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オルハン・パムク

オルハン・パムク 「白い城」(藤原書店)

トルコに、西欧の「知」が生まれようとするときの物語である。 p69 十七世紀、その細密画はわれわれを満足されるには程遠い代物だった。「まったくもって昔のままだ」と師は言った。「万物は立体的に捉えられ、真の影を持つべきであるのに。そこらの蟻でさ…

オルハン・パムク 「イスタンブール」(藤原書店)

p25 オスマン帝国の夕陽はすでに沈んでいたが、イスタンブールの大家族の食事どきの語らいや笑いは、幸福とは家族や大勢と分かち合う信頼、気楽さであるという間違った印象を幼いわたしに与えた。しかし一緒に笑い合い、楽しんで長い食事をともにした親類が…

オルハン・パムク 「無垢の博物館」 3

下巻p23・34 「夫の映画の仕事にようやくお金を出す気になったのね?・・・・あなたが来るのはべつにいいけど、お金を待たされるのはもううんざりなの」。わたしの婚約式の直後に結婚していたフュスンからこのような暴言を聞いて、平気な顔でいろというのは…

オルハン・パムク 「無垢の博物館」 2

p168 婚約式の会場で、婚約相手のスィベルは、自らが思い描き計画していた“幸福な人生”がいままさに実現しつつあるので有頂天だった。まるで体の皺の一つ一つに至るまでが、ドレスにあしらわれた真珠や襞や結び目の計算しつくされた美しさに、完璧に見合う…

オルハン・パムク 「無垢の博物館」 1

最初は奇妙なタイトルだと思った。結婚を目前に控えた(『雪』のKaに似た)主人公ケマルが、遠縁の十八歳の(これも『雪』のイペッキに似た)フュスンとふとしたことから情交を重ねる。物語の前半部のケマルは「愛を育もうとする危険な領域には過度に足を踏…

オルハン・パムク 「わたしの名は紅」2

p335 すべての馬は偉大なアラーの手によって、一頭ずつ違うものとして創られたのに、細密画師たちはどうして想像の中の同じ馬だけを描くのでしょう。一頭の馬のすばらしさはその形や曲線のすばらしさなのです。それを、盲目の細密画師がそらんじて描けると…

オルハン・パムク 「わたしの名は紅」1

西洋絵画の遠近法を取り入れることをめぐる、十六世紀トルコの宮廷細密画師たちの暗闘の話。密告と中傷と惨い殺人劇に肌が粟立つ。欠陥を見出せないストーリー、大小の挿話を鈍く深く光らせながら衒学に陥らない作者の驚くべき博識・・・『紅』はパムクが描…

オルハン・パムク 「雪」

五百六十ページでおそらく五十箇所以上の誤植あるいは校訂ミスまたは誤訳がある。稚拙と酷評される和久井路子の訳だが、詩人パムクの筆力は宗教イスラーム・政治イスラームとトルコ的近代主義の激しい確執、Kaとイペッキ、カディフェ、紺青の四つ巴の恋を輻…