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2012-11-01から1ヶ月間の記事一覧

夏目漱石 「こころ」(岩波文庫)2/2

「世の中には、否応なしに自分の好いた女を嫁に貰って、嬉しがっている人もありますが、それは愛の心理がよく飲み込めない鈍物のすることと、当時の私は考えていました。つまり私はKに比べて、きわめて高尚な愛の理論家だったのです。(p223) 「ある日、…

夏目漱石 「こころ」(岩波文庫)1/2

疑心は、心中に鬼の跋扈を許す利己系の感情である。しかし、ひとがさまざまな人間関係の葛藤の中にあって、自分の立ち位置を決めかねるとき、とりあえずの足がかりを見つけるのに役に立つ感情でもある。相手の優位(らしい)ポイントとそれに対応した自分の…

内田 樹 「街場の大学論」(角川文庫)2/2

68年入学組と70年入学組の世代論的落差 p237-9 68年の東大入学者は、まだ学内全体としては静穏なる政治的状況を保っていた時期に、大学に入った。そして医学部で始まった学内の抗争が全学に飛び火し、ある日、駒場にも機動隊が導入され「日常的なキャンパス…

内田 樹 「街場の大学論」(角川文庫)1/2

大学統合・淘汰についてのいい加減な新聞論説 p14・21 大学の統合・淘汰について2007年に毎日新聞が以下の社説を載せていた。 「こんな時代になったのは、少子化が進んだためだけではないのだ。大学教育の『質の低下』という積年の、本質的な問題がある。(…

夏目漱石 「野分」(新潮文庫)

「野分」とは初冬の寒風に吹かれる主人公白井道也の精神の象徴らしい。年譜としていえば『虞美人草』の前に書かれた作品。「世は名門を謳歌する、世は富豪を謳歌する、世は博士、学士までをも謳歌する。しかし公正な人格に逢うて、地位を無にし、金銭を無に…

養老孟司 「カミとヒトの解剖学」(ちくま学芸文庫)5/5

ハイテクが変えた人間 p214 人工臓器を洗練していったとしよう。とことん最後に、どうなるか。おそらく、いまの健康な人間並みの機械ができあがるだろう。それなら、いまの人間ではなぜいけないのか。 病気になる、最後に死ぬ、それが人間の欠点だ。そうい…

養老孟司 「カミとヒトの解剖学」(ちくま学芸文庫)4/5

「浄土」の見方 p181-98 人間の考えることは、論理的にはすべて脳の機能に還元される。しかし、ある人が「何を」考えているか、その詳細はとうていわからない。 たとえば、下は中沢新一氏のきわめて難解な「極楽論」の一節である。我慢して数行だけ読んでほ…

養老孟司 「カミとヒトの解剖学」(ちくま学芸文庫)3/5

「霊魂」の解剖学 p143 自然である身体には男女の差がある。男女の扱いに、社会においてかならず差異が発生するのは、差別ではない。(「常識」とは逆に)自然がおいた差異をなんとか統御しようとする脳の努力の反映である。 したがって社会は自然の男女差…

養老孟司 「カミとヒトの解剖学」(ちくま学芸文庫)2/5

「死」の解剖学 p80-1 脳死を仮に死であると定義して、わたしは植物状態と脳死の間に線を引かない。わたしが植物状態になって数年経てば、家族の状態はまったく変わる。わたしは仕事をクビになり、ローンを支払わねばならず、医療費も支払わねばならない。…

養老孟司 「カミとヒトの解剖学」(ちくま学芸文庫)1/5

宗教体験 p18 脳がある体験をすることと、外界にその対応物が存在することは、別なことである。宗教方面の少し高徳なあたりでは、時々これを一緒にすることがあるので、困る。比叡山を千回走り回ると、その僧の内部では何らかの世界解釈が変わるであろうが…

J・M・クッツェー 「遅れた男」(早川書房)

初老の主人公ポール・レマンはプライドの高い小金持ちのインテリある。その彼が冒頭の第一行で自転車ごと若者の車にはね飛ばされ、左足が膝から下をグチャグチャにされる重傷を負う。左足は切断するしかなく、退院後もレマンは生活のほとんどを派遣介護士に…