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ウィングフィールド 『夜のフロスト』(創元推理文庫)

 シリーズとしては3作目。700ページを超す大部。持ち歩くときはかさばるが、作者ウィングフィールドは読者を退屈させるなどと失礼なことはしない。
 あいかわらずジャック・フロスト警部は無茶なことを部下たちに言う。
「連続老女切り裂き魔のくそ野郎は、現場付近の通りで人目につかない地味な恰好をしているはずだ。あの通りを歩いているやつはひとり残らず洗い出してほしい。道路掃除の作業員だろうと、郵便配達だろうと、他人んちの玄関先に現われる小便垂れだろうと、はたまた婆さんにキバを剥く卑怯者のワン公だろうと、例外なしだ。」
 「そういう作業には、コンピューターを使うと――――」相棒の部長刑事が言いかける。
 フロストはそれを遮る。
「コンピューターは時間の無駄だ。俺があの代物に辛抱してやってるのは、そのほうが、警察長に上目を使うしか能がないマレット署長の米つきバッタ野郎を大人しくさせておくことができるからだ。今度の老女切り裂き魔事件は、堅実でまっとうな昔ながらのデカの流儀でなくちゃ解決できない。君たちにパクられた運の悪い野郎をさんざんぱら殴りつけ、無理やり自白させたうえで供述書にサインさせるんだよ。」「なに?この三日間、3時間しか寝てないって? いいお回りほど上等の地獄に行けるってこと、知ってるだろ?」
 ・・・・・ほかのフロストものと同様、『夜のフロスト』でもまた三、四日の間に老女切り裂き、少女誘拐殺人、保険金詐欺・富豪宅放火殺人などの事件があわせて二ケタ以上も起きる。どの事件も最終盤まで、まったく解決の様相を見せない。互いの事件が絡み合いながら読者の胸を揺さぶり続け、フロスト警部は股間から匂い立ってきそうなお下劣ジョークを捜査本部の連中に一日に十回は聞かせ続ける。作家ウィングフィールドの力量は大したものである。もっとも若者の読者はあまり多くないだろうが。