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ユヴァル・ノア・ハラリ 『21 Lessons』(河出書房新社)3/4

 p302-13

 ホモ・サピエンス「事実」だけでは満足しないポスト・トゥルースの種である。ホモ・サピエンスの力は事実を超える虚構を作り出し、それを信じることにかかっている。自己強化型の神話は石器時代以来ずっと、人間の共同体を団結させるのに役立ってきた。

 私たちは非常に多くの見ず知らずの同類と協力できる唯一の哺乳類であるが、それは人間だけが虚構の物語を創作して広め、膨大な数の他者を説得して信じ込ませることができるからだ。

 だから、ぞっとするようなポスト・トゥルースの時代をもたらしたとして、フェイスブックやトランプやプーチンを責めるなら、何世紀も前に何百万ものキリスト教徒が神話のバブルの中に閉じこもり、聖書の記述が真実かどうかを決して問おうとはしなかったことや、何百万ものイスラム教徒がコーランを疑うことなく信じ込んでいたことを思い出してほしい。

 ・・・私が宗教をフェイクニュースと同一したために多くに人が腹を立てることは承知しているが、これがまさに肝心の点だ。でっち上げの話を1000人が1か月信じたら」、それはフェイクニュースだ。だが、その話を10億人が信じたらそれは宗教で、フェイクニュースと呼んではならないと諭される。

 ・・・良くも悪くも虚構は人間の持つ道具一式の中でとりわけ効果的だ。宗教の教義は人間を鼓舞して、軍隊を組織したり刑務所を設置したりさせるだけでなく、病院や学校や橋も建設させる。アダムとイブは決して存在しなかったが、それでもアダムとイブの虚構の上に作られたシャルトル大聖堂は美しい

 ・・・協力を強固なものにするために虚構を使ったのは古代の宗教だけではない。時代が下ってからは、各国が独自の国家の神話を作り出す一方で、共産主義ファシズム自由主義の運動は手の込んだ自己強化型の信条を作り上げた。ナチスプロパガンダの巨匠ゲッペルスは「一度だけ語られた嘘は嘘のままであり続けるが、1000回語られら嘘は新事実になる、との名言を残した。

 ・・・宗教や政治イデオロギーに加えて、営利企業も虚構フェイクニュースに頼っている。ブランド戦略は、人々が真実だと思い込むまで、同じ虚構の物語を何度となく語るという手法をとることが多い。コカ・コーラをたくさん飲むことは肥満と糖尿病を招きやすいが、それでもコカ・コーラ本社が長年にわたって提供し続けてきた「若くて健康なスポーツ好きの人々とともにあるコカ・コーラ」のイメージ戦略は、人々の潜在意識の中でスポーツとコカ・コーラの結び付きを信じさせ続けている。

 ・・・人間には、知っていると同時に知らないでいるという、驚くべき才能がある。同時に、人間という種は、真実よりも力を好む。私たちはこの世界を理解しようとすることよりも支配しようとすることに、はるかに多くの時間と努力を投入する。
 たとえ、世界を理解しようとするときにさえ、たいていは「世界が支配しやすくなることを願って」そうする。したがって、真実が君臨し、神話が無視される社会をあなたが夢見ているになら、ホモ・サピエンスには全く期待が持てない。あなたが無意識の中で思っていることと、意識の中で思っていることが全く相反しているからだ。