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ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史』(河出書房新社)3/7

 上巻 第3章 狩猟採集民の豊かな暮らし

 p69-70

 狩猟採集時代の平均的サピエンスの脳は
 われわれ定住社会のサピエンスの脳よりも大きかった

 サピエンスの集団はたいていの生息環境では、融通をきかせ、うまく現地にあわせた食生活を送った。シロアリを探し回り、各種のベリーを摘み、さまざまな根を掘り、ウサギに忍び寄り、まれにバイソンやマンモスを狩った。狩りよりは採集こそがサピエンスの主要な活動で、それによって人類は必要なカロリーの大半を得るとともに、火打ち石や木、竹などの加工材料なども手に入れていた。

 サピエンスは食べ物と材料を採集するだけにとどまらなかった。彼らは知識も漁りまわった。生き延びるためには、縄張りの詳しい地図を頭に入れておくことが必要だった。個々の植物の成長パターンや、動物の習性についての情報が欠かせなかった。どの食べ物に栄養があり、何が腹をこわし、治療には何が役立つかも知っておきたかった。また季節がどう進み、雷雨や日照りについてはどんな徴候に注意するべきかも知らなくてはならなかった。

 誰もが石のナイフの作り方や裂けた衣服のつくろい方、ウサギのわなの仕掛け方、ライオンに遭遇したり蛇にかまれたときの対処の仕方も心得ていなければならなかった。古代の平均的な狩猟採集民は、ほんの数分もあれば硬く鋭い石で槍の穂先が作れた。いま私たちがこれを真似ようとするとたいてい惨めな失敗に終わる。私たちのほとんどは薄くはがれやすい火打ち石や玄武岩に関する知識も、精密に加工する手先の器用さも欠いているからだ。

 平均的なサピエンスの脳の大きさは、狩猟採集時代以降、じつは縮小したという証拠がある。狩猟採集時代に生き延びるためには、誰もがすばらしい能力を持っている必要があったが、農業や工業が始まると人々はしだいに他者の技能に頼れるようになったからだ。つまり凡庸な人も、水の運搬や生産ラインの単機能労働者として生き延び、凡庸な遺伝子を次の世代に伝えることができるようになったのだ。