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新聞から 「青田買いで損しているのは企業自身である」

 二月七日の毎日新聞に、大学生の青田買い廃止を強く訴える大きなコラムが載っていた。寄稿者はライフネット生命保険社長の出口治明という方である。久しぶりに納得する新聞コラムだった。コラム後半の、出口氏の主張の要点だけを抜粋する。抜粋後の文章を整える必要上、一部は修正してある。
 ・・・・・高度成長時代の年功序列制度にあっては、青田買いで争うように刈り取られた学生は、やがて役付きになり高齢になると、定年制によって円満に会社から押し出された。企業は高度成長下にあったので年金を無理なく支払うことができ、定年退職者から不満は出なかった。人材の新陳代謝がスムーズに行われたからこそ高度成長が長い間持続でき、日本は一時世界で最も成功した国となった。
 しかし、少子高齢化・人口減少と低成長化という二十一世紀の日本から見れば、「青田買い・終身雇用・年功序列・定年制」という、かつてのわが国の雇用慣行は、人口の増加を暗黙の前提にした、きわめてガラパゴス的な淘汰にさらされやすい制度だったといえる。
 いま、わが国経済は欧米諸国のキャッチアップを果たし、自国の維持・成長は日本人自らが自分のアタマで考えて課題解決を図るステージに入っている。日本にとって明治のイギリスや第二次大戦後のアメリカがそうであった、「モデル」になるありがたい先進国はもう存在しないのである。
 そうであれば、大学生には徹底的に勉強させ、欧米のように大学院教育をもっと充実させて、自分のアタマで考え自ら道を切り拓く若者を育てていかなければならない。「高度成長」という、自身の周囲の環境に合わない「因習的思考法」は「淘汰圧」となって、いま私たちの身の上に現実に降りかかっているのであり、この淘汰圧を回避しなければ、数十年後私たちは、よかった時代の「民族的奇習」をいつまでも懐かしむガラパゴス人になってしまうだろう。
 こんな時代にあって、企業が大学生を三年生から「就活」させ、一年半以上も勉強の時間を奪う青田買いを続けることは、極言すれば税金泥棒ではないか。国家財政がこれだけ苦しいのに、大学には二兆円近い税金が投入されている。それなのに、大学は、就活を続ける学生の勉強指導を一年半以上も放棄させられ、あまりにも無知で使い物にならない学生を世の中に出さざるを得なくなっているのである。
 青田買いは、即刻全廃すべきである。そして、企業の側から学生に接触することは禁止されるべきである。
 わが国の経営者の中には若者の英語力の低下を嘆く向きも多いが、企業が学生に本気で英語力をつけさせたいのであれば、「卒業証書・成績証明書・(たとえば)TOEFL100、の三点セット」を採用面接の条件にすれば事足りる。経団連あたりが音頭をとれば、実現にさしたる困難はない。東大を中心に検討されている秋入学・夏卒業と併せて実行すれば、翌年四月の入社時期までの半年間、安心して就活できよう。
 私(出口氏)が経営するライフネット生命は、新卒の定義を三十歳のみとし、採用にあたっては、難しい課題を示して字数無制限の論文を提出させるシステムを採用している。・・・・・・・何よりも、多様な経験を積み、自分のアタマで考えて課題解決を図れる自立した社員が必要なためだ。
 「勉強しない学生」の問題は、これとは全く別の、入試成績のみを偏重するわが国教育制度の問題である。もしくは、「人間は出来る二割と出来ない八割で成り立っているという人類学的問題である。私企業が功利主義マインドをもって介入すべきことがらではない。