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アガサ・クリスティ 『ゼロ時間へ』(ハヤカワ文庫)

 重い、軽い、いろいろな地位、境遇の多彩な登場人物、場面展開の適度な速さ、読者に名人芸の嫌味を感じさせない謎解きの論理・・・・・・、一定の水準を維持しながら何十年にもわたって100冊を超えるサスペンスをよくも書けたものだ、といつも思う。しかもときどきは、苦い恋愛小説も、それもレベルの高いものを混ぜながら。

 今回は、男を見込み違いして結婚した女性の悲劇的な話。その男は忍耐強い一流スポーツマンであり、完璧な若き上流イギリス紳士と見えたのだが、精神の深いところを病んでいたのだった。結婚してしばらくたち、女性は男のことを怖く思うようになるのだが、男の病態について確信を持てないので、おかしいのは自分ではないかと考えるようになる。
 そんなとき別の男が現われ、女はその男と一緒に逃げ出そうとするが、感づいた夫が交通事故を仕組んで、男はあっけなく死んでしまう。・・・それが8年前の「ゼロ時間」に起きたことで、本書で起きた連続殺人事件の因果はすべてこの「ゼロ時間」から始まっていた、という作品。