アクセス数:アクセスカウンター

2013-10-01から1ヶ月間の記事一覧

多田富雄 『生命をめぐる対話』(ちくま文庫)1/2

1990年代に『免疫の意味論』、『生命の意味論』という二冊の名著を書いた世界的免疫学者の対談集。『免疫の意味論』、『生命の意味論』のどちらでも、生命における自己と非自己の境界認識の意味が深く掘り下げられていた。読んだときの感動が今でも残ってい…

夏目漱石 『明暗』 (角川文庫)3/3

p64-98 津田と妹のお秀が、カネとお延の態度のことで兄弟喧嘩をする。そのあと、小林という旧知のインテリやくざ男が小遣いせびりかたがた津田を見舞いに来る。その小林から、お秀が吉川夫人を訪ねてカネの工面やお延の態度のことなどを相談したこと、それ…

夏目漱石 『明暗』(角川文庫)2/3

p239 津田の妻お延の眼には、父に頼まれて漢籍を返しに行った時に初めて会った津田の顔がちらちらした。そのときの津田は今の彼と別人ではなかった。といって、今の彼と同人でもなかった。平たく云えば、同じ人が変わったのであった。最初無関心に見えた彼…

夏目漱石 『明暗』(角川文庫)1/3

初めて読んで、ひどく胃を悪くする心理描写に驚いたのは学生時代の終わりごろだったろうか。いま二回目。再読しても、自分の若かったときの場面に出合わせて読めばとてもつらい文章が何十回も出てくるのは同じである。 上巻 p30 「自分は上司・吉川と特別の…

莫 言 『牛』 『築路』(岩波現代文庫)

題名だけ知っている『赤い高粱』の作者でもある莫言(モーイエン)は去年のノーベル賞作家である。中国芸術研究院芸術創作研究センターの教授職にある人らしい。だからいわゆる反体制著作活動をしている人ではない。 『牛』も『築路』も文化大革命まっただ中…

ガルシア・マルケス 『予告された殺人の記録』(新潮文庫)

ガルシア・マルケスははじめて読む。被害者が残忍に切り刻まれた殺人事件だが、その男は殺されて当然の人間だった。犯人も、動機も、場所も、手口も全部が街中の人に知られているという、近代西洋社会ではあまりありえない話が書かれている。 殺人事件のトレ…

ジョナサン・スイフト 『ガリヴァー旅行記』(岩波文庫)2/2

p220 深い思索癖の男とお気楽な女だけが住むラピュータ島にて 「飛んでいる島」ラピュータ島の上層階級はすべて深い思索癖がある。口と耳を適当に外部の者に叩いてもらわないかぎり、ものを言うことも他人のいっている言葉に耳を傾けることもできない。上層…

ジョナサン・スイフト 『ガリヴァー旅行記』(岩波文庫)1/2

言うまでもないことだが、この本は子供向けの冒険奇譚ではない。全編が、上げ潮にあった英国(上層)社会に対する悪態と当てこすりに貫かれた、当時としては危険な「政治小説」である。 巻末に、翻訳者である東大教授平井正穂の、謹厳で有名だったらしい彼に…

夏目漱石 『吾輩は猫である』(岩波文庫)2/2

『吾輩は猫である』には、刊行一世紀後の日本社会の家族崩壊と結婚生活の破綻を、迷亭が詳細に「予言」した箇所がある。数十年前、下宿で読んだときはまったく気がつかなかった、というか、家族とか生活というものの実感がなかったのだろう。脚注を書いた斉…