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梅棹忠夫 『文明の生態史観』 中公文庫

p101・201-2 

 東洋とか西洋とかいう言葉は、漠然たる位置とか内容をあらわすには大変便利な言葉だが、少し精密な議論を立てようとすると、もう役に立たない。

 わたしは大きな地域の文化の成り立ちを考えるとき、その文化の先祖はどこかという「系譜論」の立場はとらずに、いまの共同体の生活様式をデザインしたのは誰か、自分たちのオリジナルなのか、あるいは誰かからの借りものなのかということを問題にする「機能論」の立場をとる。

 すると、アジア、ヨーロッパ、北アフリカを含む全旧世界は、二つのカテゴリーに分けられることが見いだせる。

 一つは、西ヨーロッパおよび日本を含むところの、第一地域である。もう一つはこの西ヨーロッパと日本に挟まれたユーラシア全大陸のすべてで、これを第二地域とする。

 第一地域は、歴史の型からいえば、塞外野蛮の民としてスタートし、第二地域からの古代文明を導入して、そこから独自に、封建制、絶対主義、ブルジョア革命を行い、現代は資本主義による高度の近代文明を持つ地域である。 

 第二地域は、もともと古代文明はすべてこの地域に発生しながら、封建制を発展させることなく、後に巨大な専制帝国をつくり、その矛盾に悩み、多くは第一地域諸国の植民地ないしは半植民地となり、最近にいたってようやく、数段階の革命をへながら、新しい近代化の道をたどろうとしている地域である。 

 具体的に第二地域の名前をあげるなら、(1)中国世界、(2)インド世界、(3)ロシア世界、(4)地中海・イスラム世界、となるだろう。現在では、帝国はすべてつぶれたが、巨大な地域共同体としての一体性は消え去ってはいない。