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村上春樹

村上春樹 『街とその不確かな壁』 新潮社

今までの村上春樹の中で一番難解な小説。ではあるが、第三部を読み終えると、僕の魂の中で一番ストンと落ち着きどころが納得できた作品。 第三部になって主人公は自分の分身である「影」が実体化した「イエローサブマリンの少年」と邂逅し、少年が夢読みにと…

村上春樹 『1Q84』 (新潮社)

12年ぶりの再読。前回読んだときはプルースト『失われた時を求めて 』をまだ読んでいなかった。だから以下のようなことは言えなかった。それは、『1Q84』は村上春樹ならではの、とても分かりやすい、端正な文体で書いた『失われた時を求めて』ではないかとい…

村上春樹 『海辺のカフカ』(新潮社)

15歳の少年が不思議な世界を自分で遍歴しながら心の成長を遂げていく物語。ギリシャ悲劇のエディプス王の物語が一番の下敷きになっている。 2002年の発行年に一度読んでいるが、20年ぶりに読んだ今回はだいぶ印象が違った。前回は全体を強いセンチメンタリズ…

村上春樹 『ノルウェイの森』

1987年、2013年そして今年2021年と3度読んだ。私の大好きな感傷的リアリズム小説の最高峰と思う。今回は上下2巻を2日間で読んだ。 p223 直子が自殺を遂げた直後、「僕」が1か月間あちこちを放浪して彼女の死の衝撃に耐えようとしている箇所に少なからず揺さ…

村上春樹 『インタビュー集 夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』(文春文庫)2/2

<2005年>『夢の中から責任は始まる』 p361-2 文春編集部 地下鉄サリン事件の被害者を丁寧にインタビューしてそれをもとにまとめられた『アンダーグラウンド』で村上さんはこう書かれています。「私たちが今必要としているのは、おそらく新しい方向からや…

村上春樹 『インタビュー集 夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』(文春文庫)1/2

<1997年> 『アウトサイダー』p18-9 僕はポップカルチャーみたいなものに心を惹かれるんです。ローリング・ストーンズ、ドアーズ、デイビッド・リンチ、ミステリー小説。僕はだいたいにおいてエリーティズムというものが好きじゃないんです。ホラー映画も…

村上春樹 『約束された場所で』(文芸春秋)

1995年の地下鉄サリン事件の1年半後、村上春樹はごく普通の市民生活をしている62人の被害者に自ら直接取材した『アンダーグラウンド』という長大なインタビュー本を出している。相手の心情に極めて丁寧に配慮しながら、どんな状況で突然被害にあい、それがど…

村上春樹 『神の子どもたちはみな踊る』(新潮文庫)

p116 僕たちの寿命と神のいやがらせ 更年期という問題は、いたずらに寿命をのばしすぎた人類への、神からの皮肉な警告(あるいはいやがらせ)に違いないと、さつきはあらためて思った。 つい百年ちょっと前まで人間の平均寿命は五十歳にも達していなかった…

村上春樹 『東京奇譚集』(新潮文庫)

p16-7 人間以外の物事に、人への憎しみはない 僕はオカルト的な事象には関心をほとんど持たない人間である。占いに心を惹かれたこともない。わざわざ占い師に手相を見てもらいに行くくらいなら、自分の頭をしぼって何とか問題を解決しようと思う。決して立…

村上春樹 『職業としての小説家』(新潮文庫)3/3

海外へ積極的に出ていく p314-7 僕の本は、米国とアジア以外の国で、まず火がついたのはロシアと東欧でした。それが徐々に西進し、西欧に移っていきました。1990年代半ばのことです。実に驚くべきことですが、ロシアのベストセラー・リスト10位の半分くら…

村上春樹 『職業としての小説家』(新潮文庫)2/3

小説を書くのはどこまでも個人的でフィジカルな営み p193-6 小説家の基本は物語を語ることです。そして物語を語るというのは、言い換えれば、意識の下部に自ら下っていくということです。心の闇の底に下降していくことです。大きな物語を語ろうとすればす…

村上春樹 『回転木馬のデッドヒート』(講談社文庫)

子供がスポイルされるということはどういうことなのか。それを調べる場合、親が普通の職業についている女の子を調査対象にすると、数が大きすぎるので得られる結論は深度が浅く、女性週刊誌の読者アンケート結果みたいなものになりやすい。 そこで村上は「有…

村上春樹 『やがて哀しき外国語』(講談社文庫)

村上春樹は1991年の初めから2年半、ニュージャージー州のプリンストンに住み、プリンストン大学の東洋文学科で、半分研究学生のような半分教員のような生活をしながら、長編小説を書いていたようだ。どの作品か調べればすぐにわかると思うが、それはたぶん『…

村上春樹 『辺境・近境』(新潮文庫)

ノモンハンの鉄の墓場 p167-8 ぼく(村上)が強くこの戦争に惹かれるのは、この戦争の成り立ちがあまりにも日本人的であったからではないだろうか。 もちろん太平洋戦争の成り立ちや経緯だって、大きな意味合いではどうしようもなく日本人的であるのだが、…

村上春樹 『アフターダーク』(講談社文庫)

場所は大都市の片隅。自室でただ眠り続ける美人の姉。ファミレスで本を読んで夜をやり過ごす妹。ラブホテルで中国人の女を襲うごく普通に見える変質者。何年か前、ヤクザを裏切って背中に焼き印を押され、日本中を逃げ回っているラブホテルの従業員。登場人…

村上春樹 『職業としての小説家』(新潮文庫)1/3

スラスラ読んでいくうちに読者をいつの間にか謎の井戸の中に引き込んでしまう、平明さと不可解なメタファーが同居する村上春樹独特の文体。彼はそれをどうやって自分のものにしたのか。 40年近く小説を書いてきた職業人としての身上書であるこの本には、その…

村上春樹 『ダンス・ダンス・ダンス』講談社文庫

大ベストセラー『ノルウェイの森』の次に書かれた作品。長編小説としては6作目、1988年刊。 おなじみの羊男が出てきて主人公・僕が異界と関わるときの媒介役になる。羊男が何ものであるのかを知るためにも、『羊をめぐる冒険』を先に読んでおいた方がいいか…

村上春樹 『1973年のピンボール』(講談社文庫)

連合赤軍が警察機動隊に踏みつぶされた浅間山荘事件は1972年のことだった。その前から学生の全共闘各派は内ゲバを繰り返して衰退し、一般市民の共感を完全に失っていた。そして日本封建制の優性遺伝子を持つ彼らは、戦中の学徒動員を真似て雨中の大行進を東…

村上春樹 『遠い太鼓』(講談社文庫)

村上春樹は40歳前、初期のベストセラー『ノルウェイの森』と『ダンス・ダンス・ダンス』をヨーロッパで書いたらしい。二つの作品はおもにイタリアで書いたということだが、原稿を書きながらときどき近隣の国や地方を旅したり、執筆用に借りた家の付近で泳…

村上春樹 『ラオスにいったい何があるというんですか?』(文芸春秋)

p169-70 p251 本書のタイトルの「ラオスにいったい何があるというんですか?」は、僕が「これからラオスに行く」と言ったときに、中継地のハノイで、あるヴェトナム人から僕に向かって発せられた言葉です。ヴェトナムにない、いったい何がラオスにあると…

村上春樹 『騎士団長殺し』(新潮社)

村上春樹は、展開の卓抜さでも登場人物の語り口の意味の深さでも、他の作家に後を追おうという気をなくさせる力量を持つ。『1Q84』以来ちょうど7年ぶりの長編だが、現実世界の座標をほんの少しだけずらしたメタファーの時空間を舞台にしているのは、『1Q84』…

村上春樹 『国境の南、太陽の西』(講談社文庫)

男性には直感的に見とおすことのできない「女性性」というものの――そんなものがあるとすればだが――奥深さ。村上春樹が初期のころから書いてきて、特に若い年代の読者から支持を受けてきたテーマが、この本でも甘く、せつない長編抒情詩になって繰り返されて…

村上春樹 『風の歌を聴け』(講談社文庫)

村上春樹30歳のデビュー作。冒頭や後書きも含めて何度か、村上自身が「最も影響を受けた作家」としてデレク・ハートフィールドという架空の人間が登場する。登場のさせ方が巧妙なので、村上のことをよく知らない人は実在の作家だと思ってしまう。 それはとも…

村上春樹 『スプートニクの恋人』(講談社文庫)

1999年の作品。『羊をめぐる冒険』(1982年)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(1985年)、『ねじまき鳥クロニクル』(1993年)よりは後の作品であり、これに続いて『海辺のカフカ』(2002年)や『1Q84』(2009年)が書かれた。年譜的には…

村上春樹 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文芸春秋)2/2

若い男と女が数人ずつ出てくる恋愛小説だから、「嫉妬」ということが何度も語られる。以下は、上の「巡礼」譚とは直接には関係ない箇所だが、36歳の会社員になっている多崎つくるが、同年代の沙羅という女と親密な関係を持ちながら味わう「嫉妬」に似た感…

村上春樹 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文芸春秋)1/2

奇妙なタイトルの意味 主人公多崎つくるは名古屋の高校時代、男女2人ずつのとても親密な友人を持っていた。その4人の名字には赤、青、黒、白の文字が含まれていた。赤と青は男子生徒で、白と黒は女子生徒である。名前に色がついていないのは多崎だけだった…

村上春樹 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』2/2

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は村上春樹版 カフカの『城』である、という人もいるに違いない。 カフカの『城』には、読み続けることが困難になる 「とりつく島のなさ」 がある。城の役人が城下の人に対して過酷なことをするわけではない…

村上春樹 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』1/2

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は村上春樹が世界的作家となって二作目の長編である。 村上春樹が自分の作品に外国語への翻訳許可を与えたのは『羊をめぐる冒険』が最初だった。それまでの村上は、「音楽、とくにジャズに詳しく、日本の都市…

村上春樹 『ノルウェイの森』(講談社)

一九八七年、刊行の年に読んで以来だ。三九歳のときで、村上春樹は初めてだったと思う。大ベストセラーということで読んだのだろう。再読して、直子という主人公の恋人が(当時は精神分裂症と言われていた)統合失調症で自殺する話だということしか憶えてい…

村上春樹 「羊をめぐる冒険」 (講談社文庫)2/2

p105−6 「僕」と「相棒」の会話・・・この小説全体の「黒幕」について・・・「黒幕」は『1Q84』の柳屋敷の老婦人を男にし、もっと犯罪的右翼にしたものである。 相棒 「黒幕」は一九一三年に北海道で生まれ、小学校を出ると東京に出て転々と職を変え、右翼…