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福岡伸一 『遺伝子はダメなあなたを愛してる』(朝日新聞出版)1/2

 外来コラーゲンが体内に取り入れられる確率は、砂漠に大雨を求めるようなもの
 P20−3 コラーゲン
 コラーゲンはタンパク質です。タンパク質は生存のための必須成分です。が、人間は自分に必要なたんたんぱく質をすべて自ら作り出すことができます。というか、自前で作り出すことでしか、タンパク質を生み出すことができない。自分のものは自分で作り続ける。それが生きているということです。
 ならば、食べたスッポンのコラーゲンはどうなるのか。消化されて分解されてしまうのです。スッポンなどの外来コラーゲンはヒトのコラーゲンとアミノ酸列が違いますので、異物として排除されてしまいます。
 でも、スッポンコラーゲン由来のアミノ酸が、ヒトのコラーゲン合成の材料として役立つのでは? それは理論上はありえます。しかし非常に低い確率です。言ってみれば、お賽銭として投じた硬貨が巡り巡ってタクシーのお釣りとしてあなたの財布に戻ってくるような確率です。

 情報社会とは、使えない楔形文字が溜まり続けることかもしれない
 P84−5 体内の情報伝達
 神経細胞は身体に張り巡らされた送電線みたいなものですが、実は、一つ一つの神経細胞はユニットとして独立しています。その継ぎ目に当たるところがシナプスで、神経細胞神経細胞のわずかな隙間を通して、情報伝達物質をやり取りしています。
 私たちは一般に「情報」と聞くとインターネット内に蓄積されている記録やデータのようなものを思い浮かべますが、生命にとっての情報はちょっと違います。生命にとっての情報は「現れてすぐ消える」ことが最も重要なのです。
 なぜ消えることが大切なのでしょうか。それは生命にとっては変化そのものが情報であり、変化の幅(差分)こそが、次の変化を引き起こす手掛かりとなりうるものだからです。そう考えてみると、なぜ私たちが今日、いつまでも消えないネットやメールの「情報」に振り回されているかがよくわかります。「現れてすぐ消える」ことを第一義とする身体の内部システムにとって、消えない情報が身体にたまり続けるストレスは大変なものだからです。

 溜まる情報を捨て続けなければ、恐るべきカオスを絶対に逃れられない
 P104−6 断捨離
 最近まで、生物はDNAからRNARNAからタンパク質を作ることに一生懸命になっていると考えられてきたのに、実は作ったものを捨てることのほうこそ熱心にやっているのだということが分かってきました。作る方法はDNA→RNA→タンパク質の一通りですが、捨てる方法は何通りもあり、多大なエネルギーを使って生物の細胞はせっかく作った物を壊し、捨て続けているのです。しかも、まだまだ使えるもの、新品同様のものでも、情け容赦なく細胞の中で壊され捨て去られています。
 なぜそんなことをするのでしょうか。実はこれこそが生命現象を支え続け、何億年も永続させている秘訣なのです。私たちの宇宙はほっておくとすべてのものが乱雑に、無秩序になる方向に進みます。恐るべき「拡散」状態、全宇宙が均質のドロ状態になってしまうエントロピー増大の法則に勝てるものは絶対にありません。生命は、この大崩壊を先延ばしする方法を何億年も前に見つけていたのです。