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リチャード・C・フランシス 『エピジェネティクス』(ダイヤモンド社)2/3

 本文
 p14
 わたしたちを取り巻く環境は、遺伝子の活性度を調節して、わたしたちに影響を及ぼしている。ただし環境は、遺伝子の働きを直接変化させるわけではなく、遺伝子を含む細胞を変化させて、間接的に遺伝子の活性度に影響している。
 遺伝子の活性度がコントロールされることを「遺伝子制御」という。生物学の入門過程で教えられてきた“普通の”遺伝子制御と異なり、エピジェネティックな遺伝子制御は、はるかに長い期間にわたって起こり、ときには全生涯に及ぶことがある。たとえばオランダという同じ小さな国に住みながら大飢饉の影響を受けた人とそうでない人の肝細胞を比べると、あきらかな遺伝子の活性度の違いが見つかる。遺伝子の活性度が違えば、子孫に影響が及ぶのも当然だろう。
 p58
 マウスやラットでは、よく舐める親に育てられた子供は、あまり舐めない親に育てられた子供に比べて、ストレスに過剰に反応しない。こうした対ストレス反応はマウスやラットの成長後に現れるので、長期間にわたる遺伝子制御の結果と見て間違いない。
 よく舐める親と舐めない親の子を入れ替えて育てると、その影響も入れ替わる。あまり舐めない親の子が、よく舐める親(里親)に育てられると、あらゆる点でよく舐める親の実子に似てくるのだ。逆の場合も同じである。
 p91
 幼児期の親とのかかわりは社会化のプロセスの基盤となるが、それに続くできごと、特に仲間や友人との交流は社会性の発達をうながし、感情面の成長に寄与する。ラットにおいて認められたことだが、育児ベタな母親によるマイナスの影響の多くを、乳離れしたあとに豊かな社会環境で育てることで解消することができた。
 p105
 長年にわたって、エピジェネティックな変化の遺伝はありえないとされてきた。これまでは、精子卵子が作られる段階でエピジェネティックなすべて取り除かれ(すなわちリプログラミングされ)、それでも残っていたエピジェネティックな付着は受精直後のリプログラミングで除去され、新しい世代はどれもエピジェネティックには白紙の状態から出発すると考えられてきた。
 しかしながら近年、エピジェネティックな特徴はリプログラミングですべて消えるわけではないことがわかってきた。環境的要因が誘発したものなど、エピジェネティックな変化の一部は除去されず、次の世代に伝えられるのである。
 p160-1
 確かに、胚の発生にはあらかじめプログラムされているかのようなイメージが伴うが、実際はそのプログラムは大雑把なものにすぎない。例えば細胞の分化は、隣接する細胞同士の局所的な相互作用のみからもたらされる。特定の胚性幹細胞が錐体細胞になるか、それとも心筋細胞になるかは、こうした相互作用によってのみ決定される。
 しかも、分化した細胞、特にがん細胞は、幹細胞との接触により脱分化することもある。この脱分化もリプログラミングと呼ばれるが、このリプログラミングは遺伝子に「よって」起きるのではなく、遺伝子に「対して」起きるのだ。