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2022-02-01から1ヶ月間の記事一覧

宇佐美まこと 『少女たちは夜歩く』

愛媛県の松山市には、街の中心部に元領主・蒲生氏の居城が残っている。標高132メートルの土地に三層の天守を持ち、高層ビルの少ない地方都市のどこからでもこの城山を見ることができる。この城山のなかで、もしくは周辺の住宅地域で起きる怪異な出来事を十篇…

宮部みゆき 『ソロモンの偽証』(新潮文庫)

なんとトルストイ『戦争と平和』よりも長い学園内法廷ドラマ。6巻もあるが、『戦争と平和』よりも格段に読ませる。『モンテ・クリスト伯』のような勧善懲悪的予定調和のばかばかしさもない。 ある中学校でクリスマスの朝、一人の2年生の無残な校舎屋上から…

宮部みゆき 『我らが隣人の犯罪』(文春文庫)

短編集。表題作は『オール読物』推理小説新人賞受賞作。 父親以外の男性から精子を提供されて生まれた少年が物語を支えている。タウンハウスの隣家に、散歩に行けないストレスでわめきまくるチンを飼い、脱税をしまくっている夫婦がいるのだが、少年とその叔…

高村 薫 『地を這う虫』(文春文庫)

文庫版で50ページほどの小編を集めた短編集。地を這う虫とは、刑事を自分で退職しながら現在も昔とよく似た仕事をしている男のことである。 刑事とよく似た仕事とは、第1篇『愁訴の花』では警備会社の社員研修担当者、第2編『巡り逢う人びと』ではサラ金会社…

高村 薫 『太陽を曳く馬』 (新潮社)

オウムも含めて仏教の広大な宇宙観と人間論を真正面から扱った哲学小説。日本でこんな小説は一度も書かれなかったのではないか。何冊か井筒俊彦を読んでいたおかげで、下巻66頁「言語以前の、意味以前の、絶対無分節から、私たちのふだん生きている名称のあ…

恩田 陸 『夜のピクニック』(新潮文庫)

TVの連ドラ化や映画化がとてもしやすい高校生学園ドラマ。 舞台は2日間にわたる全校12クラスが参加する耐久歩行レース。1日目はクラスごとに、途中小休憩を取りながら、40キロ先の折り返し地点までを歩く。そこでたった2時間の仮眠休憩があり、翌朝は真夜中…

トルーマン・カポーティ 『冷血』(文春文庫)

1959年にアメリカ・カンザス州で、富裕な農場主一家4人が散弾銃とナイフで何の前触れもなく皆殺しされる。犯人は同じカンザスの下層階級に生まれ育ち、社会から冷遇、無視され続け、その冷たい視線を逆のエネルギーに変えて成人した二人の若者だった。 小説…

高村 薫 『レディ・ジョーカー』(新潮文庫)

グリコ森永事件がこの小説のきっかけになったらしい。 日本一の日の出ビールの社長が誘拐される。現金20億を支払うという条件で解放されるが、金を手に入れた犯人グループはそれを外部には発表せず、仲間のアジトに隠匿する。会社が支払ったことは事実なの…