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2014-01-01から1ヶ月間の記事一覧

河合隼雄 『影の現象学』(講談社学術文庫)1/2

よほどの単層的な人を除いて、人はみな影の部分を持っている。正と邪、表と裏、白と黒、建前と本性、面と腹・・・・、これらの対語の後半にくる単語はすべてその人や集団の影の部分を指している。 p48 しかしわれわれ人間は、自分が影を持っていることを認…

中井久夫 『分裂病と人類』(東大出版会)

神経症は古代からあったが、分裂病が「発見」されたのは19世紀、産業革命以降である。すくなくとも西欧の「正統精神医学」によって、精神分裂状態が「病気」として存在することがあると認められたのはたかだか19世紀末のことである。しかし筆者によれば、精…

村上春樹 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文芸春秋)2/2

若い男と女が数人ずつ出てくる恋愛小説だから、「嫉妬」ということが何度も語られる。以下は、上の「巡礼」譚とは直接には関係ない箇所だが、36歳の会社員になっている多崎つくるが、同年代の沙羅という女と親密な関係を持ちながら味わう「嫉妬」に似た感…

村上春樹 『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文芸春秋)1/2

奇妙なタイトルの意味 主人公多崎つくるは名古屋の高校時代、男女2人ずつのとても親密な友人を持っていた。その4人の名字には赤、青、黒、白の文字が含まれていた。赤と青は男子生徒で、白と黒は女子生徒である。名前に色がついていないのは多崎だけだった…

加賀乙彦 『湿原』(岩波現代文庫)

江藤淳は1970〜80年頃、加賀乙彦の一連の作品をフォニー(贋作=通俗作品)と酷評したそうだ。『湿原』は上下巻合わせて1300ページになろうとする「大作」だが、通俗作品とはこういう小説を言うのだと例示できるような、みごとな愚作である。上巻の半分だけ…

中井久夫 『治療文化論』(岩波現代文庫)

著者中井久夫は'13年の文化功労者に選ばれた、臨床精神医学会でその名を知らぬ人ない人である。中井氏の著作を読むと、「解説」にもある通り、臨床精神医学について中井氏が従来の思考法とはまったく異なるパラダイムを持っていることが明らかになる。 中井…

高橋和巳 『日本の悪霊』(河出文庫)2/2

付録対談 <大いなる過渡期の論理> VS三島由紀夫 この本には、「お宝」のような付録として、三島由紀夫と高橋和巳の大学紛争をめぐる対談が収められている。初出は雑誌「潮」の1969年11月号らしいから、三島の自殺の1年前に行われたもので、三島と高…

高橋和巳 『日本の悪霊』(河出文庫)1/2

私たちの世代は、大学内で「闘争」することで、世界という、「形」のない壁への抵抗に初めて、とても稚拙ながら「形」を与えることができた、と思っている。この小説前半部では、議論の前提となる単語ががきちんと定義されていない「全共闘」の典型的なアジ…

福岡伸一 『ルリボシカミキリの青』(文芸春秋)2/2

p151-2 『1Q84』とメンデルのえんどう豆 村上春樹の大ベストセラー小説『1Q84』には、有名な「リトル・ピープル」が出てくる。形も大きさもはっきりしない、ただ人間に悪意だけを持っているかのような不可解な存在である。「リトル・ピープル」はジョージ…