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2014-05-01から1ヶ月間の記事一覧

村上春樹 『スプートニクの恋人』(講談社文庫)

1999年の作品。『羊をめぐる冒険』(1982年)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(1985年)、『ねじまき鳥クロニクル』(1993年)よりは後の作品であり、これに続いて『海辺のカフカ』(2002年)や『1Q84』(2009年)が書かれた。年譜的には…

多田富雄 『寡黙なる巨人』(集英社文庫)

2010年に亡くなった多田富雄氏は01年の5月、左脳動脈の塞栓による脳梗塞に襲われた。右半身の麻痺と嚥下障害、発話障害の重い後遺症が残り、ベッドで寝返りもできなくなった。水や食物を呑みこもうとすれば気管に入ってしまいそうになり、脳に浮かぶ単語はほ…

カーソン 『沈黙の春』(新潮社)2/2

『沈黙の春』から一箇所だけ抜粋する。微生物から人間まで、あらゆる動植物に見られるエネルギーの供給・消費現象を有毒物質がどう阻害するかを述べたところである。生命というものの根幹に致命傷を与える仕組みがとても分かりやすく書かれている。 p261−5 …

カーソン 『沈黙の春』(新潮文庫)1/2

農薬公害問題告発の「古典」と言ってもいい本。著者は、DDTやパラチオン、マラソン、BHCなど塩化炭化水素系、有機リン酸エステル系の農薬を中心とした化学薬品が、50年・100年後の地球上の全生物にとても暗い影を落としていることを多くの実証データに基づい…

養老孟司  『大言論Ⅰ』(新潮文庫)

東大と京大 東大に勤めていたころ、京大の学生に何度か講義をしたことがある。話すのが大変楽だったという覚えがある。私はやや変なことを言うから、官僚になって出世することばかりばかり考えている東大の学生には気を遣った。 東大長男論というのがあった…

大嶋幸範 『美味しんぼ』へのファシストの攻撃

漫画単行本「美味しんぼ」の最新刊に、「福島はしばらく人が住むところじゃなくなってしまった」と、福島原発のある町の前町長が語っている場面があるらしい。晩御飯を食べていたらNHKの夜7時のニュースが報じていた。福島県の現知事が、「被災県民の懸命な…

河合隼雄 『生と死の接点』(岩波現代文庫)2/2

思春期のイニシエーション p272‐3 性器や皮膚に傷をつけられる、髪の毛を引き抜かれる、歯を折られる、話をすることを禁じられる、死んだ人間として扱われる、高い場所から飛び降りることを強制される・・・・・・。これはいじめの描写ではない。臨床心理学…

河合隼雄 『生と死の接点』(岩波現代文庫)1/2

p54−5 心理学でいうライフサイクル、特に成人の発達心理学ということが一般の関心を引くようになったのは、平均寿命が長くなったのと、多くの人が物質的な満足感をそれなりに味わうことが容易になったことが主な理由になっている。 しかしこのことは、現在…

夏目漱石講演集 『社会と自分』(ちくま学芸文庫)2/2

文芸の哲学的基礎 『猫』で(懸命に吠えるチンのくしゃみほどにも、その意見は世間に影響を与えない)珍野苦沙弥という警世家大先生を発明した漱石が、時間とか空間とか厄介極まりないものについて喋り散らしたもの。未来の理学博士「寒月君」として『猫』に…

夏目漱石講演集 『社会と自分』(ちくま学芸文庫)1/2

漱石が、自分がした講演の中でこれと思うものをいくつか自選したものである。漱石を知るのに重要な『現代日本の開化』、『中身と形式』、『文芸と道徳』、『私の個人主義』の四篇は、岩波文庫『漱石文明論集』にも収められている。 ゲラゲラ笑ったところだけ…