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笠井潔・白井聡 『日本劣化論』(ちくま新書)

 いわゆる論壇人の対談本。このごろその方面はとんと不勉強なので笠井潔白井聡の両氏とも名前くらいしか知らなかった。笠井氏は私と同い年。固い単語を使うリベラルな人で、話す言葉に、大学紛争のときに吹いていた風を体全体で吸っていた感じがある。心の深いところでは多分アナーキスト。小説や評論を何冊か書いているようだ。白井氏は1977年生まれの若い政治学者ということ。同じくリベラルなひとだが、笠井氏よりはくだけた言葉を使う。
 この本は『劣化』というタイトルが私の自虐症的祖国感に訴えるものがあった。「小児退行」と思わせる安倍や自民右派の言動だけでなく、「スターリン御用新聞」のように嘘報道を30年も続けた朝日新聞北朝鮮軍の式典パレードのようなサッカーファンとプロ野球ファンの応援マスゲーム風景を見て感じるものを、この本の中に確認したからだ。

 尖閣諸島問題からはじまる日中関係の悪化をめぐって、こんな怖い話も載っている。
 p121‐3 
 白井  中国の基本は「大中華帝国」の維持・拡大です。そのためには南北の朝鮮はぜひ統一国家になってもらわねばならない。また、中・朝・韓100年来の共同敵国だった日本に中国従属政権を樹立しなければならない。(内田樹さんも言っていた儒教文化ブロックの確立ですね。)でもまさか核ミサイルは打ち込めません。
 笠井  そんなことをしなくても、トルコ系民族の出身者で原発を破壊すれば日本列島は廃墟になります。
 白井  若狭湾でボーンとやられたら、もう終わりですね。
 笠井  アルカイダを装って犯行声明でも出しておけば、そんなのは嘘だろうと日本側が疑っても、証拠がなければ追及のしようがありません。こうして中国は特殊部隊数十人の犠牲で、ほとんどノーリスクで日本を制圧できます。(あとの戦後処理の実務は朝・韓にやらせればいい。イザベラ・バード女史の「朝鮮紀行」によれば、日本には豊臣秀吉朝鮮出兵以来の恨みがあるそうですから、この日本制圧で朝・韓はあっさりと統一でき、無理に無理を重ねている北朝鮮の指導部もしかるべきところに納まって永らえられるでしょう。)
 白井  私たちがいちばん危惧するのは、日中衝突でアメリカがどう出てくるのかです。日本政府はアメリカは日中衝突を止めに入るだろうという想定でいます。たしかにオバマはそういっています。しかしそれには確かな根拠があるのか。自衛隊の兵器制御コンピューターシステムの基本ソフトウェアは米軍のものです。米軍の了解がなければ、100%は作動しないのです。)
 笠井  私たちの政府は、そんな原発が攻撃されるなんてことは考えたくない。考えたくないことは考えない。考えなくても何とかなると思っているんでしょう。かつての太平洋戦争でも原発事故の際も同じでした。いくら中国でもそれほど「非常識」なことはやらないだろうと、何の理由もなく思い込もうとしている。幼児的というかなんというか。
 白井  アメリカのいまの方針が果たして共和党の大統領に引き継がれるか。アメリカ経済がリーマンショックのような、高度資本主義特有の混乱をまたおこしたら、戦争経済への傾斜が起きないとはだれも言えません。言い換えれば、巨大な産軍複合体の利害追求が突出するということです。

 阿部・麻生からネトウヨまでの反知性主義p143−6
 白井  阿部・麻生からネトウヨそしてみんなと調子を合わせて動かなければ白い目で見られるというサッカーやプロ野球の応援席まで、彼らの反知性主義は非常に危ない非合理主義―――1920年代ナチの成長を支えた「ユダヤ陰謀論」などの非合理主義と紙一重です。
 笠井  右傾化が社会問題としてせり出してきた背景には、自分というものが承認されない不安があると思います。経済的な「剥奪感」も問題ですが、それよりも「意味」が剥奪されている感じが、ネトウヨでは排外主義への熱狂をもたらしている。
 産業がいまのようにグローバル化する以前は、貧しくても働いていればそこそこ家庭や職場で「承認」されていたわけです。本人もそれである程度満足できていた。(ところが産業社会が高度でグローバルな金融資本主義になると、企業は本国の社員だけに有利な「承認」は与えられなくなった。フツーに働く東京本社の社員は血走って働くニューヨーク・シンガポール・北京の社員より有利でもなんでもなくなった。) 白井  この、企業がそこに働く人に、自分たちの仲間であるという「承認」を容易に与えなくなったことは、ネトウヨたちの剥奪感を醸成するのに強くかかわっているでしょうね。会社が承認を与えてくれる場所であるなら、そこには仲間意識も育つでしょうから。そんな承認の場がどんどん減っていき、ネットで在日朝鮮人を罵倒することでしか充足感を得られない層が増えてきました。ネトウヨになれば、幻想としてですが仲間意識さえ感じることができるわけですから。