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恩田 陸 『夜のピクニック』(新潮文庫)

 TVの連ドラ化や映画化がとてもしやすい高校生学園ドラマ。

 舞台は2日間にわたる全校12クラスが参加する耐久歩行レース。1日目はクラスごとに、途中小休憩を取りながら、40キロ先の折り返し地点までを歩く。そこでたった2時間の仮眠休憩があり、翌朝は真夜中から、事前に誘い合っていた気の合う者同士が、膝や足や腰をガタガタにしながら、母校に向けてさらに40キロを歩くという、この学校独自の伝統あるイベントだ。

 主人公は西脇融と甲田貴子という同級生。この二人が実は異母兄弟という意外な設定が面白い。西脇の父親がまだ独身だった甲田の母親と浮気をして、甲田貴子が生まれたのだが、貴子の母親は自分で小さな事業を手掛けており、経済的に自立できていたこともあって、西脇と別れるとき一切の金銭的要求をしなかった。そのため世間的には何の波風もたたず、高校で融と貴子の異母兄弟が同じクラスになった時も、学校側はまったくそのことに気づかなかった。

 二人の間には当然、微妙な感情のやり取りがあるのだが、二人ともそれを目立つ形では一切外には出さない。しかし、今日びの高校生活、融と貴子はふたりとも外見が良い方だったから、クラスで何かと目立ちやすいのだが、なのに二人がわざとのようによそよそしいのがかえって周囲の勘ぐりを受ける・・・・。

 昼夜兼行で40キロを往復する途中の楽しみといえば、校内の生徒同士の恋愛譚が中心なのは古今東西どこでも同じ。二人をめぐる様々なうわさと勘ぐりはいつ果てるとも知れず広がり、いろいろなうねりと紆余曲折を見せる・・・。話のおしまいはもちろん学園ドラマお約束通りのハッピーエンド。