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平野啓一郎

平野啓一郎 「かたちだけの愛」

こういうものをもう一度書くと、誰も相手にしなくなるという二級品である。 思えば前作 『ドーン』から、平野は作家として深刻なエンジントラブルを抱え、危険な低空飛行が始まっていた。 左足切断という、女優としての存在理由を失うような事故に遭い、それ…

平野啓一郎 「ドーン」

p60 正しいことを誰かが語っていると感じたときには、決して言葉だけを記憶してはならない。その人間の顔を声とを必ず一緒に記憶するのだ。その言葉がどんな顔とどんな声とで語られたのかを。 p171 俺は、自分はもっと複雑な人間のはずだと、おめでたくも…

平野啓一郎 「葬送」 2

『葬送』はショパンの葬式から始まっている。ということは、スリリングなプロット展開や登場人物の「生活者としての生き死に」などは初めから問題とはされていないということだ。 生死は時計で測られる時間の中の現象でしかなく、時間が短くも長くもなるとこ…

平野啓一郎 「葬送」 1

十九世紀中庸、パリでのショパン、ドラクロア、ジョルジュ=サンドを中心にした生身の「芸術家」たちの心理小説、芸術論小説。文庫四巻本の大作。平野の語彙の膨大さ、展開力の確かさ、性格描写の丁寧さとともに資料渉猟のエネルギーに改めて目を見開かされた。…

平野啓一郎 「一月物語」

平野が好きな森鴎外をまねて、若いときに一度は書いておきたかったであろうことが匂う。デビュー作「日蝕」のスケールをやや小さくして、話を熊野古道の幻奇譚にとどめ、その代わりに細部まで書き込んだ習作だ。 ここから「決壊」まではずいぶん遠いが、平野…

平野啓一郎 「決壊」 2

この小説には「避けられない悪」のつきつめた議論がある。種の絶滅を回避する仕組みとしての圧倒的に多様な個体が、それぞれにありとあらゆる環境に投げ込まれる。しかし、個体は世界に「投げ込まれ」るのだから、本人は責任のとりようがない。ならば、遺伝…

平野啓一郎 「決壊」 1

毎年ノーベル賞候補になっているらしいベストセラー作家を超えて、日本の今世紀最大の作品ではなかろうか。売上部数ではかなわないだろうが。その人にあったような、伏線の未解決や登場人物の俗悪な台詞もまるでなく。主人公の錯乱と自殺の悲劇も確かな納得…