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2015-01-01から1年間の記事一覧

丸山真男 『福沢諭吉の哲学』(岩波・著作集第三巻)

p129 福沢はまがうかたなき啓蒙の子だった。合理主義に共通する、科学と理性の進歩に対する信仰を持っていた。しかし他方、福沢は、「人における情の力は至極強大にして、理の働きを自由ならしめざる場合の多い」ことにもよく通じており、「されば、かかる…

丸山真男 『福沢における「実学」の転回』(岩波・著作集第三巻)

p117−9 福沢諭吉が「親の仇」のように嫌った江戸以来のアンシャン・レジームの学問では、倫理学が「学中の学」だった。ただそれは自然認識が欠如もしくは希薄だったということではなかった。そうではなくて、自然が倫理価値と離れがたく結びついており、自…

河野多恵子 『逆事(さかごと)』(新潮社)

統語法をわざと無視するような、「段落として意味が読み取れればそれでいいのよ」と言っているような文章を書く人である。谷崎の衣鉢を継いだ大家であるし、これを書いたとき八十五歳を過ぎていたのだから、だいいち今年亡くなった人なのだから、細かいこと…

長谷川 宏 『日本精神史・上』(講談社)4/4

第十七章 法然と親鸞 万人救済の論理 法然によってはじめて、 日本仏教は「普通の人々とともに生きる普遍宗教」になることができた。 (以下は法然についての記述のおもな部分を抜き出したもの) 法然の生きた平安末から鎌倉初期の時代は、鴨長明の『方丈記…

長谷川 宏 『日本精神史・上』(講談社)3/4

第十三章 『枕草子』と『源氏物語』 平安朝文学の表現意識 紫式部にとっては、貴公子の政治的行動も、異常な恋愛も、出家者の浄土希求も、 明るくもあり暗くもある、自分の生きる「この世のなかでの出来事」である。(以下は『源氏物語』についての記述のお…

長谷川 宏 『日本精神史・上』(講談社)2/4

第十二章 浄土思想の形成 平安中期になって インド・中国由来の浄土思想は日本太古の汎神思想と溶け合った 京都府の南部、木津川市にある浄瑠璃寺は、宇治川のほとりにある平等院鳳凰堂が往時の都会風の華やかな美しさをたたえて「里の極楽」と呼ばれるのに…

長谷川 宏 『日本精神史・上』(講談社)1/4

毎日新聞の書評欄にあったなんとも大上段に振りかぶった書名が気になった。毎日のこの書評には、上古・上代から江戸時代まで多くの文献が引用されているがすべて分かりやすい現代語訳になっているとあり、そこに惹かれた。著者・長谷川宏氏は東大哲学科を出…

ラザフォード・オールコック 『大君(タイクーン)の都』上巻(岩波文庫)

幕末、初代駐日イギリス公使を務めたラザフォード・オールコックの滞日記録。高校の日本史教科書にも出ていた。大君とは徳川将軍のこと。1859年から1862年までの、江戸における政治外交情勢と国民生活の様子が、絶頂期を迎えつつあった大英帝国の外務官僚の…

渡辺茂 『鳥脳力』(化学同人)

ハトはモネとピカソを弁別できる p130−2 鳥の多くは視覚動物だ。ヒトも優れた視覚動物だが、じつは哺乳類全体からみると視覚優位の動物は少数派である。 ハトが視覚認知に優れていることを示す数多くの実験的研究がある。ハトは訓練すれば、単に図形や色を…

ブレイクモア 『脳の学習力』(岩波現代文庫)

めざましい進歩をとげつつある脳科学が、大人、子供、脳神経関係に障害を持つ人、持たない人を問わず、学習と教育にどのように関わることができるかを、脳のメカニズムの具体的な例をあげながら示した本である。「子育てと教育へのアドバイス」というサブタ…

莫 言 『赤い高粱』『続 赤い高粱』 (岩波現代文庫)

莫 言の名が世界に知られたのはこの『赤い高粱』によってであるらしい。発表は1986年だが、翌年の同名映画がベルリン映画祭で金熊賞を獲得してから、その原作者としてメディアに注目されるようになったということだ。 2012年のノーベル賞受賞作となった『赤…

カズオ・イシグロ 『浮世の画家』(ハヤカワepi文庫)

語り手でもある主人公・小野益次は、いまは隠退しているが、1945年までは日本中で名の知らない人はいなかった大画家。物語はその小野益次が、戦争が終わってすぐ、長崎の高級住宅地にある故・杉村明の大邸宅を買い取るところから始まる。杉村明というのは、…

内田 樹・平川克己 『東京ファイティングキッズ・リターン』(文春文庫)2/2

日本人が英<会話>を苦手とする構造的理由 p186-92(内田樹) 太平洋戦争で完膚なきまでに打ちのめされた日本人の中には、生きる目的をほとんど見失っていた人たちも多かった。 そこを、「平和憲法」という世界でもっとも倫理性の高い基本法を国民に与え示…

内田 樹・平川克己 『東京ファイティングキッズ・リターン』(文春文庫)1/2

平川克己は内田樹の若いときからの友人。1977年に内田と一緒に翻訳会社を設立し、代表を務めた。いまはラジオカフェという会社をやりながら、経済的側面から見た文明論のような本を書いている。内田や小田嶋隆との共著も多い。本書もその一冊。 歴史事実の生…

養老孟司 『からだを読む』(ちくま新書)

解剖学者・養老孟司が専門家として書いた、口から肛門までの消化管についての「人体構成解説書」。百科全書の「消化管篇」としてだけ読んでも面白いし、楽しいし、身内に癌になった人でもいれば、綜合内科医的な視野の広い知識も得られる。 解剖学では、ヒト…

養老孟司 『からだの見方』(ちくま文庫)

医学における「知」 p106−7 痴呆症が問題になっているのは、世の中が面倒になって、ボケると他人の迷惑になるからである。特に、対人関係がどうしようもなくなる。家族や近しい人たちは健康なときの印象があるから、病人を病人として扱えないことが多い。人…

増田直紀・今野紀雄 『複雑ネットワークとは何か』(講談社)

日本人は、知り合いを3人介在させると、みんなつながってしまう。 1994年にアメリカの大学生3人が、ハリウッド映画俳優はそれぞれの共演俳優の鎖を通してどれくらいの距離で互いが結ばれているかをTV番組で明らかにして話題になった。このTV番組に…

内田 樹『街場の読書論』(太田出版)2/2

p198-201 トクヴィル『アメリカの民主主義』 ポピュリズムについて述べる中でトクヴィルは、二度も大統領に選ばれたアンドリュー・ジャクソンを、ワシントンで彼に会見したあと、痛烈に評している。 「ジャクソン将軍は、アメリカの人々が統領としていただく…

内田 樹『街場の読書論』(太田出版)1/2

p31 難波江和英『恋するJポップ』 ライトなタイトルとは裏腹に、奥行きの深い論考である。とくに「Jポップの歌詞には自と対峙し続ける他者が存在しない」という指摘は鋭い。 Jポップでは、コミュニケーションも自由も未来も、すべて「欠如の感覚」で歌われ…

砂田利一・長岡亮介・野家啓一 『数学者の哲学・哲学者の数学』(東京図書)2/2

哲学の「効用」 p96 野家 いつも新入生のオリエンテーションなんかで哲学の話をすると、必ず「哲学は何の役に立つんですか」という質問が来る。 砂田 それは、数学も同じことをよく言われます。 野家 私がいつも答えるのは、「役に立つ」とか「有用」とはど…

砂田利一・長岡亮介・野家啓一 『数学者の哲学・哲学者の数学』(東京図書)1/2

砂田氏は数学者、長岡氏は数学史専攻、野家氏は哲学者。世の中を少しだけむずかしく考える人には魅力的なタイトルの本だ。「まえがき」で長岡氏がこの本が一般人向けに出した趣旨を端的に書いている。それはこの本を、「世の中、経験こそすべて」とか「考え…

カレル・チャペック 『山椒魚戦争』(岩波文庫)

『山椒魚戦争』は昔から、奇妙なタイトルのせいでずっと読みたいと思っていた本だった。それが今回金森修『ゴーレムの生命論』に示唆されて『ロボット』を読み、ついでだからということでこの『山椒魚戦争』も読んでみた。 駄作ではなかった。 故国・チェコ…

カレル・チャペック『ロボット』(岩波文庫)

ヨーロッパにはユダヤ教のラビが魔術によって作る「ゴーレム」という「人造人間」の言い伝えがある。本書はそのことを書いた金森修『ゴーレムの生命論』に教えられて知ったもの。著者カレル・チャペックはチェコ出身で『兵士シュヴェイクの冒険』を書いたヤ…

内田 樹 『もう一度 村上春樹にご用心』(ARTES)2/2

村上春樹だけが、「時代が激しく欠いているもの」を書く。 p124 鋭敏な作家は、彼の時代に過剰に存在しているものについてはあまり書かない。書いても仕方がないからだ。拝金主義的なサラリーマンを活写しても、情緒の発達が遅れた非常識な青年たちの日常を…

内田 樹 『もう一度 村上春樹にご用心』(ARTES)1/2

村上は、「政治的弱者」ではなく、「本態的に蝕まれた人」を書く。 そのことが村上を世界的作家にしている。 p47 2009年、エルサレム賞の受賞スピーチで村上春樹は反骨の気合の入った有名なスピーチをした。私・内田がもっとも注目したのは(その後繰り返し…

ウィングフィールド 『冬のフロスト』(創元推理文庫)

養老孟司さんが激賞している現代イギリス警察小説「ジャック・フロスト警部シリーズ」の、邦訳のあるものでは最後のもの。 養老さんが「あとがき」で言っていることだが、主人公フロストは一種のアンチヒーローである。人智を超えた推論の力で難しい事件を解…

内田 樹 『一人で生きられないのも芸のうち』(文春文庫)

イスラム原理主義者はニッポンをバカにしている P35−6 私は以前、どうして日本ではイスラム原理主義者のテロが起こらないかについて考えた。そのときに、日本でテロをしたら「テロリストから村八分にされる」からではないかという推理をしたことがある。なぜ…

養老孟司 『脳と魂』(ちくま文庫)

養老孟司と(少々胡散臭い感じがする)臨済宗の僧侶で小説家でもある玄侑宗久の対談本。脳を含む身体の、部品の集合ではない生物のシステム性について、リアリティのある議論がされているが、全体をリードするのは圧倒的に養老孟司である。養老孟司の世界認…

金森 修 『ゴーレムの生命論』(平凡社新書)

<ゴーレム>というのはユダヤ教のラビが神のワザをまねて土塊から作った<ほぼ人間>のこと。日本人にはなじみのない概念だ。 神は不可知の意図と万能の技術を持つのだから、土塊(アダマ)から作っても人は「完全な」人(アダム)となることができる。だが…

金森 修 『動物に魂はあるのか』(中公新書)

ギリシア、ローマ以来、誰もが知っている著名哲学者たちが、いわゆる「(人間を含む)動物の魂」なるものについて、本気で考えてきた。この本では、それが中世、近代、現代でどのように変遷してきたのかについて、きわめて分かりやすく紹介されている。 解析…