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トルーマン・カポーティ 『冷血』(文春文庫)

  1959年にアメリカ・カンザス州で、富裕な農場主一家4人が散弾銃とナイフで何の前触れもなく皆殺しされる。犯人は同じカンザスの下層階級に生まれ育ち、社会から冷遇、無視され続け、その冷たい視線を逆のエネルギーに変えて成人した二人の若者だった。

 小説前半は惨劇そのものと犯人の逃亡生活が描かれ、後半では逮捕、拘置後の懲りない二人の荒みきった処世哲学に加え、二人の家族および知人たちの家族がどういうものであったか、そして現在もあるかが丁寧に報告される。

 本書の「解説」でも言われているが、映画で評判をとった『アラバマ物語』はグレゴリー・ペック演じる弁護士の活躍物語ではなく、アラバマという独特な世界の中での、彼の子供の成長を描いた家族の物語であった。それと同じ意味で、この『冷血』もカンザスというアラバマとはまた違った意味の過酷な社会の中で形成される「乱暴もの国家アメリカ」ならではの家族の意味を問われているのだろう。

 こうした家族は子供の増長を許さなかったヨーロッパでは育たなかったものだ、ましてアジアでは絶対に。