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フォークナー 『八月の光』(新潮文庫)

南北戦争前後のアラバマ、ミシシッピといった南部諸州。下層の白人は、人口の上でもどんどん増えてくるたくましい黒人を、貧しくなるいっぽうの親の仇であり、エイリアンであると思っていたかもしれない。そんな、荒っぽく粗野なアメリカの原風景が、熱い八…

田中 修 『植物はすごい』(中公新書)

身近な多くの植物について、酷暑地や厳寒地でも成長できる秘密、さまざまな毒を持って身を守っていること、病気になるのを防ぐ体内機構など、中学高校生などの生物好きが読んだら熱中するに違いない内容が、易しすぎるほどの文章で丁寧に綴られている。 p13…

マルグリット・ユルスナール 『ハドリアヌス帝の回想』(白水社)2/2

詩人・歌人でもある訳者・多田智満子は「解説」でハドリアヌスの一生をこう略述する。 プブリウス・エリウス・ハドリアヌス 76年1月24日生 138年7月10日死 スペイン出身のローマ皇帝。異常な多才の人。軍人・旅行家、かつ有能な行政家。文学・哲学に心を傾け…

マルグリット・ユルスナール 『ハドリアヌス帝の回想』(白水社)1/2

西暦37年に自殺に追い込まれた暴君ネロから半世紀後、ローマ帝国には5賢帝時代という約100年間にわたる穏やかな繁栄の時代があった。いわゆる「パックス・ロマーナ」(ローマの力を背景にした平和)の時代だ。 第2次大戦後の現在の相対的な平和をパック…

アンジェイェフスキ 『灰とダイヤモンド』(岩波文庫)

ナチスドイツが無条件降伏した1945年5月初旬。その数日間にポーランドで、ソ連帰順派と自由独立派がともに正義を語ろうとして希望のないテロと報復を続ける。 ふつうの日本人がポーランドについて知っていることはわずかだ。個人としては、ショパン以外…

伊東光晴 『ガルブレイス』(岩波新書)

2006年に亡くなった大経済学者ガルブレイスは、「いい政治」は経済を一般市民にとって過酷でない方向にリードできる、とずっと考え続けた。 1930年代、ニューディールという実効性のある政策によって社会が大恐慌から立ち直るさまを、経済学の学生・研究生と…

田中史生 『国際交易の古代列島』(角川選書)

古代日本の政治と交易のかかわりを、闊達自在な文章で論旨明解に描ききった歴史書。卑弥呼の時代から平安初期までの膨大な史料を読み込み、かつ多くの研究者の仮説を丁寧に紹介しながら、それらを本書の道筋の強化にたくみに活用している。 他人の学説や自説…

アガサ・クリスティ 『ゼロ時間へ』(ハヤカワ文庫)

重い、軽い、いろいろな地位、境遇の多彩な登場人物、場面展開の適度な速さ、読者に名人芸の嫌味を感じさせない謎解きの論理・・・・・・、一定の水準を維持しながら何十年にもわたって100冊を超えるサスペンスをよくも書けたものだ、といつも思う。しか…

アガサ・クリスティ 『終りなき夜に生れつく』(ハヤカワ文庫)

善良に見えた主人公Aがじつは子供のころから犯罪性精神障害を示していた男だったという話。そういう人をアガサ・クリスティは「終りなき夜に生まれついた人」と名づけた。 Aは物欲が異常にはげしく、昔、学校仲間の少年がしているいい腕時計が欲しくてたまら…

レマルク 『西部戦線異状なし』(新潮文庫)

第一次大戦の若いドイツ兵は、学校の教師から強制的に志願させられた未成年が多かったという。その若者が、訓練中に古参下士官からいじめられ、新兵のうちに最前線で機関銃になぎ倒され、2、3年たつとずるくなって生き延びるようになるが結局は同じように…

バーバラ・W・タックマン 『八月の砲声』上(ちくま学芸文庫)

第一次世界大戦の西部戦線の激戦地はフランスだった。ドイツは150万の全軍を7軍に分け第1・第2・第3の主力3軍団をベルギー経由で反時計回りに動かす「シュリーフェン計画」をもってパリを攻略しようと考えていた。一方フランスは同じ150万を5軍…

白井聡 『永続敗戦論』(太田出版)3/3

p167-9 昭和天皇が吉田内閣を飛び越して、米軍の日本駐留継続を直接訴えかけた 1996年、豊下楢彦は著書『安保条約の成立――吉田外交と天皇外交』によって、それまで広く共有されてきた歴史認識を大きく更新した。共有されてきた歴史認識とは 「1951…

白井聡 『永続敗戦論』(太田出版)2/3

p130-3 TPP交渉における従属構造 1970年代から基本的には衰退し始めた米国経済は、市場経済の新自由主義化と金融バブル許容化によって延命を図ってきた。TPP戦略はその戦略のひとつである。多数の識者が指摘するように、保険・医療・金融・農業といった諸分…

白井聡 『永続敗戦論』(太田出版)1/3

衆愚政治のまんなかにいる安倍晋三とその一派への怒りを、気鋭の政治思想家・白井聡がマジになって書いた。2013年のベストセラーになった。 白井の「永続敗戦」とは、①事あるごとに「戦後民主主義」に対する不平を言い立て、戦前的価値観への共感を隠さ…

丸山真男 『「文明論の概略」を読む』中(岩波新書)2/2

第11講 徳育の過信と宗教的狂熱について p213-18 宗教的狂信の精神構造 ギゾー『ヨーロッパ文明史』とともに福沢の『文明論之概略』の思想的下敷きとなったバックル『イングランド文明史』のなかで、バックルはフランス、スペインでの宗教裁判、異端審問…

丸山真男 『「文明論の概略」を読む』中(岩波新書)1/2

第8講 歴史を動かすもの 中巻 p49-51 p58-9 福沢は言います。<古より英雄豪傑の士君子、時に遇ふ者、極めてまれなり。・・・・孔子も時に遇はずと云ひ、孟子もまたしかり。道真は筑紫に謫せられ、楠正成は湊川に死し、これらの例は枚挙にいとまあらず。>…

バートランド・ラッセル 『西洋哲学史 3 哲学上の自由主義』(みすず書房)

イギリスが「名誉革命」をなしとげた1688年前後の政治思想状況を簡潔にまとめた一章。贅言を用いない文章の内側に、超一級の頭脳に恵まれたバートランド・ラッセル卿らしい皮肉とユーモアが隠されている。 p593-6 17世紀に発達したロマン主義の精神運動は、…

生田耕作 『ダンディズム』ーー栄光と悲惨(中公文庫)

著者の生田耕作教授は非常にダンディなかただった。1924年、料亭の板前長を父として京都・祇園に生まれ、あの南座を遊び場にして育ったという。しかし京都は爆撃こそされなかったが、暮らし全般を覆う軍国主義が「国家=負なるもの」のイメージを繊細な…

セリーヌ 『夜の果てへの旅』(中公文庫)

表があるから裏があるというのがこの世界だと思うのだが、セリーヌはこの途方もなく暗い小説の中で人性と人生の裏面だけを狂ったように描く。およそ小説作品というものの中に、なんらかのポジティブなものを見出したい人は、上下2巻のこの長編を読み通すには…

國分功一郎 『民主主義を直感するために』(晶文社)

p239・256 沖縄・辺野古周辺で行われているカヌーや漁船の抗議行動に対して、海上保安庁は激しい排除行為をしている。海上保安庁はゴムボートでカヌーに体当たりして転覆させるとかするのだが、そのゴムボートは、「ゴム」とは名ばかりでトラックのタイヤの…

佐伯啓思 『さらば、資本主義』(新潮新書)2/2

第八章 アメリカ経済学の傲慢 p157-65 経済学の本格的な研究書でありながら大ベストセラーになった『21世紀の資本』。著者のフランス人経済学者トマ・ピケティは、自国で博士課程を終えた22歳のときアメリカのMITに職を得ます。経済学者としてはめったに得…

佐伯啓思 『さらば、資本主義』(新潮新書)1/2

第二章 朝日新聞のなかの「戦後日本」p35-49 2014年6月末、安倍政権が集団的自衛権についての従来の政府見解見直しを決めたころのことです。朝日新聞の東京・大阪本社版に、「制服向上委員会」なる「肩書き」をもった15歳女子高校生のインタビュー記事がの…

加藤周一 『日本人の死生観』(岩波新書)2/2

三島由紀夫――仮面の戦後派 下巻 p176-8 私(加藤)は太平洋戦争直後、戦後世代の作家たちが同席している場所で、何回か三島にあったことがある。当時の印象では、三島は非常に小さく、やせぎすで、眼が大きく、態度は神経質でぎこちないところがある一方、…

加藤周一 『日本人の死生観』(岩波新書)1/2

近代日本知識人の「自分の死」に関する考え方を、乃木希典、森鴎外、中江兆民、河上肇、正宗白鳥、三島由紀夫の6人を選んで、ケーススタディとして述べた本。そのうち特に興味深かった乃木希典と三島由紀夫について――二人はともに割腹自殺した――いくつかのパ…

シェイクスピア 『リチャード三世』(新潮文庫)

『リチャード三世』はシェイクスピアにとっては初期の習作にすぎなかったということだが、客入りや出版では大評判をとっていたらしい。1594年の初演に使われた四折り本が1623年の最初のシェイクスピア全集までに六度も版を重ねているそうだ。その人気の理由…

シェイクスピア 『ジュリアス・シーザー』(ちくま文庫)

この芝居、タイトルが『ジュリアス・シーザー』だから、シーザーが主役かと思っていたら違った。シーザーはただの殺され役だ。主役は『アントニーとクレオパトラ』でクレオパトラに溺れたあげく、オクタビアヌスに大敗して自殺したアントニーである。自分の…

中沢新一 『レヴィ=ストロース・野生の思考』(NHK100分de名著)

「NHK100分de名著」とは、「世界の名著を読もう」的な教養番組のための薄い教科書シリーズ。地デジ2チャンネルで放送されているらしい。そのうちの一冊である中沢新一氏のこの本をたまたま本屋で見つけ、パラパラめくっていたら、あの難しいレヴィ=ストロ…

丸山真男 『「文明論の概略」を読む』上(岩波新書)2/3

第3講 西洋文明の進歩とは何か――野蛮と半開 上巻 p104、 106−7 「御殿女中根性」が幅効かせる半文明化社会 福沢は幕末維新期の日本を野蛮期と文明期の中間段階にあるとしています。特色ある考えではないのですが用いられている言い方が興味深い。とくに社…

丸山真男 『「文明論の概略」を読む』上(岩波新書)3/3

第5講 国体・政統・血統―――国体の定義 上巻 p167-8 幕末・維新期は西欧列強の帝国主義政策によって日本の独立が激しく揺さぶられたときでもありました。いわゆる「国体」の維持をめぐる大変な時期です。この「国体」という言葉ほど、日本の近代を通じてお…

丸山真男 『「福沢諭吉・文明論の概略」を読む』上(岩波新書)1/3

名著の30年ぶりの再読。今の政治学者、メディアの論説家は「一党派に与せず」を臆面もなく旗印にする。その結果はもちろんメディア露出度の高い体制を擁護することになる。体制は、たまには失言したりするものの、たいていは耳触りのいい表現で時局を説明…