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アレクサンドル・デュマ 『モンテ・クリスト伯』(岩波文庫)

 近代小説史上最大&最高のエンタテインメント作品。
 ボナパルト派と王党派の陰謀に巻き込まれ、冤罪で14年間地下牢に閉じ込められたエドモン・ダンテス。その彼が、同じく入牢中だったイタリアの老司祭からモンテ・クリスト島に隠された巨万の財宝のことを教えられ、九死に一生の脱獄後、14年間の恨みを晴らすべく、西洋人ならではの徹底した復讐劇を繰り広げる。
 復讐と言っても狙うのは相手の命だけとは限らない。相手の経済的破滅、地位名声の失墜、やくざを使った家族脅迫・・・、あの手あり、この手ありの緻密さで手段を択ばない。計画は周到であり、自分の仲間の組織方法は完璧で、相手に反撃のすきを与えない。どんな恨みも水に流して忘れることを国民の美性とする日本人には到底思いつかない執念深さだ。
 以下はその復讐劇の中心となるものの概要。高校生にも十分理解可能な血沸き肉躍る活劇が第2巻から7巻まで楽しめる。

ボナパルト派である)エドモン・ダンテスを検事ビルフォールに讒訴したダン     グラールは、いまは男爵・大銀行家になっている。

・ダングラールの妻とビルフォールは不倫関係にあり、子供Aができる。ビルフォールは誕生当日嬰児を箱に入れ、自邸の庭に埋めるが、ダンテスの家司に助けられる。ダングラールはそのことを知らない。

・検事ビルフォールは王党派だが、父・ノワルティエはボナパルト派。遺産はすべてこの父の名義になっていて、そのことがダンテスを捕えようとするビルフォールの動きを縛る。

・ビルフォール家には前妻の実家・侯爵家の遺産相続問題があり、折も折、義父母が相継いで毒殺される。再婚した現夫人が実子のためにその遺産を狙ったことを疑われる。

・ビルフォールの現夫人は前夫人の娘ヴァランティーヌにまで手をだし、現場を夫の父・ノワルティエに見つかる。ビルフォールに「逮捕され死刑にって家名を汚すよりは自殺しろ」と言われ、子供を道連れに服毒する。

・ダングラールの妻とビルフォールの子供であるAはろくでもない人間に成長しており、種々の刑事事件を起こす。ビルフォール検事総長としてAを論告するが、人定尋問のときAは「自分はビルフォールの子供であり、生きたままビルフォールに埋められた」と爆弾発言する。ビルフォールは狂気に陥らざるを得ない。

・ダングラールの銀行には、ダンテスと気脈を通じたユダヤロスチャイルド銀行保証の「持参人払いの巨額手形」が何通も持ち込まれる。ダングラールの金は見る間に底をついて行く。いっぽう妻とビルフォールの子供Aの爆弾発言は街中のゴシップになり、ビルフォールは妻をおいてパリを逃げ出す。そのあとローマでダンテス配下の「山賊」に囚われ、数日間水も食料も奪われて、獄中でダンテスが味わった飢餓に苦しめられる。

・頭の少し弱いビルフォールの妻は暮らしの急落がよく理解できないが、屋敷に戻ることはできず、羽振りの良かったころには世話をしてくれた若い男にも捨てられて、小さなアパルトマンでひとりになる。

・ダンテスの許嫁だったメルセデスは、ダンテスが獄死したものと思って、かねて自分に言い寄って来ていたフェルナンと結婚していた。フェルナンは讒訴の書状をビルフォールに届けた男だった。その後軍隊に入り、運に恵まれて将官・モルセール伯爵にまでなっていた。しかしその地位は上官をトルコのスルタンに売り、上官の夫人と娘をスルタンの奴隷に差し出して獲得した和平によるものだった。

・モンテ-クリスト伯に巨額の資金を提供された新聞は、上官の夫人と娘をスルタンの奴隷に差し出したモルセール伯爵の所業を執拗にかきたてる。あげくモンテ-クリスト伯に「自分はお前たちによって14年間地下につながれたエドモン・ダンテスである」と告げられてピストル自殺し、復讐は完結する。