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増田直紀・今野紀雄 『複雑ネットワークとは何か』(講談社)

 日本人は、知り合いを3人介在させると、みんなつながってしまう。
 1994年にアメリカの大学生3人が、ハリウッド映画俳優はそれぞれの共演俳優の鎖を通してどれくらいの距離で互いが結ばれているかをTV番組で明らかにして話題になった。このTV番組には『フットルース』などで有名な映画俳優ケビン・ベーコンが一緒に出演していたので、不特定の映画俳優からベーコンに行き着くまでの俳優の人数はベーコン数と呼ばれた。番組のなかでは多くの不特定の映画俳優の名があげられたが、ほとんどの俳優のベーコン数は5以下だった。「共演したことがある」という点だけから見れば、俳優同士は意外と近いということが分かって、多くの人が驚いた。
 日本の俳優も、データベースに登録されている映画に出演していれば、それぞれのベーコン数を持っている。その値は、(業界規模が小さいからか、ハリウッドよりさらに低く)松田聖子2、竹中直人2、安室奈美恵4、安達裕美2、中村獅童3となっている。3人以下の介在で、映画俳優同士は「友達の友達の友達の友達」なのである。
 p53
 人間関係の平均距離が小さいのは、映画俳優という特殊なネットワークに限られたことではない。会社や学校の人間関係のネットワーク、オンライン上の人間関係、日本人全体の知人関係などについても、具体的な値こそ異なるが、ネットワークの平均距離はやはり小さい。さらには、会社間の取引ネットワーク、インターネット、食物連鎖のネットワーク、タンパク質の反応ネットワークなど個々の人間活動を超えたところで定義されているネットワークも、ほとんどの場合小さい平均距離を持つ。これは、日本人の世界は狭いというわたしたちの実感を裏付けている。
 p61
 1960年代の後半、アメリカの心理学者ミルグラムがこの「世界は狭い」という社会行動実験を行った。ボストンに住むX氏に向けて、ボストン市内やアメリカ中部から手紙をリレーして送るのだが、最初の発信人から何人をリレーすればX氏に手紙が届くかという実験である。手紙にはX氏のプロフィールが書かれており、住所を含めて大体の人となりは分かるようになっている。もちろん、最初の発信人はX氏とは赤の他人である。
 スタートした手紙は平均六回くらいのリレーでX氏まで到達した。ネットワークの平均距離が6くらいということで「6次の隔たり」という言葉が生まれた。この「世界の狭さ」を実証する実験結果は、当時の社会に大きな衝撃を与えた。1993年には『私に近い六人の他人』のタイトルで映画化もされている。