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司馬遼太郎 『アメリカ素描』 新潮文庫

 巨大文明アメリカの中での様々な文化的側面‥‥WASP、犯罪の日常性、排日問題、ゲイ、多民族、清教徒感覚、弁護士社会、ウォール街・資本の論理‥‥が、あまり重苦しくなく語られる。

 巻の終章に近いところで触れられる「アメリカ的善意」がフレッシュだった。アメリカ農務省が世界中の植物の種を貯蔵しているという話だった。ある国がその国独特の野菜や穀物の栽培をやめてしまっていても、国の事情が変わってもう一度栽培しようと思えば、アメリカのメリーランドやコロラドの採種圃場に行けばタダでくれることを検討するのだという。

 この一点だけでも、アメリカという文明の基礎が、人間に安く豊かに食物を与えることにあるということが分かる。ただ、この裏面には、全世界の農業産業にとって死活的な支配力をアメリカ農業産業に与えようという、恐るべき戦略性が潜んでいることも忘れるべきではない。