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前野ウルド浩太郎 『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書)

 2017年5月に発行して以降、毎週増刷を続けているというベストセラー新書。経済誌・プレジデントの敏腕プロデューサーに「売れる本」をつくるための文章の書き方、章立ての工夫などをみっちり教えてもらったということで、読み手をどきどきさせる抜群の出来栄えになっている。

 著者はバッタ研究のポスドクとして、就職も論文執筆も先の見通しが立たないまま、2,3年任期の臨時職をやっと見つけ、はるばる西アフリカ・モーリタニアに来た。その地で、数年に一度は半径100キロ以上もの大群になって乾燥地帯の農作物を壊滅させるサバクトビバッタの生態を解明するためだ。

 本来の研究成果については、この新書ではほとんど触れられていない。エピローグ近くで、研究論文として近いうちに一冊まとめる予定であることを述べているが、この本の魅力はそういったカタイ話にあるのではない。目の前のトラブルにとにかく全力でぶつかっていく破天荒な行動の語り口がなんともいえず面白い。
 たとえば、著者の不十分な英語でアラビア語とフランス語の仲間に溶け込む抱腹絶倒の会話術が披露されるくだり。現地研究所長の信頼を得たことで、駐モーリタニア日本大使から晩餐に招かれるようになり、それが機縁で駐日モーリタニア大使と東京でバッタ問題を話し合うことになるくだり。
 ほかにもある。研究者としての先行きに不安な著者は、ふとしたことから京都大学の「白眉センター」研究者募集に応募することになる。そして、最終面接で当時の松本・京大総長から、「過酷な環境で生活し、研究を続けるのはほんとうに困難なことだと思います。私はひとりの人間としてあなたに感謝します」と目を見つめながら言われ、危うく泣きそうになるシーン。その結果、前出の敏腕プロデューサーがこれを喜んでくれ、「帰ってきたバッタ博士」と銘打った番外編の特集記事を自分の経済誌にあげて、学界に著者の名を知らしめてくれるのだった。

 エピローグで、モーリタニアに数億・数百億匹のバッタが突如大発生する。著者はここから「生ける砂漠の大悪魔」のデータを十分に採取する。そのあと大発生したバッタは現地研究所長指揮下の殺虫剤噴霧部隊によって大殺戮されていくのだが、バッタは殺虫剤でいくら殺されても、それは成虫を殺しただけなので、卵や幼虫を殺さなくては将来の大発生を防いだことにはならない。
 著者の次作となる研究論文は、サバクトビバッタを卵と幼虫のままで死滅させる方法について書かれるということだ。