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宮部みゆき 『ソロモンの偽証』(新潮文庫)

 なんとトルストイ戦争と平和』よりも長い学園内法廷ドラマ。6巻もあるが、『戦争と平和』よりも格段に読ませる。『モンテ・クリスト伯』のような勧善懲悪的予定調和のばかばかしさもない。

 ある中学校でクリスマスの朝、一人の2年生の無残な校舎屋上からの転落死体が発見される。自殺か突き落とされたのか。お騒がせテレビ局も首を突っ込んでき、生徒、職員の全部とPTAを巻き込んで校内は大嵐になる。そんな中、事なかれ主義で事件の真相は究明できないという空気が生まれるのだが、主人公の女子生徒・検事と男子生徒・弁護人を中心として、校内に模擬法廷を設置して自分たち自身が真実を明らかにしようということになる。

 転落死が自殺であり、被告が無罪であることは、小説の展開としてはほぼ最初から明らかなのだが、優秀であり、自分自身複雑な家庭に育てられ、その意味で転落者本人の内面の葛藤に理解を持つ弁護人の男子生徒は、転落者本人が、何を考えながらどうやって屋上までたどり着いたのかを正確に再現する。それによって、自殺であることは最終的に決定づけられ、弁護側の勝利で結審する。 

 なおこの小説は、最初に犯人扱いされた学校内のはぐれ者の冤罪を晴らす裁判劇でもあるのだが、心理の展開の場面ごとに生徒たちの微妙な心の動きが丁寧に、少し丁寧すぎるほどに、描かれており、その意味では少年少女の精神的成長をトレースしているビルドゥングス・ロマンだともいえる。ただ成長期の中学生が、ことあるごとに泣きじゃくるのには少々辟易するが。