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2012-01-01から1年間の記事一覧

内田 樹 「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち」(講談社文庫)1/2

学びからの逃走 p10 憲法には国民は「勤労の権利を有し、義務を負う」定めている。おそらくほとんどの人は、労働が「権利および義務」とされている理由について考えたことはないだろう。「仕事をするかしないか、それは私が自己決定することだ。法律でがた…

ラス・カサス 「インディアスの破壊についての簡潔な報告」(岩波文庫)

一四九二年のコロンブスの新大陸発見以後、スペイン人はカリブ海・南米北部・フロリダなどで先住民の惨殺、金銀や食料の掠奪に悪逆のかぎりを尽くした。その無法ぶりを描いた「古典」である。 著者ラス・カサスはスペイン国王カルロス五世の忠実な官僚司教で…

内田 樹 「日本辺境論」(新潮新書)2/2

場の空気を共有したいという、(無意識的な)「ふまじめさ」 p54 ヒトラーはポーランド侵攻前にこう宣言しました。「余はここに戦端開始の理由を宣伝家のために与えよう。それがもっともらしい議論であろうがなかろうが構わない。勝者はあとになって、語っ…

内田 樹 「日本辺境論」(新潮新書)1/2

きょろきょろする日本人 p23 日本人には、もちろん自尊心はあるけれど、その自尊心の反面に、ある種の文化的劣等感がつねにつきまとっています。それは、サイエンスや芸術作品など、個別の文化指標の評価とは無関係に、なんとなく国民全体の心理を支配して…

内田樹 「街場のアメリカ論」(文春文庫)2/2

アメリカの戦争経験 p123 アメリカは戦争はたくさんしているけれど、戦死者数は少ない国である。第二次大戦では世界中の戦死者は七千万人とされているが、アメリカの戦死者は二十九万人。対して日本の戦死者は三百万人。 戦死者では圧倒的に少ないにもかか…

内田樹 「街場のアメリカ論」(文春文庫)1/2

日本はなぜアメリカを選んだのか p10 人々は自分たちのナショナル・アイデンティティを問うとき、かならず「・・・・にとって私たちは何者なのか」という「他者の視線」を措定する。他者の視線なくして「私」はありえない。化粧をするのも洋服を着るのもパ…

内田 樹 「街場の中国論」(ミシマ社)

グーグルのない世界 p52-6 二年前、グーグルが中国から撤退した。中国は「グーグルが存在しない世界」に取り残されることを自ら決断したのだが、私は、この決断は中国の知的イノベーションにダメージを与え、中長期的に中国経済の「クラッシュ」を前倒しす…

村上春樹 「ねじまき鳥クロニクル」(新潮文庫)2/2

この小説は神話なのだから、ほぼニート状態の「僕」は「運命」に抵抗して「世界」の気に入らないことをいろいろやってしまう。そんなことができる。たとえば枯れ井戸の底にもぐってあれこれ考え事をしたりする。と、考え事をするだけで、「運命」は警告のた…

村上春樹 「ねじまき鳥クロニクル」(新潮文庫)1/2

村上春樹は何冊かしか読んでいない。この『ねじまき鳥クロニクル』はとても面白い話だがなにせ長いし、どこに引っ張っていってくれるのかなと、半分過ぎても予想がつかなかった。ところが三巻本の三冊目に「牛河」という、一度見たら忘れることのない風貌の…

夏目漱石 「こころ」(岩波文庫)2/2

「世の中には、否応なしに自分の好いた女を嫁に貰って、嬉しがっている人もありますが、それは愛の心理がよく飲み込めない鈍物のすることと、当時の私は考えていました。つまり私はKに比べて、きわめて高尚な愛の理論家だったのです。(p223) 「ある日、…

夏目漱石 「こころ」(岩波文庫)1/2

疑心は、心中に鬼の跋扈を許す利己系の感情である。しかし、ひとがさまざまな人間関係の葛藤の中にあって、自分の立ち位置を決めかねるとき、とりあえずの足がかりを見つけるのに役に立つ感情でもある。相手の優位(らしい)ポイントとそれに対応した自分の…

内田 樹 「街場の大学論」(角川文庫)2/2

68年入学組と70年入学組の世代論的落差 p237-9 68年の東大入学者は、まだ学内全体としては静穏なる政治的状況を保っていた時期に、大学に入った。そして医学部で始まった学内の抗争が全学に飛び火し、ある日、駒場にも機動隊が導入され「日常的なキャンパス…

内田 樹 「街場の大学論」(角川文庫)1/2

大学統合・淘汰についてのいい加減な新聞論説 p14・21 大学の統合・淘汰について2007年に毎日新聞が以下の社説を載せていた。 「こんな時代になったのは、少子化が進んだためだけではないのだ。大学教育の『質の低下』という積年の、本質的な問題がある。(…

夏目漱石 「野分」(新潮文庫)

「野分」とは初冬の寒風に吹かれる主人公白井道也の精神の象徴らしい。年譜としていえば『虞美人草』の前に書かれた作品。「世は名門を謳歌する、世は富豪を謳歌する、世は博士、学士までをも謳歌する。しかし公正な人格に逢うて、地位を無にし、金銭を無に…

養老孟司 「カミとヒトの解剖学」(ちくま学芸文庫)5/5

ハイテクが変えた人間 p214 人工臓器を洗練していったとしよう。とことん最後に、どうなるか。おそらく、いまの健康な人間並みの機械ができあがるだろう。それなら、いまの人間ではなぜいけないのか。 病気になる、最後に死ぬ、それが人間の欠点だ。そうい…

養老孟司 「カミとヒトの解剖学」(ちくま学芸文庫)4/5

「浄土」の見方 p181-98 人間の考えることは、論理的にはすべて脳の機能に還元される。しかし、ある人が「何を」考えているか、その詳細はとうていわからない。 たとえば、下は中沢新一氏のきわめて難解な「極楽論」の一節である。我慢して数行だけ読んでほ…

養老孟司 「カミとヒトの解剖学」(ちくま学芸文庫)3/5

「霊魂」の解剖学 p143 自然である身体には男女の差がある。男女の扱いに、社会においてかならず差異が発生するのは、差別ではない。(「常識」とは逆に)自然がおいた差異をなんとか統御しようとする脳の努力の反映である。 したがって社会は自然の男女差…

養老孟司 「カミとヒトの解剖学」(ちくま学芸文庫)2/5

「死」の解剖学 p80-1 脳死を仮に死であると定義して、わたしは植物状態と脳死の間に線を引かない。わたしが植物状態になって数年経てば、家族の状態はまったく変わる。わたしは仕事をクビになり、ローンを支払わねばならず、医療費も支払わねばならない。…

養老孟司 「カミとヒトの解剖学」(ちくま学芸文庫)1/5

宗教体験 p18 脳がある体験をすることと、外界にその対応物が存在することは、別なことである。宗教方面の少し高徳なあたりでは、時々これを一緒にすることがあるので、困る。比叡山を千回走り回ると、その僧の内部では何らかの世界解釈が変わるであろうが…

J・M・クッツェー 「遅れた男」(早川書房)

初老の主人公ポール・レマンはプライドの高い小金持ちのインテリある。その彼が冒頭の第一行で自転車ごと若者の車にはね飛ばされ、左足が膝から下をグチャグチャにされる重傷を負う。左足は切断するしかなく、退院後もレマンは生活のほとんどを派遣介護士に…

J・M・クッツェー 「恥辱」(早川書房)

場所は南アフリカ。よく女性にもてる、セックス依存症といってもいい五十二歳のオランダ系白人の大学教授が、ふとしたことから自分の講座の白人女子学生と寝てしまう。その女子学生は、はじめは彼のすることに対しておとなしかったのだが、彼が調子に乗って…

V.S.ラマチャンドラン 「脳の中の幽霊」(角川文庫)4/4

てんかん・天才・至高体験 p278 側頭葉、とくに左の側頭葉は宗教的な体験となんらかの関わりがあるのではないかと疑われている。医学生なら誰でも知っているが、この部位に原発するてんかん発作の患者は、発作のときに強い霊的体験をする場合があり、発作の…

V.S.ラマチャンドラン 「脳の中の幽霊」(角川文庫)3/4

鏡のむこう p205−6 鏡に映るペンを取ろうとして鏡面に手をぶつけてしまう鏡失認の患者たちは、鏡と向き合っただけで現実と幻想との境界領域に押しやられてしまう。鏡像が右側にあるのだから物体は左側にあるはずだという、きわめて単純な論理的推測ができな…

V.S.ラマチャンドラン 「脳の中の幽霊」(角川文庫)2/4

盲視 p127-32 眼球から入ったメッセージは視神経を通り、すぐ二つの経路に分かれる。この二つのシステムにははっきりした役割分担があるらしい。 一つは系統発生的に古い「定位」の経路で、もう一つはそれよりも新しく、一次視覚皮質と呼ばれる。この一次視…

V.S.ラマチャンドラン 「脳の中の幽霊」(角川文庫)1/4

ラマチャンドランの名前はときどき聞いていたが、この本に養老孟司が解説を書いているとあったので、読んでみた。オリヴァー・サックスが序文を書いていた。 V.S.ラマチャンドランはカリフォルニア大学サンディエゴ校・脳認知センターの教授である。幻肢の研…

バルガス・リョサ 「都会と犬ども」(新潮社)

岩波文庫で出ている同じ著者の『緑の家』といっしょで、一つのパラグラフの中に過去と現在が入り混じる。『緑の家』でははじめの100ページほど悩まされたが、今度は慣れた。登場人物が多く、主役が誰かがはっきりしないのも『緑の家』と同じである。著者の出…

山本義隆 「磁力と重力の発見」(みすず書房)7/7

ニュートンと重力 p857 「私は力の物理的な原因や所在を考察しているわけではない。それらの力は物理的にではなく数学的にだけ考えられなければならない」というニュートンの言説は同時代のライプニッツにさえ理解されなかった。弁神論者ライプニッツは「神…

山本義隆 「磁力と重力の発見」(みすず書房)6/7

フックとニュートン――機械論からの離反 p848 十六世紀後半には、音の強さやローソクの明るさは距離の二乗に反比例することが広く知られていた。ロバート・フックはニュートンへの書簡で「惑星の運動は接線方向への直線運動と中心物体(太陽)の方向に引き寄…

山本義隆 「磁力と重力の発見」(みすず書房)5/7

デッラ・ポルタなどの「理論的」発見 p594 磁石の問題に関して(ダイヤやニンニクが磁力を破壊するといった)古代や中世の迷信と近代科学の分水線を跨いでいるのは、さまざまな実験結果を公刊し「魔術」を平明に種明かししたデッラ・ポルタの『自然魔術』で…

山本義隆 「磁力と重力の発見」(みすず書房)4/7

十六世紀文化革命 p453−462 鉱山開発と冶金、鋳造などの大部な技術書『ピロテクニア』を一五四○年イタリア語で出版したビリングッチョと、同分野の技術書『メタリカ』を一五五六年イタリア語とドイツ語で出版したアグリコラは、それまでの時代にはなかった…