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白井聡 『永続敗戦論』(太田出版)2/3

p130-3 

TPP交渉における従属構造

 1970年代から基本的には衰退し始めた米国経済は、市場経済新自由主義化と金融バブル許容化によって延命を図ってきた。TPP戦略はその戦略のひとつである。多数の識者が指摘するように、保険・医療・金融・農業といった諸分野における米国主導のルール設定という露骨な帝国主義的策動がTPPの枠組みに含まれていることは、急速に明らかになりつつある。
 こうした情勢に対して日本の政財界はどのような姿勢をとっているだろうか。たとえば、日本最重要産業の一つである自動車産業の指導者層のふるまいは、ほとんど戯画的とも言える印象を与える。そのなかで(生まじめ三代目顔のトヨタ社長が代表を務める)日本自動車工業会は日本のTPP参加を声高に唱道したものだが、こうした日本側のお追従姿勢が明らかになるや否や、米側から飛び出してきたのは、「日本の軽自動車規格は参入障壁であるから廃止せよ」という(チンピラ映画のような)言いがかりだった。
 日本における自動車の輸入関税はゼロであり、市場が閉鎖的であるとの批判は全く当たらない。現にドイツ車はその高額さにもかかわらずよく売れており、米国車のシェアが低いのはその品質、デザインのせいであることは明らかである。米国のメーカーが軽自動車を開発しようとしても、ノウハウがないため作れないのはやらずともわかることであり、それゆえアメリカの交渉団は「われわれが上手く作れないのはその規格が間違っているからだ」という無茶苦茶な理屈を考え出したわけである。さすがにこの要求は2012年に取り下げたが、こうした無理無体が公に表明されること自体が、TPPの本質を物語るものだろう。

 TPPにおいて、米国は「新しい自由貿易のルール」を自分の主導でつくろうとしている。その「自由貿易」化の、いかにもアメリカらしいものの一つが遺伝子組み換え作物である。TPPによって「遺伝子組み換え作物の表示義務」の撤廃をさかんに働きかけているのは、同作物の生産において90%という圧倒的なシェアを誇るモンサント社ミズーリ州)である。同社は、過去にはベトナム戦争時に枯葉剤を開発したことでも悪名高いが、今日では「種子の独占」を謀る企業として世界的な非難にさらされている。
 すなわち、同社は、自社が開発した遺伝子組み換え種子に知的所有権をかけ、農民が自分の収穫の中から保存した種子を翌年播種することを禁じた。さらにモンサント社は、ご丁寧にも「ターミネーター種子」を開発し、農家が自家採取した種子の播種を永久に封じようとしている。なぜなら「ターミネーター種子」とは、遺伝子を組み替えることで種子が発芽しないよう作為的に改造された種子だからだ。もちろんその狙いは農家がモンサント社から毎年種子を買い付けなければならない状態に追い込むことにある。

 ・・・とは言え、異見を出す多人数との公式交渉が苦手なトランプは、選挙前からの公約通りTPPの枠組みを崩してしまった。自分が得意だと思っている水面下取引のような二国間交渉で、自国の利益貫徹を図れると思っているのだろう。