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アガサ・クリスティ 『終りなき夜に生れつく』(ハヤカワ文庫)

 善良に見えた主人公Aがじつは子供のころから犯罪性精神障害を示していた男だったという話。そういう人をアガサ・クリスティは「終りなき夜に生まれついた人」と名づけた。
 Aは物欲が異常にはげしく、昔、学校仲間の少年がしているいい腕時計が欲しくてたまらなくなることがあった。その少年がアイススケートをしていて氷の穴に落ちたとき、Aは少年を引き上げようとせず、逆に頭を水中に押し込んで殺したのだった。

 このことは事故として扱われ、Aは刑事訴追を免れたのだが、Aの母親は、ふだんは優しい顔をした息子の裏側に矯正不能な犯罪性向はひそんでいることに気付いている。

 これに対して女B。彼女は大富豪の遺産をそっくり受け継ぎ、多くの親類縁者と資産管理人に囲まれながら、人を疑うことを知らない「甘やかな喜びに生まれついた」ひとだ。

 Bの家にはCという女が住み込み留学生として働いている。大資産を相続した若い女性として、周囲とのつきあいは多いが、彼らの干渉にも悩むBに対して、若く美人で才覚あふれるCは、Bにドイツ語を教えるだけではなく、うるさい親類の小言うけたまわり役もそつなくこなし、Bの大邸宅生活全般の切り回しをまかされるほどBから厚く信頼されている。そのCはじつはBの家に留学生としてくる以前から、Aとドイツで意気投合した仲だった。

 じつはAは数年前たまたまある場所でBと出合い、その瞬間、人を信じやすいBが自分に恋心を懐いたことを見抜いてしまっていた。AとBが出合った場所は近在から「ジプシーが丘」と呼ばれていたが、Bは年来そこに大きな邸宅を建てようとしていた。Aはその計画を知り、建築計画を巧みにまとめると同時に、結婚を申し込んでBを喜ばせる。もちろんCはこのことの全部を承知済みである。

 邸宅の完成後、Cは何食わぬ顔で住み込み留学生募集に応募し、持ち前の才覚でたちまちBのお嬢様心をとりこにしてしまうのは上に書いた通り。目標はただ一つ、Bの夫に納まったAが全財産を相続する証書が書かれるの見届けた後、Aと共謀して念を入れた偽装事故を起こし、Bにこの世から消えてもらうことだった・・・。