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2014-01-01から1年間の記事一覧

丸山真男 『個人析出のさまざまなパターン』(岩波・著作集第九巻)

社会の近代化または資本主義の高度化にともなって、その社会の個人の心理や行動はどう変化せざるを得ないか―――。このことに対して、簡単な図式を使いながらもハッとするような明解な論証を試みた論文だ。読み始める前は、こんな十把ひとからげ的な、類型的な…

河合隼雄 『講演集 物語と人間の科学』(岩波書店)

河合隼雄は村上春樹との対談(『村上春樹、河合隼雄に会いに行く』・新潮文庫)のなかで、村上が 「国際紛争と日本のかかわりをどう考え行けばいいのか、ぼくはまったくうまく説明できないのですよ」と嘆いていたとき、こんなふうに答えていた。 「日本は、…

河合隼雄 『コンプレックス』(岩波新書)

精神分析あるいは臨床心理学の一般向け「古典」。1971年の初版以来、2012年で61刷を重ねている。コンプレックスという言葉は、あるいはこの新書から日本語に定着したのではなかったか。しかも、無意識内に存在し、表層意識の自我の形成に深い影響を与える「…

養老孟司 『大言論 Ⅲ 大切なことは言葉にならない』(新潮社)

国家も新聞も「約束事」の言葉の上に成り立つ 2008年から2010年まで季刊誌『考える人』に連載されたものをまとめたもので、『大言論』というおふざけタイトルの付いたシリーズの最終巻。養老さんは初出の最終稿を書いていたとき72歳になっていた。いろいろな…

花田清輝 『復興期の精神』(講談社文芸文庫)3/3

花田清輝は20世紀日本最大の批評家のひとりだと思う。花田はその途方もない知力によって、小児病的文壇人、厚顔無恥なデマゴーグ、蛸壺にひそむ「専門家」群を笑いとばした。そうした不羈の精神を臆するところなく公言したものにギリシアの喜劇作家アリスト…

花田清輝 『復興期の精神』(講談社文芸文庫)2/3

コペルニクスを語った『天体図』で、花田清輝はヨーロッパのルネサンス人について書きながらじつは「転形期の日本人」のありかた、つまり自分のこれからの闘い方を問うている。 花田清輝は男らしい人だった。ぐずぐずと小理屈をひねくり回し、自分の勉強の足…

花田清輝 『復興期の精神』(講談社文芸文庫)1/3

『復興期の精神』は鍛え抜かれた鋼鉄のような批評家花田清輝の代表作である。昭和21年の飢えと混乱の中に現われたのだが、そのときの花田は毎日が食うや食わずの状態だったようだ。もっとも貧乏は戦時中から続いていて、憲兵隊の検閲下で出版社が恐怖したこ…

バートランド・ラッセル 『西洋哲学史 3』(みすず書房)2/2

第27章 カール・マルクス マルクスは、「産業社会時代の哲学」という自分の立ち位置を自覚していただろうか マルクスはみずからを唯物論者だと称したが、18世紀的タイプの唯物論者ではなかった。彼の見解によれば、ひとの感覚や知覚の作用は主体と客体の相互…

バートランド・ラッセル 『西洋哲学史 3』(みすず書房)1/2

副題にあるとおり、「古代より現代にいたる政治的・社会的諸条件との関連における哲学史」を概説したものである。とりあげたすべての西洋哲学者において、その学説が微に入り細にわたって検討されているのではなく、どのような時代背景の中にその学説が生ま…

三木成夫 『胎児の世界』(中公新書)

個体発生は系統発生をくりかえすという。人間の胎児にあっては受胎の日から30日を過ぎてからの一週間がこの「系統発生再現」の時期らしい。たった一週間で、あの一億年を費やした脊椎動物の歴史が早送りされる。その模様が息を呑むようなリアリズムで述べら…

宮本常一 『庶民の発見』(講談社学術文庫)

宮本常一は50巻を超える著作集をあの未来社から出している、批判をするのもはばかられる大民俗学者である。しかし私はどうも好きになれない。何に肌が合わないのだろうか。 本書p21に、庶民あるいは農民を擁護する宮本の基本的立脚点を記した文章がある…

余 華(ユイ・ホア) 『死者たちの七日間』(河出書房新社)

中国では、大昔からずっと、孔子が巫祝社会の中に育った時代からずっと、死者は自分の墓がない限り永久に冥界をさまよい続けなければならないとされているそうだ。古代人の恐怖が今でも生きているわけである。日本の八百神も朝鮮の北方アジア系シャーマニズ…

丸山真男 『佐久間象山・幕末における視座の変革』(岩波・著作集第九巻)3/3

「私は、人間の進歩という陳腐な観念を固守するものであることをよろこんで自認する」 本巻(岩波・著作集第九巻)に『日本の近代化と土着』という小論がある。そこで丸山は強い言葉を使って、自分がヨーロッパ近代主義者といわれていることを認めている。「…

丸山真男 『佐久間象山・幕末における視座の変革』(岩波・著作集第九巻)2/3

ヨーロッパ近代文明ははたして今も通用する「普遍的」価値をもつのか はたして丸山真男は、彼の批判者の常用文句である「心底からのヨーロッパ近代主義者」であったのか。次の一節で、佐久間象山に「中国は五千年も昔に、不思議に早く智慧はついたが、その後…

丸山真男 『佐久間象山・幕末における視座の変革』(岩波・著作集第九巻)1/3

政治が「可能性の技術」であることをよく知っていた佐久間象山 p237−8 佐久間象山は自分が仕える松代の真田藩主に対していろいろな上書を提出し、幕末の政治的な状況に対するリアルな認識方法を具申しています。その中で彼は言っています。「日本に対してイ…

横手慎二 『スターリン』(中公新書)2/2

日本とスターリンが直接関係する出来事に1939年のノモンハンの戦いがある。スターリン個人の倫理観に帰せられる人民抑圧はヒトラーのホロコーストと同様にいかなる意味でも正当化できない。が、あえて倫理と政治を切り離して考えてみれば、ノモンハン事件を…

横手慎二 『スターリン』(中公新書)1/2

スターリンの人物像を再検討してみようとした本。晩年には居室や寝室に12個の鍵をつけていたというほど、猜疑心が異常な男だったことは確からしいが、そうしたスターリンの個人的性格と政治的「功績」は別のものであるという観点からこの本は書かれている。 …

笠井潔・白井聡 『日本劣化論』(ちくま新書)

いわゆる論壇人の対談本。このごろその方面はとんと不勉強なので笠井潔・白井聡の両氏とも名前くらいしか知らなかった。笠井氏は私と同い年。固い単語を使うリベラルな人で、話す言葉に、大学紛争のときに吹いていた風を体全体で吸っていた感じがある。心の…

ウィングフィールド 『フロスト気質』(創元推理文庫)

養老孟司の「おすすめ本リスト」で激賞されていたイギリスの警察小説シリーズ。作家の四作目にあたる。もともと養老さんの薦める本は、小説だけはぼくの肌にあわないのが多かったのだが、このウィングフィールドのものほど、病院の待合室で読んで、電車の中…

吉本隆明 『共同幻想論』(角川文庫)2/2

詩人独特の断言口調で語られる本書には、教えられることも多かった。そのひとつに本書末尾の「起源論」がある。古事記に記された初期天皇群の和称の姓名と『魏志倭人伝』に記載された邪馬台国などの官名が一致していると指摘して、古事記編者たちが思い描け…

吉本隆明 『共同幻想論』(角川文庫)1/2

わたしは恥ずかしながら吉本隆明は今まで読んだことがなかった。20代、何かの雑誌で読んだことはあるかもしれないが、「分かりにくい人だ」と思った記憶があるくらいで、それも二つ三つ、新聞の論壇記事だけを読んでのこころもとない印象だったと思う。 『…

日高敏隆 『動物と人間の世界認識』(ちくま学芸文庫)2/2

p140−4 もちろん人間にも知覚的な「枠」がいろいろある。たとえば超音波は人間の耳には聞こえない。人間は超音波がどのようなものかを感じることができない。 人間は、超音波というものがあることは、いろいろな方法で証明することができる。機械によって振…

日高敏隆 『動物と人間の世界認識』(ちくま学芸文庫)1/2

地球上のすべての生物に共通な「客観的」環境など存在しない。――このことをこれほどわかりやすく簡潔に書いた本はないのではなかろうか。著者・日高敏隆氏はコンラート・ローレンツらの動物行動学を日本に根付かせた研究者であり、多くの外国語に堪能であっ…

イザベラ・バード 『朝鮮紀行』(講談社学術文庫)3/3

p152−9 第9章「結婚にまつわる朝鮮の風習」 ソウル近郊の漢江流域の町である婚礼の風景に出会った。結婚、弔い、悪魔祓いには朝鮮らしさがよく表れている。 縁組の最初の段階では一般に仲介者が入る。新郎の父親から新婦の父親に金銭が渡されることはない。…

イザベラ・バード 『朝鮮紀行』(講談社学術文庫)2/3

『朝鮮紀行』は旅行記だから、現代の読者がほとんど知らない朝鮮半島の当時の暮らし、風物などにも、もちろん多くのページが割かれている。当時の朝鮮の宗教事情と結婚にまつわる風習の章が興味深かった。 世界宗教を受け入れなかった朝鮮 p85−92 第4章「朝…

イザベラ・バード 『朝鮮紀行』(講談社学術文庫)1/3

イザベラ・バードはイギリス北部、ヨークシャー出身の女性旅行家、紀行作家である。1878年頃には日本の関東・東北・北海道を旅して名高い『日本紀行』(講談社学術文庫上下2巻)を著した。東京から青森までの民衆の暮らしの紹介も興味深かったが、特に北海道…

ウィングフィールド 『フロスト日和』(創元推理文庫)

『クリスマスのフロスト』につづくウィングフィールドの、いわゆるモジュラー型警察小説の二作目。『クリスマスのフロスト』以上の傑作だ。 郊外の深い森の中の連続婦女暴行事件、公衆便所に浮かんだヤク中浮浪者の死体、轢き逃げされた貧しい老人、轢き逃げ…

コンラート・ローレンツ 『人 イヌにあう』(ハヤカワ文庫NF)

コンラート・ローレンツは、自分が飼っているカラスを肩に乗せて、目ヤニなどを取らせても目をつつかれる恐怖はまったく感じなかっという、あまりないタイプのノーベル賞動物学者である。自分という人間が動物の心に鏡にどう映っているかを正確に感じ取り、…

オリヴァー・サックス 『火星の人類学者』(ハヤカワ文庫NF)2/2

本書のタイトルがとられている「火星の人類学者」とは、自閉症でありながら動物行動学を学んで博士号を取り、コロラド州立大学で教えている女性・テンプル・グランディンの話である。彼女は自閉症者として、人の心や見方に対する共感が不得意だ。しかし知能…

大嶋幸範 朝日新聞の醜聞

今回の朝日の<従軍慰安婦 偽報道>はひどいものだ。文芸春秋10月号のどこかの記事によれば、いま朝日新聞についてはこんな狂句がついて回っているという。「アカが書き ヤクザが売って バカが読む」・・・昔からある「新聞は インテリ書いて ヤクザ売り」よ…