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2015-01-01から1年間の記事一覧

内田 樹 『こんな日本でよかったね』(文春文庫)

校長先生の朝礼の話や来賓の祝辞が面白くない理由 p48-9 面白い話というのは、一言でいえば、ひとつの語を口にするたびに、それに続く語の「リストが豊富」であり、しかも筋道が意外な「分岐」をする話のことである。 「リストが豊富」とは、「梅の香りが」…

内田 樹 『態度が悪くてすみません』(角川新書)

p47 コミュニケーション失調症候群 神戸女学院大学の教員である私・内田の発言や行動には「ハラスメント」とみなされる類のものが少なくない(という方が多い)。にもかかわらず、私はいまのところ女子学生から告発されそうな事態に陥ったことがない。 「だ…

内田 樹 『私の身体は頭がいい』(文春文庫)

学校体育は身体の感受性を育むことができるか p195−7 (いつものように、体育会系の人に嫌われる言い方をあえてすれば、)身体能力開発の本義は、外部から到来する邪悪なものから身を守るための訓練のことである。 ライオンと出合ったときに、それを殴り殺…

藤井 聡 『<凡庸>という名の悪魔』(晶文社)

ドイツ第三帝国がその片鱗を見せ始めた時代そのままではないかと思わせる空気が、いまの日本にはある。もっともこちらの人は体躯が貧弱なので、あの圧倒的な暴力性だけは全然及ばないが・・・。 古くはあの小泉純一郎の郵政「改革」のとき。小泉が地方都市に…

養老孟司 『無思想の発見』(ちくま新書)2/2

「私は無思想」という強力な思想 p95 「俺は思想なんて持ってない」という思想は、欠点が見えにくい思想である。そもそも「思想だなどと夢にも思っていない」んだから、他人の批判を聞き入れる必要がないし、訂正する必要もない。じつになんとも手間が省け…

養老孟司 『無思想の発見』(ちくま新書)1/2

日本人の「私」は、個人ではなく「家」の構成員である p21・26・31 「個人は社会を構成する最小単位であり、その内部が私である」とされる。ところが日本の世間ではそうではない。日本語では「私」という言葉が、「個人」SELFという意味と、「公私の別…

内田 樹 『街場の現代思想』(文春文庫)

いくら英才教育しても、自分の子を「生まれつきの文化貴族」にはできない p22-33 文化資本には、「家庭」において獲得された趣味や教養やマナーと、「学校」において学習した獲得された知識、技能、感性の二種類がある。 家の書斎にあった万巻の書の読破と…

岩井克人『資本主義を語る』(ちくま学芸文庫)

金貨の価値は金鉱労働者の労働価値に等しい、 とマルクスは本当に信じていたふしがある p149-51 非常に逆説的ですが、マルクスはアダム・スミスよりもはるかに徹底した労働価値論者です。これは、当然、人と人との直接的な関係が人間の本来的な関係であると…

内田 樹 『子どもは判ってくれない』(文春文庫)2/2

幻想は「兌換できない紙幣」ではない p130-8 多くの知識人がおっしゃっている。「母性愛というのは近代の父権制の下で、女性を家庭に緊縛するために発明された幻想である」と。 話はそれほど簡単だろうか。国家は幻想であると断言する人も多いが、その人も…

内田 樹 『子どもは判ってくれない』(文春文庫)1/2

論説委員はだれに向かって書く? p10 イラク戦争のとき、朝日新聞の社説は「米軍はバグダッドを流血の都にしてはならない。フセインは国民を盾にしてはならない」と書いた。 この文章はまったく正しい。まったく正しいけれど、いったいこの文はだれに向かっ…

キャリー・マリス 『マリス博士の奇想天外な人生』(早川文庫)(福岡伸一訳)2/2

科学を騙る人々 p174-5 17世紀、真空を発見したロバート・ボイルはキリスト教徒である。ガラス容器の中にろうそくを灯し、ポンプで空気を抜くと灯が消えることを示した。ボイルによれば、ろうそくが消えたあとガラス容器の中に残されたものこそ、何もない真空…

キャリー・マリス 『マリス博士の奇想天外な人生』(福岡伸一訳)(早川文庫)1/2

キャリー・マリスは1993年のノーベル賞を受賞したアメリカ人化学者。その彼の、虚実ないまぜの「噂」に満ちた、波乱万丈の人生の自叙伝である。有名大学の教授には一度もならず、巨大製薬会社には一度もお抱えにならず、どの職場でも女性とのゴシップがたえ…

九鬼周造 『「いき」の構造』(岩波文庫)

巻末に多田道太郎の立派な解説が載っている。簡明にして要を得たもので、十数ページのこれだけを読んで、本文を読んだ気になってもまったく問題はない。 九鬼周造は京大教授だったし、墓が京都・白川疏水沿いの法然院にあるから、京都のひとだと思っていたが…

内田樹・鷲田清一 『大人のいない国』(プレジデント社)

子供が統治できる社会 鷲田 政治家が幼稚になったとか、経営者が「お詫び記者会見」に出てきたときの応対が幼稚だとか言いますよね。でも、皮肉に言えば、そんな人でも政治や経済を担うことができるというのは、ずいぶん成熟した社会だとも言えるんですよね…

岸田 秀 『ものぐさ精神分析』(中公文庫)8/8

<ナルチシズム論> 子供時代の全能感を、 私たちはみんな、いつまでも保持していたい p304−317 ナルチシズムは、感覚運動器官がきわめて未熟な状態で生まれてくるという、人間に特有の現象である。生まれ落ちたとき、人間の幼児は、現実を知らず、対象を認…

岸田 秀 『ものぐさ精神分析』(中公文庫)7/8

<言語の起源> バラバラの私的幻想から共通要素を抽出し、 共同幻想を仕立てようとするものが言語である p235−7 人間の言語は、一つの共同体内で、あるイメージに対する一つの発声に対して一定の意味を付与するという約束ごとである。その発声とイメージの…

岸田 秀 『ものぐさ精神分析』(中公文庫)6/8

<時間と空間の起源> 竜宮城を去ったのに乙姫を求め、欲望が挫折することを感じたとき 浦島は「時間」に組み込まれた p220−4 人間は本質的に(過ぎ去ってしまった時間にとらわれる)アナクロニズムの存在である。人間はいわゆる固着や退行を起こしうる存在…

岸田 秀 『ものぐさ精神分析』(中公文庫)5/8

<擬人論の復権> ヒステリーや強迫神経症の症状は、 その意味を精神分析者が了解し、患者に意識的に了解させれば、消失する p199−217 少し前の時代までは、近代科学が人間の身体にまでおよんで、人間も物理化学的現象にほかならないということになっていた…

池澤夏樹 『きみが住む星』(文化出版局)

旅行先での二十三枚の美しい風景写真と、それぞれの写真に一通ずつのラブレターを重ねて綴った散文詩集。池澤の多才ぶりがみずみずしく伝わってくる。 空港できみの手を握って別れた後、飛行機に乗った時、 離陸して高く高く上がり、群青の成層圏の空を見た…

リチャード・C・フランシス 『エピジェネティクス』(ダイヤモンド社)3/3

p169 細胞が変質してがん細胞になる過程については、主に二つの見方がある。従来の見方では、がん細胞はニューロンや皮膚細胞などの完全に分化した細胞から生じるとされる。そのような細胞が分化を停止して、幹細胞のような増殖能力を取り戻したのががん細…

リチャード・C・フランシス 『エピジェネティクス』(ダイヤモンド社)2/3

本文 p14 わたしたちを取り巻く環境は、遺伝子の活性度を調節して、わたしたちに影響を及ぼしている。ただし環境は、遺伝子の働きを直接変化させるわけではなく、遺伝子を含む細胞を変化させて、間接的に遺伝子の活性度に影響している。 遺伝子の活性度がコ…

リチャード・C・フランシス 『エピジェネティクス』(ダイヤモンド社)1/3

エピジェネティクスとは「遺伝子によらない遺伝の仕組みを探求する学問」のこと。池田清彦氏が『遺伝子不平等社会』で書いているように、発芽したイネの種子(これは2n個の染色体を持つ普通の体細胞である、n個の生殖細胞ではない)を脱メチル化剤(メチル…

加藤 貴(校注) 『徳川制度』(上)

明治の有名な民権派新聞に『朝野新聞』がある。二人の大物、成島柳北と末広鉄腸がそれぞれ社長・主筆を務めた。本書はこの『朝野新聞』に明治25年から26年まで断続的に掲載された「徳川制度」というコラムなどを岩波文庫3巻にまとめたもの。上巻だけでも司法…

東 浩紀 『弱いつながり』(幻冬舎)

著者によれば「哲学とか批評とかに基本的に興味がない読者を想定した本です」ということ。その通り、「弱い絆の大切さ」が「飲み会で人生論でも聞くような気分でページをさくさくとめくれる」ように、やさしく書かれている。 p13−5 「いまあなたは、あなた…

内田 樹 『昭和のエートス』(文春文庫)2/2

なぜ私たちは労働するのか p131 新卒で入った会社を三年で辞め、「やりがい」を求めて、離職転職を繰り返す若者たちは、「クリエイティブ」で「自己決定・自己責任」の原則が貫徹していている会社、個人的努力の成果を誰ともシェアせず独占できる仕事、に就…

内田 樹 『昭和のエートス』(文春文庫)1/2

私的昭和人論 p19-21 敗戦のときすでに40歳を超えていた人々には、それ以下の世代にあった「敗戦によって自分がぽっきり折れる」ような断絶感はめったに見られない。知識人でいえば丸山真男や埴谷雄高や小林秀雄や加藤周一のような人である。敗戦は、それ…

岸田 秀 『ものぐさ精神分析』(中公文庫)4/8

<何のために親は子を育てるか> 「親孝行」思想には、無償では子を育てる気になれない 親の気持ちが露骨にのぞいている p188-93 たとえばネズミなどの下等哺乳類の母性愛の生理学的基盤としては、脳下垂体から分泌されるプロラクチンという物質があって、…

岸田 秀 『ものぐさ精神分析』(中公文庫)3/8

精神病とは何よりもまず、彼を取り巻く人々の共同幻想に同意できない病である P62−3 精神病者は、自分の私的幻想のほとんどを共同化できなかった者である。彼は、自分の住む社会の共同幻想をいったんは外面的に受け入れるかもしれないが、それは彼自身の詩的…

岸田 秀 『ものぐさ精神分析』(中公文庫)2/8

<吉田松陰と日本近代> 奇矯、過激で小児退行的な吉田松陰に いまもエピゴーネンが生まれ続けている P37−43 わたしは集団心理は個人心理と同じ方法論で解明できるとの立場に立っている。・・・・集団というもの、とくに国家という集団は、その文化、思想、…

岸田 秀 『ものぐさ精神分析』(中公文庫)1/8

著者の名前は知っていたがときどき新聞に載る雑文しか知らなかった。それはそれで鋭いものだったが、なぜか本は一冊も読んだことはなかった。恥ずかしいことながらこの年になって久しぶりに昂奮して隅々まで読んだ。 歴史、性、時間と空間、言語、心理学、セ…