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ユヴァル・ノア・ハラリ 『21 Lessons』(河出書房新社)4/4

ベーシックインカム社会にむけて、若い人全員にのしかかるプレッシャ―

 p340-1

 マルクスが1948年に出した『共産党宣言』には「確固たるものもすべて、どこへとも消えてなくなる」と宣言している。もっともマルクスエンゲルスは、主に社会構造と経済構造について考えていたのであって、我々の身体や認識の構造については何も考えていなかった。我々は今、2048年までには個人の身体生理のしくみや認知構造までもがどこへとも消えるか、データビットの雲の中に紛れてしまうだろうことを知っている。

 1848年には、何百万人もの人が村の農場での仕事を失い、工場で働くために大都市へ出ていった、だが大都市に着いても、ジェンダーを変えたり第六感を追加したりすることはなかった。そして、もし紡績工場で仕事が見つかれば、職業人生の最後までその仕事に従事することが見込めた。

 2048年までには、人びとはサイバースペースへの移住や、ジェンダーアイデンティティ、インプランテッド・コンピュータによって生み出される新しい感覚的経験に対処しなければならなくなっているかもしれない。もし3Dのバーチャルリアリティ・ゲームのために最新のファッションをデザインする仕事が見つかって、それに意義を見出したとしても、10年以内にその仕事だけでなく、それと同じ芸術的創造の水準を必要とする仕事はすべて、AIにとってかわられかねない。

  だからあなたは25歳の時に出会い系サイトで「ロンドンに住み、ファッションショップではたらく25歳の異性愛の女性」と自己紹介したとしても、35歳の時には「年齢調整をしているジェンダー不特定の人間で、大脳新皮質の活動は主にニューコスモスのバーチャルワールドでやってもらっている」と言わなければならないかもしれない。45歳の時には、デートしたり自己を規定するのはすっかり時代遅れになっているだろう。コンピュータアルゴリズムに自分に最適の相手をもらう(あるいは作り出してもらう)のを待つだけの身になっているだろう。

 ファッションデザインの技法から人生の意味を引き出す点に関して言えば、あなたはファッション分野でアルゴリズムに挽回不可能な大差をつけられてしまい、過去10年間の自分の代表作を見ると、誇らしさよりも恥ずかしさでいっぱいになる。そして45歳のこの時点で、あなたの前方には根本的に大変化を遂げなければならない年月が、うんざりするほどまだ何十年も残っているのだ。

 ベーシックインカム制度の社会が到来する必然性は、こんなに簡単な未来素描をするだけでもすでに明らかである。ただし、どのような層が展望ある高度専門職と高所得を手にし、どのような層が生活保護に毛の生えた程度のベーシックインカムに頼る生活をするようになるのか。前者の人々はその予備軍も含めてある程度の予感を得ているが、無用者階級と著者に呼ばれる後者の人々はただ嫌な予感におびえているだけである。いやその予感すらない人が大半である。