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2012-06-01から1ヶ月間の記事一覧

夏目漱石 「文鳥・夢十夜」(新潮文庫)

思い出すことなど 『文鳥』には、いわゆる修善寺大患ののち、東京の胃腸病院で一応の回復をみてから、修善寺体験の意味が執拗に分析されている。 p216−7 われわれの意識には敷居のような境界線があって、その線の下は暗く、その線の上は明らかであるとは現…

田中慎也 「共喰い」(集英社)

性交渉のとき女を殴ることで自分を興奮に導く父親。その子供である語り手が、高校生になって同じような人間になっていく、という物語である。小さい時からそんな「強烈な」父親を見て育ったのだから、同じような人間になっていくというのは十分わかる話だが…

朝吹真理子 「きことわ」(新潮社)

密度の濃い言葉の連なり。接続詞ひとつをおろそかにしない短文の連なり。わずか百三十頁のみじかい作品なのに、話のつながりはよく分からない。そんなプロットなどは何ごとでもないように、ひとつひとつの言葉が緊密に編まれていく。発生直後の胚細胞が、上…

バルガス・リョサ 緑の家(岩波文庫)

修道中の白人尼がスペイン軍のボートに乗って、インディオの少女を荒縄でぐるぐる巻きにして誘拐する。怯えきった猿のように純真な少女を尼僧院に監禁して「野生動物にそっくりのあなたを暖かい家庭の一員として迎え、名前をつけ、神様のおられることも教え…

グレアム・グリーン 「事件の核心」(ハヤカワepi文庫)

p27 市民を疑うことを仕事とする探偵スコービーは、それにもかかわらず、晴雨計のほかの針が全部「暴風雨」のほうへ回ったずっと後まで「晴天」を指している、遅れがちな針のようだった。疑いは彼にとって真実の「詩」であったのだが、彼はよく女にモテる男…

安部公房 「壁 S・カルマ氏の犯罪」(新潮文庫)

主人公カルマ(宿業)氏は自分の名前をどこかに落としてしまい、もはや誰でもなくなってしまった。その代わりに(?)カルマ氏は胸の陰圧で世界のなにもかもを、目に見えたもののすべてを吸い取る「犯罪的暴力性」を持った人になってしまう。 そのカルマ氏の…

安部公房 「砂の女」(新潮社)

p12-13 砂粒の大きさは1/8mmを中心に分布している。岩石を削る水にしても空気にしても、すべて流れは乱流を引き起こすが、その乱流の最小波長が砂漠の砂の直径にほぼ等しいと言われている。この特性によって、とくに砂だけが土の中なら選ばれて流れと直角の…

絓(すが) 秀実  「1968年」2(ちくま新書)

この本にはいくつか“後付け”の理屈が含まれているので、そこが気になると著者・絓氏の人間性さえ疑う読者もいるにちがいない。ちなみにウィキペディアによると、柄谷行人は絓氏のことを「いいことをしても、人の嫌がる形でしかしない人なので、つねに誤解さ…