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大嶋幸範  国民の象徴の憲法違反行為

 去年夏、天皇がなるべく早く退位したい旨をテレビで表明された。大震災に遭った避難家族を膝を折って慰める天皇の姿に感動していた国民は、ほとんどが賛意を示した。それを受けて退位を根拠づける特別法も近々成立するようで、退位後の称号や住まいまで既定のものであるかのように報道されている。
 しかし天皇の「お気持ち表明」は多くの法学者の疑義をまつまでもなく明らかな憲法違反である。なぜなら日本国憲法第4条第1項は「天皇は、・・・・国政に関する機能を有しない」とはっきりと明文化しているからだ。内閣・国会が関係法の整備に向けて動くよう、自身の意向を直接全国民に向けて表明することが、憲法で禁止された国政へ関与でなくて何だろう。
 高齢になって、被災地への慰問、海外王室との交流などが困難になっていることが大きな理由だと天皇は言われる。摂政ではそういう大任は果たせず、だから健康な若い天皇に譲りたいと言われる。
 だが、失礼は百も承知だが、健康や体力の衰えといった個人的問題を突然自分でメディアに語り、それでもって内閣を動かそうとするのは、国民統合を象徴する存在の行動としては、あまりに直情径行であり軽率すぎないか。そして象徴天皇は「個人」であると同時に「国家機関」でもあって、憲法のどの条項にも抵触してはならないことは誰よりもご存じのはずではなかったか。
 大半の国民が私情として天皇を敬愛しているのはよくわかる。しかしそれが、意向表明ひとつで法律の改廃につながるのでは、日本は近代民主主義国家ではない。憲法天皇関連条項がたとえ未熟な「悪法」であっても、それを改廃できるのは立法府だけのはずである。<メディアへの直接表明→国民の翼賛的同意→共産党を含めた全会一致による新法制定>という今回の動きは、一歩間違えば、同調しない者には後ろ指をさす戦前社会の雰囲気さえ思い起こさせて暗澹たる気分になる。