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TVから 「性染色体の衰弱とシーシェパード」

 男性の性決定染色体であるY染色体が北欧で徐々に不活発になっているという番組があった。オランダだったか、北ヨーロッパの局の制作だった。様々な化学合成物質の「環境ホルモン」作用ということだが、Y染色体がなくなるかもしれないのが五百万年後と聞いて、驚いた。
 人類がホモサピエンスになってたかだか二十万年である。その前のネアンデルタールは、アフリカのホモサピエンスが言語遺伝子獲得し、世界中に進出するにつれて、 (食糧獲得の競争に敗れ) 自然に淘汰された。言語遺伝子獲得という有利な突然変異がホモサピエンスにのみ起きたために、ネアンデルタールは食糧を効率的に獲得できなくなったのである。ホモサピエンスだけが持つ言語情報は、集団で動物を狩るとき、何よりも強力な武器だったに違いない。ホモサピエンスは、なにもネアンデルタール征服の下心があったわけではなく、ごく普通に仲間と会話するだけで、ネアンデルタールには収集不可能な獲物の情報を手に入れることができた。
 五百万年経つあいだには、ホモサピエンスにもたらされたような多くの突然変異が累乗的に起きるから、人為的になにもしなくても、現生人類はまったく別のものに展開しているだろう。馬も牛もサルも、現在の種は何一つなくなっているだろう。五百万年後を心配するとは、わたしたちはなんと不遜な動物であることか。
 この番組には、現生人類が今のまま続くべきだという、西洋人の典型的な下意識が見えている。それは、人間が神の姿に似せてつくられたのであり、その他の生物界とは隔絶しているとするキリスト教のおごりゆえの、その未来がなくなる恐怖の裏返しでもある。一般西洋人は、「知性」を聴覚や視覚、嗅覚とは別種の、特別高級なものとする文化的元型から、この三千年来どうしても抜けきることができない。水族館のシャチや洞窟のコウモリが、驚くべき危険回避行動を取れる論理機械を体内に持っており、その聴覚を主とした推論のスピードは人間の及ぶところではない、とは考えてもみない。
 クジラは牛と同系である。西洋人は何千年も、牛を毎日大量に屠殺してきながら、いまクジラに対してだけ、商業捕獲反対運動を続ける。クジラには彼らの好きな「知性があるから」らしい。アジアでは子供でもそっぽを向くような御伽噺だが、このセンチメンタリズムも、人類のみが隔絶的な地位にあるとする 「知性」への自己満足の裏返しである。
 しかし世界のレギュレーションは彼らが決めている。シーシェパードをテロリストとして投獄できないのは、「彼らには純粋無垢な一面がある」 とするアメリカ南部キリスト教右派の教義を、米国共和党上層部が支持しているからにほかならない。ジョージ・ブッシュは歴史上最も「知性」の足りない大統領といわれた。