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ウィングフィールド 『フロスト始末』 創元推理文庫

 6作品、9巻にわたって楽しませてくれたウィングフィールドの遺作である。上下巻あわせて約900ページ。これまでの作品と同じように、この『フロスト始末』 にも数々の変態的な犯罪が、読者がその場を目撃しているかのような迫真の描写力で描かれている。そしてそれを5ページに一度は披露してくれる下ネタ駄洒落が絶妙にコーティングしていて、ただの猟奇殺人警察小説とは桁が違う味わいを作り出している。

 最後の作品である今回は、そうした従来からの面白さに、警部自身がスキナーという新任の権力志向主任警部の罠にかかって、デントン署を去らざるをえない状況に追い込まれるというエピソードが加わっている。この人事異動には読者おなじみのケツの穴の小さいマレット署長がもちろん一枚かんでいる。

 ガタが来たきた身体にムチ打ち、直感と経験だけの乏しい知恵を無理やり絞り、わずかな能無し部下を率いながら睡眠時間を削って捜査にあたるフロストは、相次いで発生した3件の少女誘拐・暴行・殺人事件や荒稼ぎ安売りスーパー脅迫事件に立ち向かいながら、署内の人事陰謀をかいくぐれるのか?

 小説後半で、犯人逮捕の功を独り占めしようとするスキナー主任警部は、フロストや部下警官が止めるのも聞かずに、犯人と接触しようとして、銃弾に倒されてしまう。そのときのフロストの本音のつぶやきがいい。ぼくは警察にはいなかったが、だれでもそうだろうが、正直いって、死んでほしいと思ったやつとは何人もつきあった。
 「あんたのことは、底の底から、いけ好かない野郎だと思ってたよ。死んでほしいと思ってたわけじゃないけど・・・・・、でも、こんなことになって気の毒だとは、どうしても思えなくてね、悪いね」