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2013-09-01から1ヶ月間の記事一覧

夏目漱石 『吾輩は猫である』(岩波文庫)1/2

言わずと知れたデビュー作。たった四九歳での絶筆『明暗』よりは少し短いが、漱石全作品中二番目の長編であり、少し小さい活字を使いながらも五○○ページを超える大作である。トルストイ『戦争と平和』やゲーテ『ウィルヘルム・マイスター』といった説教本な…

プルースト 『失われた時を求めて』 第一篇「スワン家のほうへⅠ」1/13

昔、新潮社・井上究一郎訳の8巻本を買って読み始めたわたしもそうだったが、『失われた時を求めて』を読もうとする人は最初の10ページほどで挫折する。岩波文庫の今回の新訳でいうと、有名な「ながいこと私は早めに寝むことにしていた」という書き出しか…

東 浩紀 『ゲーム的リアリズムの誕生』(講談社現代新書)

「オタク」や「萌え」を理解しようとしてよく読まれた『動物化するポストモダン』の続篇である。少なくとも私は、前世紀の最後半にあらわれた「ライトノベル」を誤解していた。民放TVドラマのようなきわめて類型化された登場人物が、ごく少ない語彙と常套…

阿部謹也 『世間とは何か』(講談社現代新書)

ウィキペディアを見ると、著者阿部謹也氏には非常に多くの著作がある。専門は西洋中世史のようだ。「「世間」をキーワードに、「個人」が生まれない日本社会を批判的に研究し独自の日本人論を展開、言論界でも活躍した」とある。一橋大学学長、国立大学協会…

養老孟司 『人間科学講義』 ちくま学芸文庫3/3

●シンボルと共通了解 p188 ヒト社会で、いったん言葉などのシンボル体系が採用されると、それを了解しない個体は徹底して排除されたはずである。進化史上、その状況が脳にかけられた強い選択圧だったと思われる。言語は脳に特定の論理構造を与えてしまうか…

養老孟司 『人間科学講義』 ちくま学芸文庫2/3

●おなじものの二つの世界 p65 DNAは「物質である」。と同時に、「情報としてはたらく」。DNAの分子構造の決定とそれに続く遺伝情報の翻訳機構の解明によって、この奇妙な現象の意味が明らかにされた。 たえず変化する「生きているシステム」の中で、…

養老孟司 『人間科学講義』 ちくま学芸文庫1/3

●人間科学とはなにか p13 われわれは「世界はこういうものだ」と信じているが、それは脳がそう信じているだけである。しかしそうだとわかったからと言って、事情がさして変化するわけではない。 が、脳がそう信じているだけだということを知ることはそれで…

大嶋幸範 新聞から  「二:八の法則」

先月、八月二十二日の朝日新聞に「心の病、おびえて働く」という大き目の記事があった。本文は以下のような内容だった。 「サラリーマンの心の病が増えているのは、長時間労働やリストラへの不安が、働き手をメンタルヘルス(心の健康)の不調に追い込んでい…

マイケル・ギルモア 『心臓を貫かれて』 (文春文庫)2/2

p40−1 ゲーリーやマイケルはアメリカ・ユタ州ソルトレーク近くの小さな町で育った。母親ベッシーの実家は、この土地にふさわしい敬虔なモルモン教徒だった。モルモンの主要経典は、創始者ジョゼフ・スミスによって一八二○年代に書かれた『モルモン書』であ…