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村上春樹 『インタビュー集 夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』(文春文庫)1/2

<1997年> 『アウトサイダー』p18-9

 僕はポップカルチャーみたいなものに心を惹かれるんです。ローリング・ストーンズ、ドアーズ、デイビッド・リンチ、ミステリー小説。僕はだいたいにおいてエリーティズムというものが好きじゃないんです。ホラー映画も好きだし、スティーヴン・キングやレイモンドチャンドラーを読むのも好きです。
 でも自分でそういう作品を書きたいとは思わない。僕が必要としているのは、そのような物語のストラクチャーなんです。そのような「外枠」の中に、僕自身のものを詰め込んでいきたい。それが僕のやり方であり、僕のスタイルです。
 だからどちらの側の作家にも、僕は受け入れられないのかもしれない。エンターテインメント的なものを書く作家たちもぼくの書くものを気に入らないし、文学系の作家たちもぼくの書くものを気に入らない。どちら側にも僕は属することができない。そんなわけで、僕は日本の社会では自分の居場所みたいなものを、うまく見つけることができなかった。
 でも最近になって、状況みたいなものが少し変わってきたかなという感じがあります。僕の収まることのでき領域が少しずつ増えてきたかな、と。僕はもう15年ほど小説を書き続けていますが、僕の作品を買って読み続けてくれる読者を確保しているし、彼らは少なくとも僕を支持してくれている。それは大きいことです。
 自分が収まっていられる領域がそのように増加するにつれて「日本の作家」としての責任感みたいなものを僕はより強く感じるようになってきました。今もそれは感じていますし、それは僕が2年前・1995年に日本に戻ってきた理由の一つにもなっています。そしてちょうどその年の5月3日地下鉄サリン事件が起きました。