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ハナ・アーレント

ハナ・アーレント 「イェルサレムのアイヒマン」 7

p214 (アイヒマンに絞首刑を宣告するアーレントの、煮えたぎる怒りを冷静に抑え込んだ「判決文」) あなたは、最終的解決におけるあなたの役割はたまたまにすぎず、どんな人間でもあなたの代わりにやれた、潜在的にはほとんどすべてのドイツ人が同罪である…

ハナ・アーレント 「イェルサレムのアイヒマン」 6

p173 アイヒマンの公判には、強制収容所の過酷な状況を証言する証人が八十二人いた。これらのほとんどは個々の事実については具体的証明のできない「全般状況証人」だった。うち五十三人はアイヒマンがなんの権限も持たなかったポーランドとリトアニアから…

ハナ・アーレント 「イェルサレムのアイヒマン」 5

p121 古代ローマ以来、ヨーロッパ史を通して、ユダヤ人は悲惨においても栄光においてもヨーロッパ国民共同体に属していた。過去五世紀は栄光の機会もきわめて多く、ユダヤ人なきヨーロッパは西欧や中欧では想像が難しかった。 ヨーロッパ諸国民の形成と国民…

ハナ・アーレント 「イェルサレムのアイヒマン」 4

p84 ナチは、絶滅収容所の殺害者部隊に、自分の行為に快感を覚えるような人間が選ばれないよう、周到な方法をとった。その絶滅収容所の指揮官には、ナチ最上層の人間が、学位を持つSSエリートたちを直接選抜した。彼ら指揮官の頭にあるのは(ヨーロッパ大…

ハナ・アーレント 「イェルサレムのアイヒマン」 3

p55 「客観性」に対するドイツ人のかたくなな性癖は有名である。アイヒマンのドイツ人弁護人セルヴァティウス博士はイェルサレム裁判の口頭弁論の中で 「問題は殺すということであり、生命に関することなのだから、政治的な事柄ではなく医学上の問題なので…

ハナ・アーレント 「イェルサレムのアイヒマン」 2

p32 勉強が苦手でほとんど本を読まず父親を嘆かせていたアイヒマンは、シオニズム運動のさきがけとなったヘルツルの『ユダヤ人国家』を読んでたちまちで心酔し、自分が「理想主義者」であることを発見してしまった。理想主義者とはアイヒマンによれば、自分…

ハナ・アーレント 「イェルサレムのアイヒマン」 1

p4 (第二次大戦直後時点での)イスラエル家族法制では、国内でのユダヤ人と非ユダヤ人の結婚は認めていない。外国で行われた結婚は認められるが、生まれた子供は私生児とされる。国内での、結婚していないユダヤ人同士の子供は嫡出とされる。非ユダヤ人を…

ハナ・アーレント 「人間の条件」 3

p304−8 政治とは、人間関係の網の目を取り結び、すべての布置を変える(言葉を含む)行為のすべてを指す。 p310 ある歴史過程は、ようやくその過程が終わったときのみに明らかにされ、場合によっては参加者全員が死んだあとでしか明らかにされない。少なく…

ハナ・アーレント 「人間の条件」 2

p105 愛や徳を見られ聞かれることから隠れようとするナザレ人イエスの直接の教えにあっては、善行は、それが知られ公になった途端、ただ善のためになされるという善の特殊な性格を失う。だから教会という公的機関がその役割を引き受けたとき、善はもはや善…

ハナ・アーレント 「人間の条件」 1

プロローグに誘われる言葉がある。 (たとえば四次元以上の空間や量子を扱う)科学的な世界認識の「真理」は、数式では証明できるのだが普通の言葉や思想には決して翻訳できない記述を内容としている。科学者は、言論がもはや力を失った世界の中を動いている…

ハナ・アーレント 「全体主義の起源」第二巻「帝国主義」 6

p216 大陸の政党の不幸は、一階級あるいは一集団の利害を国民全体あるいは全人類の利益とさえ一致すると証明しようとしたことだった。だから「ブルジョアジーの経済的膨張は歴史の進歩そのもの」であったり、プロレタリアートを人類の指導者と呼んだりした…

ハナ・アーレント 「全体主義の起源」第二巻「帝国主義」 5

p183 十九世紀の実証主義的進歩信仰はすべての人間は生まれながらに同等(同権でなく)であり、現実の差異は歴史的・社会的環境によるものにすぎないことを立証しようとした。環境と教育の改変と画一化によって人間を同等にすることは可能であるとした。 同…

ハナ・アーレント 「全体主義の起源」第二巻「帝国主義」 4

p146 帝国主義の支配形式に必要なものは、厳しい規律と高度の訓練と絶対的信頼性を具えた個人からなる有能な参謀本部である。この人々は虚栄や個人的や心から自由であるばかりでなく、業績に自分の名前が結び付けられることを願うことさえ放棄する覚悟がな…

ハナ・アーレント 「全体主義の起源」第二巻「帝国主義」 3

p89 イギリスにおいては、古い名門貴族と市民階級の中間にあったジェントリーがブルジョワジーの上層部をたえず同化し貴族化させていた。その結果、イギリス階級社会のきわめて硬直的な性格にもかかわらず、この国では貴族への上昇の可能性が開けていた。こ…

ハナ・アーレント 「全体主義の起源」第二巻「帝国主義」 2

p51 永久的膨張という帝国主義のありようは資本主義的生産自体の運動過程そのものであり、一時的な対外政策の冒険ではないとされた。(この言説は戦後日本の「平和主義者」が暴こうとしたような嘘の塊りではない。帝国主義が征服欲という政治的理念だけから…

ハナ・アーレント 「全体主義の起源」第二巻「帝国主義」 1

p5 労働運動は資本主義が展開する世界政策を深く理解できない。労働運動は本質的に国内政治に利害を持ち、闘争においては一国の枠内から抜けることができないから、労働者インターナショナルには基本的な矛盾がある。同品質のものが海外に低価格で存在する…

ハナ・アーレント 「全体主義の起源」第一巻「反ユダヤ主義 」 2

p128 自分の属する民族を裏切り、自分の出生を否認し、万人のための正義を捨てて個人的な特権を採ったという成りあがりものの後ろめたさは、十九世紀の半ば以来平均的なユダヤ人の複雑な心的傾向なるものの基底をなしていた。 誹謗される民族もしくは階級な…

ハナ・アーレント 「全体主義の起源」第一巻「反ユダヤ主義 」 1

p46 ユダヤ人は、国家の(絶対君主国家→国民国家→帝国主義国家と政体を変えていくといった)体制にかかわりなく、無条件に信頼できる唯一の社会層だった。 政体が変遷するとき、宮廷貴族、地方貴族、教会、軍人、商人、職人、農民などの各階級は、自らの利…

ハナ・アーレント 「全体主義の起源」第三巻「全体主義」 3

p189 全体主義はあらゆる国で暴威を振るうが、その国が独裁者の本国である場合、事態は最悪である。このとき彼らは、自国民に対して極悪な外国人征服者のようにふるまう。全体主義独裁者が傀儡政府を好む理由もここにある。傀儡支配者は自国において最も血…

ハナ・アーレント 「全体主義の起源」第三巻「全体主義」 2

p90−94 <シオンの賢者の議定書>というユダヤ人賛嘆の奇妙な文書がある。第一次大戦後ドイツで数十万部も刷られた。世界帝国の設立を考え、特定の国の革命については決して語らない。政治概念の中心にすえられているのは「民族」であり、人口では弱体で領…

ハナ・アーレント 「全体主義の起源」第三巻「全体主義」 1

二十世紀政治哲学の最大の著作といってもいい「全体主義の起源」は第三巻から読み始めるのがいいとされている。一・二巻を見なければ分からない概念はほとんど出てこない。彼女が告発する「我々が犯した史上最大の悪」は我々が我々である限り、これからもどこ…