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大嶋幸範 『美味しんぼ』へのファシストの攻撃

 漫画単行本「美味しんぼ」の最新刊に、「福島はしばらく人が住むところじゃなくなってしまった」と、福島原発のある町の前町長が語っている場面があるらしい。晩御飯を食べていたらNHKの夜7時のニュースが報じていた。福島県の現知事が、「被災県民の懸命な気持ちを踏みにじるものだ」という意味のことを言って、漫画の作者を非難していた。さらにその福島県知事コメントに続いて、大阪府知事の松井氏が画面に登場し、同漫画には事実と異なる表現が数多くあり、小学館と作者に抗議したと述べて私の興味を引いた。ニュースは、「美味しんぼ」はこれまでに110冊、計1億2000万部を重ねた国民的大ベストセラーであるので、作者・小学館側と福島県や(どう関係するのか知らないが)大阪側の今後の議論が注目される、とNHKらしく締めていた。
 私は漫画はあまり好きではないし、「美味しんぼ」は一冊も読んだことがない。おいしい料理についていろいろなうんちくを傾けた人気シリーズであることくらいしか知らない。だから(というのも変だが)今回の最新作について何が書かれているかについては、別に気を引かれない。ニュースを見ながら思ったのは、福島の知事と大阪の知事は、やっぱりファシストじゃないの?ということだけである。
 いま、漫画はヘタなブンガク作品よりよほど国民を楽しませてくれる文芸としての地位にある。作者・小学館側の言を借りるしかないが、今回の最新刊を書くにあたって作者は2年も取材を行い、当該の前町長発言もちゃんと裏を取ってあるらしい。つまり、作者の予断と風聞と想像だけで書いたものではないということである。それを信じるなら、「美味しんぼ」は文芸作品の成立する条件を十分満たしているのであり、そこには何が書かれていても、地方自治体の知事レベルがとやかく言う筋合いのものではない。読者のみが作者の力量を評価決定できるのであり、地方自治体の知事が自分の立場において発言すれば、それは行政による表現の自由への介入そのものである。
 過去、表現活動に介入したヒトラーのドイツとスターリンのソヴィエトというファシズム国家で、後世に残る作品はひとつも生まれなかった。今の中国で体制批判の作品を書く作家がどう扱われているかは、誰もが知っていることである。
 福島と言えば絆、絆と言えば一つのこころ、一つのこころは他のこころを許さない、他のこころを許さないのがポピュリズムファシズム、そのポピュリズムファシズムの総本家が橋本=松井の大阪府・・・・、なんともまあ、「美味しんぼ」は「風が吹けばおけ屋が・・・・」に代わる新しい本邦俚諺を産んでくれたものである。