある。そのせいで満州国の総務庁職員や拓務省の参議、清朝の遺臣と親交があった人物たちと交流がある。しかし青木自身は右翼…

村上春樹 『ダンス・ダンス・ダンス』講談社文庫

大ベストセラー『ノルウェイの森』の次に書かれた作品。長編小説としては6作目、1988年刊。 おなじみの羊男が出てきて主人公・僕が異界と関わるときの媒介役になる。羊男が何ものであるのかを知るためにも、『羊をめぐる冒険』を先に読んでおいた方がいいか…

村上春樹 『1973年のピンボール』(講談社文庫)

連合赤軍が警察機動隊に踏みつぶされた浅間山荘事件は1972年のことだった。その前から学生の全共闘各派は内ゲバを繰り返して衰退し、一般市民の共感を完全に失っていた。そして日本封建制の優性遺伝子を持つ彼らは、戦中の学徒動員を真似て雨中の大行進を東…

村上春樹 『遠い太鼓』(講談社文庫)

村上春樹は40歳前、初期のベストセラー『ノルウェイの森』と『ダンス・ダンス・ダンス』をヨーロッパで書いたらしい。二つの作品はおもにイタリアで書いたということだが、原稿を書きながらときどき近隣の国や地方を旅したり、執筆用に借りた家の付近で泳…

池澤夏樹 『切符をなくして』(角川文庫)

よくできた童話であるといっていい。小学校高学年以上には読めるだろう。ネタバレになるからストーリー紹介はよすが、終わりのほうに死とは何かを子供に説明する面白い場面がある。 「人の心はね、小さな心の集まりからできているの。その小さな心をとりあえ…