アクセス数:アクセスカウンター

高村 薫 『太陽を曳く馬』 (新潮社)

 オウムも含めて仏教の広大な宇宙観と人間論を真正面から扱った哲学小説。日本でこんな小説は一度も書かれなかったのではないか。何冊か井筒俊彦を読んでいたおかげで、下巻66頁「言語以前の、意味以前の、絶対無分節から、私たちのふだん生きている名称のある世界が立ち上がる」という「アラヤ識」のところだけは一応理解することができたが。

 最後半で主人公の合田警部は、捜査のやり方について上司からさんざん文句を言われて、警察やめた方がいいんじゃないのと嫌味を言われる。「ねえ合田さん、明円和尚は正門の合鍵を、ほぼ鬱状態にあった末永雲水に渡して寺を脱出させていた。そしてそれが結局雲水の自殺に直結した。でもこんな重大事実より、あなたには、高尚な宗教対話の方が面白かったのでしょうな。」

 「あなたにはこんな(オウム以降の)少女連中が、禅寺をパワースポットとしてゾロゾロ歩き回る時代に刑事をやっていること自体が退屈なんだろうなぁ。合田さんなら本気であの麻原とでも対話しそうだもの。捜査にかかる背後の税金なんてものは何も考えずにね。」