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2016-07-01から1ヶ月間の記事一覧

須田桃子 『捏造の科学者』 (文芸春秋)

毎日新聞の科学部記者が書いたSTAP細胞捏造論文事件の詳細報告。内容はだれでも知っていることだし、タイトルは「捏造」のほうがいいのに、などと思って、買ってしばらく放っておいた。それが先ごろ大宅壮一賞を受けたことを聞いて読んでみたが、中身は事件…

J・アーヴィング 『ホテル・ニューハンプシャー』(新潮文庫)

『サラバ!』を書いた西加奈子が絶賛していた現代アメリカ小説(発行は1981年)。おかしな人物がいっぱい登場する『サラバ!』が――日本の小説には珍しい大きなスケールを持ちながら――基本的には家族の成長物語であったように、『ホテル・ニューハンプシャー…

カズオ・イシグロ 『わたしたちが孤児だったころ』(ハヤカワepi文庫)

舞台は日中15年戦争の頃の上海租界。イギリス、フランス、日本などが表地と裏地がまだら模様に捻じれあう策謀劇を繰り広げていた。 語り手「わたし」の父親はイギリス商社の上海駐在員。会社は通常の貿易業の裏側でインドのアヘンを中国に密輸入し、何百万の…

カフカ 『城』(新潮文庫)

4年前に読んだのだが、家族が一週間後に手術というとき、とても600ページは読み続けられる小説ではなかった。200ページであきらめた。テーマは「審判」とおなじだ。なぜ私たち自身が「いまこのようであらねばならないか」という不条理性。 そのあと、たまた…

永井荷風 『濹東綺譚』(全集第九巻・岩波書店)5/5

『すみだ川』に自分で書いているように、荷風は 「既に全く廃滅に帰せんとしている昔の名所の名残りほど、自分の情緒に対して一致調和を示すものはなく、わが目に映じたる荒廃の風景とわが心を痛むる感激の情とをまとめて、何ものかを創作せん」といつも企て…