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セリーヌ 『夜の果てへの旅』(中公文庫)

表があるから裏があるというのがこの世界だと思うのだが、セリーヌはこの途方もなく暗い小説の中で人性と人生の裏面だけを狂ったように描く。およそ小説作品というものの中に、なんらかのポジティブなものを見出したい人は、上下2巻のこの長編を読み通すには…

國分功一郎 『民主主義を直感するために』(晶文社)

p239・256 沖縄・辺野古周辺で行われているカヌーや漁船の抗議行動に対して、海上保安庁は激しい排除行為をしている。海上保安庁はゴムボートでカヌーに体当たりして転覆させるとかするのだが、そのゴムボートは、「ゴム」とは名ばかりでトラックのタイヤの…

佐伯啓思 『さらば、資本主義』(新潮新書)2/2

第八章 アメリカ経済学の傲慢 p157-65 経済学の本格的な研究書でありながら大ベストセラーになった『21世紀の資本』。著者のフランス人経済学者トマ・ピケティは、自国で博士課程を終えた22歳のときアメリカのMITに職を得ます。経済学者としてはめったに得…

佐伯啓思 『さらば、資本主義』(新潮新書)1/2

第二章 朝日新聞のなかの「戦後日本」p35-49 2014年6月末、安倍政権が集団的自衛権についての従来の政府見解見直しを決めたころのことです。朝日新聞の東京・大阪本社版に、「制服向上委員会」なる「肩書き」をもった15歳女子高校生のインタビュー記事がの…

加藤周一 『日本人の死生観』(岩波新書)2/2

三島由紀夫――仮面の戦後派 下巻 p176-8 私(加藤)は太平洋戦争直後、戦後世代の作家たちが同席している場所で、何回か三島にあったことがある。当時の印象では、三島は非常に小さく、やせぎすで、眼が大きく、態度は神経質でぎこちないところがある一方、…

加藤周一 『日本人の死生観』(岩波新書)1/2

近代日本知識人の「自分の死」に関する考え方を、乃木希典、森鴎外、中江兆民、河上肇、正宗白鳥、三島由紀夫の6人を選んで、ケーススタディとして述べた本。そのうち特に興味深かった乃木希典と三島由紀夫について――二人はともに割腹自殺した――いくつかのパ…

シェイクスピア 『リチャード三世』(新潮文庫)

『リチャード三世』はシェイクスピアにとっては初期の習作にすぎなかったということだが、客入りや出版では大評判をとっていたらしい。1594年の初演に使われた四折り本が1623年の最初のシェイクスピア全集までに六度も版を重ねているそうだ。その人気の理由…

シェイクスピア 『ジュリアス・シーザー』(ちくま文庫)

この芝居、タイトルが『ジュリアス・シーザー』だから、シーザーが主役かと思っていたら違った。シーザーはただの殺され役だ。主役は『アントニーとクレオパトラ』でクレオパトラに溺れたあげく、オクタビアヌスに大敗して自殺したアントニーである。自分の…

中沢新一 『レヴィ=ストロース・野生の思考』(NHK100分de名著)

「NHK100分de名著」とは、「世界の名著を読もう」的な教養番組のための薄い教科書シリーズ。地デジ2チャンネルで放送されているらしい。そのうちの一冊である中沢新一氏のこの本をたまたま本屋で見つけ、パラパラめくっていたら、あの難しいレヴィ=ストロ…

丸山真男 『「文明論の概略」を読む』上(岩波新書)2/3

第3講 西洋文明の進歩とは何か――野蛮と半開 上巻 p104、 106−7 「御殿女中根性」が幅効かせる半文明化社会 福沢は幕末維新期の日本を野蛮期と文明期の中間段階にあるとしています。特色ある考えではないのですが用いられている言い方が興味深い。とくに社…

丸山真男 『「文明論の概略」を読む』上(岩波新書)3/3

第5講 国体・政統・血統―――国体の定義 上巻 p167-8 幕末・維新期は西欧列強の帝国主義政策によって日本の独立が激しく揺さぶられたときでもありました。いわゆる「国体」の維持をめぐる大変な時期です。この「国体」という言葉ほど、日本の近代を通じてお…

丸山真男 『「福沢諭吉・文明論の概略」を読む』上(岩波新書)1/3

名著の30年ぶりの再読。今の政治学者、メディアの論説家は「一党派に与せず」を臆面もなく旗印にする。その結果はもちろんメディア露出度の高い体制を擁護することになる。体制は、たまには失言したりするものの、たいていは耳触りのいい表現で時局を説明…

丸山真男 『開国』(岩波・著作集第八巻)

「絆」と「和」は社会が閉じていることを表すキーワードである 開国とは、国家がいろいろな意味で「閉じた社会」の状態から「開いた社会」の状態に移ることを意味する。そして「国家」はその成員のすべての団体――藩であれ県であれ、会社であれ町内会であれ、…

カミュ 『転落』(新潮文庫)

『転落』が出されたのは1956年のこと。「革命か反抗か」というサルトルとの有名な論争の4年後である。この論争で、哲学者でないカミュは、サルトルの切れ味鋭く容赦ない論理の力に完全に打ちのめされた。論争は西欧人特有の「歴史」観をめぐるものだった…

カミュ 『ペスト』(新潮文庫)

学生以来の再読。ペストとはナチズムのことだとして読むと分かりやすい。学生の頃、ハナ・アーレントの本はまったく知らなかったからそのような視点は持つことができなかった。 (アイヒマンのような)ごく陳腐な人間が方法的に組織されたとき未曽有の悪を実…

ロバート・ゴダード 『欺きの家』(講談社文庫)

1954年生まれのベストセラー作家ロバート・ゴダードの23作目ということ。この年齢ではじめて知った『リオノーラの肖像』はあのデュ・モーリア『レベッカ』の謎をもうひとすじ深くしたようなゴシック・ロマンだった。 本作『欺きの家』はこれと違ってイギリス…

ロバート・ゴダード 『リオノーラの肖像』(文春文庫)

「ゴシック・ロマンの本場のミステリー小説とはこういうものである」と、作者が誇らしげに胸を張っているかのよう。訳者の言葉をかりれば、「過去形でなく現在形でやり取りされる会話のやり取りに、何か得体のしれない大きな秘密が隠されているといった不気…

デュ・モーリア 『レベッカ』(新潮文庫)

『レベッカ』は高校の文学史の勉強で必ず覚えなければならない小説のタイトルだった。作者ダフネ・デュ・モーリアはその姓からわかるようにもともとはフランスの家系。フランス革命期にイギリスにわたったいわゆる逃亡貴族出身の女性である。 この小説は最初…

池澤夏樹 『氷山の南』(文春文庫)

南極大陸から海へせり出した1億トンの巨大な氷山をオーストラリアまで曳航しようとする「冒険小説」。南極海で氷山を探す探査船の名はシンディバード。アラビアンナイトに出てくる船乗りシンドバッドのアラビア名だ。 読み始めたとき、1億トンの巨大な氷山…

池澤夏樹 『光の指で触れよ』(中公文庫)

2011年の作品。2015年アマゾンで買ったのだが届いたのはまだ初版だった。著者にしては不人気の作品なのだろう。 著者はこの作品で未成年の子供を持つ夫婦の家庭内の役割のあり方という、解決しようのないことというか、保守派の私から見ればそんなことは問題…

宮本常一 『家郷の訓』(岩波文庫)

宮本常一は明治40年に山口県の田舎に生まれ、17歳で大阪に出て、20歳を過ぎてから小学校の教員に採用された人である。その人が民俗学に興味を持ち32歳から日本全国を旅して、当時すでに失われつつあった草莽の民の生活を丹念に拾い上げ、まさに地に…

シェイクスピア 『マクベス』(福田恒存訳・新潮文庫)

1606年初演。マクベスは11世紀初めに実在したスコットランドの有力武将。当時、イングランドはフランス・ノルマンディー公・ウィリアムの支援を受けたアングロ・サクソン王朝のエドワード懺悔王が統治していた。シェイクスピア活躍の約500年前の時代である。…

シェイクスピア 『ヘンリー八世』(小田島雄志訳・白水Uブックス)

シェイクスピアの歴史劇の中で『ヘンリー八世』は『ヘンリー四世』、『リチャード三世』に次いで観客の入りがいいが作品らしい。読んでも楽しめる。 1613年に書かれ初演されたとされている。1613年といえば生涯独身を通したあのエリザベス一世の没後10年の年…

ホッブズ 『リヴァイアサン』(岩波文庫)

ホッブズは1588年に生まれ1679年に死んだ。つまり、政治ではエリザベス1世からクロムウェルのピューリタン革命期を経て議会君主制へ、宗教ではローマカトリックから英国国教会へと、国の形が大きく変わろうとしているときに、成年してからのすべて…

[阿部謹也 『中世賤民の宇宙』(ちくま学芸文庫)2/2

p317−8 メルヘンは、「人間に内面が存在しなかった時代」に生まれた 古代、中世ゲルマンの民間伝説に由来するものが多いグリムのメルヘンは、ほとんど例外なしに個人という小宇宙から大宇宙を垣間見たものである。 メルヘンの主人公は基本的にはひとり旅を…

阿部謹也 『中世賤民の宇宙』(ちくま学芸文庫)1/2

P53 抽象的「時間」は中世にはじめて生まれた 水時計、砂時計、火時計は、水が流れ、砂がこぼれ落ち、蝋燭が燃えるという地球上の物理量の変化によって時の経過を測る。この意味で水時計や砂時計や火時計は「地球的時間」の尺度である。これに対し11世紀に発…

[谷崎潤一郎 『少将滋幹の母』(新潮文庫)

これを名作と言わないでどうしようというほどの名作。厖大な史料を踏まえ、古語、漢語をたくさん使いながら平明で読みやすく流れるような叙述は読者に時間を忘れさせる。 中下級貴族などは人とも思わない権勢家左大臣時平、歴史上有名な好色男・平中、滋幹の…

谷崎潤一郎 『春琴抄』(講談社全集)

「谷崎潤一郎が美しいと考えるもの」が前面に出た中編。47歳のときの作。「女性がもつ、この世界で他と比較できない美しさ」の前には、その女性の人となりの高慢とか残酷とかはどうでもいいことである、男と生まれたからには美しく気品ある女性には必ず跪…

大嶋幸範 『国民の象徴の憲法違反行為』

去年夏、天皇がなるべく早く退位したい旨をテレビで表明された。大震災に遭った避難家族を膝を折って慰める天皇の姿に感動していた国民は、ほとんどが賛意を示した。それを受けて退位を根拠づける特別法も近々成立するようで、退位後の称号や住まいまで既定…

大嶋幸範 『原発賠償費用を電気代にこっそり上乗せ』(朝日新聞投稿原稿)

2月27日付本紙一面に「福島原発の賠償費 1世帯年587〜1484円を電気代に上乗せ 負担額は検針票には示されておらず、利用者の目には届かない」とあった。 被害者に対する賠償の必要は理解できる。国や東電が巨額賠償に対する資金を短期的には用意できず、一般…

谷崎潤一郎 『盲目物語』(講談社現代文学全集)

46歳のときの作。信長の妹、浅井長政の妻、淀君の母であるお市の方。その美貌の人の悲しい生涯を、按摩として彼女に長く仕えた弥市という座頭が、後年なじみの肩もみ客相手に語った体裁になっている。弥市は三味音曲の心得もあって長政にもお市にも贔屓にさ…

森鴎外 『大塩平八郎』(昭和出版社 鴎外作品集第5巻)

天保8年(1837年)、大坂町奉行所の与力・大塩平八郎は、米の値段が騰貴し、貧民が難渋しているときに乱を起こした。この暴動の原因はただ一つ、飢饉である。 天保3年(1832年)頃から天候が長期的に不順になり、ひどい不作が続いた。天保7年の作…

森鴎外 『阿部一族・堺事件など』(昭和出版社 鴎外作品集第4巻)

この巻には、ほかにいくつかの短編が入っている。その一つ『羽鳥千尋』では、羽鳥という青年に私淑され、書生として居候させてくれと頼まれる(鴎外自身らしい)「私」の、小学校以来の大秀才ぶりが詳しく書かれている(p63-4にかけて)。鴎外のことだから…

森鴎外 『青年』(昭和出版社 鴎外作品集第3巻)

日本が近代化して半世紀、新しい文学を新しい頭脳で開こうとする若者の芸術論と、時代などでは変わらない恋ごころが、どちらも正面から扱われる。鴎外48歳、1910年の刊行。漱石の『三四郎』(1908年、42歳)に大いに触発されて書いたものらしい…

ミシェル・ウェルベック 『地図と領土』(ちくま文庫)

ちまちました日本の作家には書けない、神を相手にしたことのある民族の子孫にしか書けない大傑作。 地図とは世界を今あるように作った「第一原因」の意図のままにあるところのものだが、領土とは、その「地図=無機質」世界を、意識によって分節・説明するこ…

ミシェル・ウェルベック 『プラットフォーム』(角川書店)

高級?ポルノ小説だ。えげつないセックス描写だけで読者を引っぱっているところがある。 半年前に読んだ『素粒子』はすばらしい作品だった。デカルト、パスカル、ヴァレリー、サルトルなどに短くも鋭く言及しながら圧倒的なストーリー構築力でヨーロッパ文明…

佐高 信・早野 透 『丸山真男と田中角栄』(集英社新書)

佐高信と早野透の対談本。丸山と田中に接点があったのか?と驚いて買ったが、そういうことではなかった。 早野透は元朝日新聞の記者。田中角栄という桁を外れた男に惚れこんで、新潟支局に志願転勤してまで角栄番を続けたらしい。『田中角栄 戦後日本の悲し…

米本昌平 『遺伝管理社会』(弘文堂)

ナチズムの異様さを「優生学」の側面から説こうとした本。優生学はこの間まで日本の公衆衛生学にも存在していた。 1989年に初版を読んだときは気づかなかったが、著者はこのテーマを書こうとした人にしてはハナ・アーレントを読んだ形跡がない。p171に…

池澤夏樹 『すばらしい新世界』

ネパールの奥地にあるナムリンという2、30戸の小さな農村。そこに日本人技術者が数キロワットの小規模風力発電設備を作りに出かけるという物語。日本の家族論とそれを大きく包む日本的資本主義論にもほんの少し触れている。 ヒマラヤ大山脈のふもとにあるナ…

池澤夏樹 『静かな大地』(朝日文庫)

日本の中世以来、アイヌは北へ北へと追いやられた。江戸時代には、アイヌは松前藩という北海道での産物徴収権だけを持つ不思議な藩に収奪しつくされ、飢餓と貧困の淵に追いやられていた。 明治になると、黒田清隆が北海道開拓使となって以来、事態はいっそう…

宮崎市定 『西アジア遊記』(中公文庫)2/2

十字軍はアラブの高度文明をねたんだローマ法王の国家的テロである p220-1 イスラムの諸帝国は、いかにイスラム教を信心する念が深かったとはいえ、他宗教に対する態度は後世史家の指摘するごとく熱狂的ではなく、むげに他宗教を迫害する行動には出なかった…

宮崎市定 『西アジア遊記』(中公文庫)1/2

オスマントルコでは、白人の地位は黒人とあまり違わなかった p41 トルコ共和国 オスマントルコの近衛兵は主としてバルカン地方の白人傭兵で組織していた。ちょっと考えると、ヨーロッパの白人が甘んじてトルコ王室の傭兵となって、これに忠義を尽くしたのは…

谷崎潤一郎 『細雪』(角川文庫)2/2

幸子の夫・貞之助も、妻と同じような愚痴と嘆きと恨みと疑いがいっしょになって頭の中に空転する男である。貞之助のモデルは谷崎自身だったから、谷崎のどっちつかずな女性的性格は相当なものだったのではないか。容易に物事を決めつけない、優しいといえば…

谷崎潤一郎 『細雪』(角川文庫)1/2

後期の長編。次はどうなるという読み物としての楽しみもふんだんに盛り込まれて、大文豪がさすがの力を見せつける。なんど映画化されたことか。 大阪船場じゅうに名を馳せた蒔岡家の美人四姉妹。その中の三女・雪子のいくつかの見合い話を中心にして、20世紀…

谷崎潤一郎 『蓼食ふ虫』(角川文庫)

男女関係のありように関する谷崎の特異な認識が書かれている。谷崎の後期作品はここから始まるというが、谷崎はもともと「蓼を食う」人だったのだろう。『痴人の愛』を38歳で書き、これは42歳のときの作。 主人公の二人・要と美佐子夫婦は結婚して10年ほど…

ミシェル・ウェルベック 『服従』(河出書房新社)

2022年のフランス大統領選挙でイスラム政権が誕生するという近未来の政治・文明論小説。第一回投票では極右・ファシストの国民戦線候補が一位、イスラム同胞党が二位になるのだが、決選投票で国民は<ファシストよりはイスラムの方がまだまし>と考えた結果…

ピエール・ルメートル 『死のドレスを花婿に』(文春文庫)

男女二人の主人公がいる。男の主人公フランツは深刻な双極性感情障害(いわゆる躁うつ病)を患っている。母親サラも過去同じ病気にかかっていた。彼女が幼いときに両親がナチの強制収容所に送られ、そこで死亡したことに重大な影響を被ったものだった。 フラ…

ピエール・ルメートル 『天国でまた会おう』上下(ハヤカワ文庫)

第一次大戦後、フランスで起きた(かもしれない)大規模な戦没兵士墓地をめぐるスキャンダルの話。2013年の新しい作品。 冒頭に、自分の立身しか頭にない貴族の中尉が登場する。自軍を無理やり前進させるために、「敵軍だ!」と嘘を叫びながら、敵の流れ…

ガルシア・マルケス 『エレンディラ』(岩波文庫)

ガルシア・マルケスは南米コロンビアのノーベル賞作家。下の三つの断片のように、およそ超常現象的なことを、こういうことが起きるのが南米の大地だとして、時に望遠レンズ風な、時に顕微鏡レンズ風な文体で、なにくわぬ顔をして描く。 ラテンアメリカの、北…

ホルヘ・ルイス・ボルヘス 『七つの夜』(野谷 文昭訳)(岩波文庫)

千一夜物語とは、この世の物語には果てがない、という意味。 p82-3 『千一夜物語』がはじめてヨーロッパ語に翻訳されたことは、ヨーロッパのあらゆる文学にとって、最大のできごとだった。当時、18世紀初頭のフランス文学は、自分たちの修辞法が東洋の侵入…