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谷崎潤一郎

[谷崎潤一郎 『少将滋幹の母』(新潮文庫)

これを名作と言わないでどうしようというほどの名作。厖大な史料を踏まえ、古語、漢語をたくさん使いながら平明で読みやすく流れるような叙述は読者に時間を忘れさせる。 中下級貴族などは人とも思わない権勢家左大臣時平、歴史上有名な好色男・平中、滋幹の…

谷崎潤一郎 『春琴抄』(講談社全集)

「谷崎潤一郎が美しいと考えるもの」が前面に出た中編。47歳のときの作。「女性がもつ、この世界で他と比較できない美しさ」の前には、その女性の人となりの高慢とか残酷とかはどうでもいいことである、男と生まれたからには美しく気品ある女性には必ず跪…

谷崎潤一郎 『盲目物語』(講談社現代文学全集)

46歳のときの作。信長の妹、浅井長政の妻、淀君の母であるお市の方。その美貌の人の悲しい生涯を、按摩として彼女に長く仕えた弥市という座頭が、後年なじみの肩もみ客相手に語った体裁になっている。弥市は三味音曲の心得もあって長政にもお市にも贔屓にさ…

谷崎潤一郎 『細雪』(角川文庫)2/2

幸子の夫・貞之助も、妻と同じような愚痴と嘆きと恨みと疑いがいっしょになって頭の中に空転する男である。貞之助のモデルは谷崎自身だったから、谷崎のどっちつかずな女性的性格は相当なものだったのではないか。容易に物事を決めつけない、優しいといえば…

谷崎潤一郎 『細雪』(角川文庫)1/2

後期の長編。次はどうなるという読み物としての楽しみもふんだんに盛り込まれて、大文豪がさすがの力を見せつける。なんど映画化されたことか。 大阪船場じゅうに名を馳せた蒔岡家の美人四姉妹。その中の三女・雪子のいくつかの見合い話を中心にして、20世紀…

谷崎潤一郎 『蓼食ふ虫』(角川文庫)

男女関係のありように関する谷崎の特異な認識が書かれている。谷崎の後期作品はここから始まるというが、谷崎はもともと「蓼を食う」人だったのだろう。『痴人の愛』を38歳で書き、これは42歳のときの作。 主人公の二人・要と美佐子夫婦は結婚して10年ほど…

谷崎潤一郎 「陰翳礼讃」

p35 もし日本座敷をひとつの墨絵にたとえるなら、床の間はもっとも濃い部分である。・・・そこにはこれという特別なしつらえがあるのではない。要するにただ清楚な木材と清楚な壁を以てひとつの凹んだ空間を仕切り、そこへ引き入れられた光線が凹みの此処彼…