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2016-04-01から1ヶ月間の記事一覧

小泉英明 『アインシュタインの逆オメガ』(文芸春秋)

筆者は東大基礎科学科卒業後、日立の基礎研究所で生化学物質のさまざまな超精密計測機器を開発した人。ご自身も深く関わった光トポグラフィーによる脳機能の可視化装置は、うつ病の判定診断に欠かせない先進医療の核心技術のひとつということだ。(ちなみに…

ジュンパ・ラヒリ 『低地』(新潮社)

両親ともに社会的能力に恵まれた場合、子育てはどちらが担うのがいいのだろう。父親が何日の育児休暇を取ったなどと呑気なことを言って済ませることがらではない。 バングラデシュの過激な革命運動のさなか、カルカッタの低湿地帯にある貧しい自宅で警官隊に…

デイヴィッド・ベニオフ 『卵をめぐる祖父の戦争』(早川書房)

戦争小説。1942年、ドイツによる凄惨な旧ソ連レニングラード包囲戦の最中に起きた(かもしれない)、愚かでそれでいてファンタジックなエピソードが描かれる。著者ベニオフはブラッド・ピット主演の『トロイ』の脚本も書いている映画人らしい。この小説の起…

円地文子訳 『源氏物語』 (新潮社)9/9

なぜ紫式部はこのような長い長い物語を書いたのだろうか。第九巻の月報に河野多恵子が書いている。 「清少納言が『枕草子』を書いたのは、衒いの欲望のためだったという気がする。・・・・・が、紫式部が『源氏物語』をなぜ書いたかということは、内的・外的…

円地文子訳 『源氏物語』 (新潮社)8/9

巻十 浮舟は、光源氏の(世間的には)二男であり表の政治世界でも有能な薫と、親王ゆえに官位などどうでもいい当代随一のプレイボーイ匂宮の二人から想われてしまう。この浮舟に対しては、読者の好みは、男と女によっても、それぞれの社会観、人生観によって…

円地文子訳 『源氏物語』 (新潮社)7/9

巻八 宇治十帖が始まる『橋姫』の巻で、薫は自分の出生の秘密を知らされる。教えてくれたのは「弁の君」という、かつて源氏の六条の院で朱雀院の娘・女三の宮に付き添っていた老女房。柏木を女三の宮の部屋に手引きした「小侍従」の女房仲間で、しかも自分の…

円地文子訳 『源氏物語』 (新潮社)6/9

紫式部は僧というものを、「告げ口をする卑劣漢」として、遠ざけておきたい人種の内に数えている。 たとえば、光源氏と藤壺の不義は当人同士の絶対の秘密であったのを、代々の帝の加持祈祷を行い過分な禄をもらい続けてきた僧都が、こともあろうに不義の子で…