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2016-08-01から1ヶ月間の記事一覧

井筒俊彦 『アラビア哲学』(慶応大学出版会)

1993年、78歳で亡くなった著者が35歳のときの著作。世界的宗教学者のごく初期の論文だが、のち『意識と本質』や『イスラム思想史』の中核部分となるイスラム神秘主義と、それが西欧スコラ哲学に与えた深甚な影響などが、すでにこの中にとても分かりやすく示…

池澤夏樹 『真昼のプリニウス』(中公文庫)

池澤夏樹の小説にはいろいろな題材が出てくる。池澤はもともとが理工系の人で、しかも詩人として出発したのだから、地球や宇宙やいわゆる自然と人のかかわりを情感豊かに書かせたら、この人の右に出る作家は日本では少ない。この小説では、浅間山の噴火予測…

[池澤夏樹 『夏の朝の成層圏』(中公文庫)

池澤夏樹39歳のときの、小説家としてのデビュー作。作品の大きな枠組みだけをあの『ロビンソン・クルーソー』から丸々拝借した、見事な作りの、柄の大きな話だ。熱帯の美しい自然と失われた民俗誌描写のなかに、ハリウッドの人間模様、ニューヨークの豪華な…

池澤夏樹 『スティル・ライフ』(中公文庫)

静物画のことを英語で「スティル・ライフ」というそうだ。 ふつうは地上の映像、動画としてとらえられる日常生活。その「地下室的」部分を、詩人・池澤夏樹が顕微鏡的あるいは望遠鏡的静物画としてとらえてみた作品だ。文壇の作品賞にあまり詳しいわけではな…

池澤夏樹 『マシアス・ギリの失脚』(新潮文庫)

去年古希を迎えた池澤夏樹の初期の傑作長編。文庫で600ページを超える。谷崎賞を受けている。 舞台は南太平洋のナビダード民主共和国。いろいろな記述から、フィリピン・ミンダナオ島の東約800キロ、ニューギニア島の北約1000キロのパラオ・ペリリュー諸島に…

池澤夏樹 『アトミックボックス』(毎日新聞社)

1980年代の半ば、自民党の大物が主導し三菱、日立、東芝などが参画した国家機密の原子爆弾開発プロジェクトがあった。原爆実物をつくろうというのではないが、爆縮レンズや起爆剤の精密雷管など主要部品の設計を完成しておき、原発内に蓄積されつつあるプル…