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ユヴァル・ノア・ハラリ 『21 Lessons』(河出書房新社)1/4

  著者は『サピエンス全史』、『ホモデウス』と大著2作にわたって、人類の知性はどこまでEvolution=展開を続けるのかを、その「展開」が必ずしも「成長」や「進化」を意味するものではないことに十二分に注意を払いながら、問い続けてきた。Evolutionをわたしは「展開」と記したが一般的には右肩上がりの「上昇」を含意する「進化」と訳す人が多い。『21Lessons』はその3作目だが、第1章<テクノロジー面の難題>では、前著『ホモデウス』を引き継いで、現在のコンピュータ・テクノロジーの急加速が私たちの未来を少しも明るくするものではないことを、強い調子で警告している。

 

 p21-3

 政治家も有権者も、新しいテクノロジーをほとんど理解できていないし、そうしたテクノロジーが持つ危険な可能性を統制することなど、彼らには望むべくもない。1990年代以降、インターネットは世界を変えてきたが、インターネット革命を主導したのは政党よりも、政治のことを何も知らない電子技術者だ。
 あなたはインターネットに関して、一度でも投票したことがあるだろうか。今の民主主義制度は何が自分たちに降りかかってきているのか、いまなお理解するのに苦労している人が大多数である。AIが台頭した時の強烈なショックは今なお沈静化できておらず、それが今後私たちの日々の暮らしにどんな影響をもたらすのか、備えは皆無に近い。

 すでに今日金融制度はコンピュータのせいであまりにも複雑化しており、この制度の細部を理解できる人はほとんどいない。AIは日進月歩なので、もはや人間はだれ一人、金融を理解できなくなる日が訪れかねない。その時。政治のプロセスはどうなるのか。

 あなたは理解できるだろうか―—予算案や新しい税制改革案をコンピュータのアルゴリズムが承認してくれるのを恐る恐る待つ政府を?例えばドルに課税するのは不可能あるいは的外れになりうる。なぜなら大方の取引は情報の交換のみから成り立ち、いかなる通貨の明確な移動も伴わなくなるからだ。政府は税金をドルではなく情報で支払う「情報税」を創設しなければならないだろうが、政治制度は莫大な情報税創設準備の資金が尽きる前に、なんとかその危機に対応できるだろうか。

 今の政治家がAI革命の実体をほとんど把握できていないことはコインの表側である、そしてその裏側にはAI化をすすめる技術者と起業家と科学者が、自分たちの決定がもつ政治的意味合いをほとんど理解していない、という恐るべき皮肉がある。彼らは、おそらく大多数は善人なのだろうが、政治的にはだれの代表でもないのだ。政党関係者とAI技術関係者はお互いのテクニカルタームが理解できないので、今後の見通しに関する会議体さえ持つことができず、国民の多数の理解できるような議事録さえ発表できない。