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2014-01-01から1年間の記事一覧

オリヴァー・サックス 『火星の人類学者』(ハヤカワ文庫NF)1/2

作者オリヴァー・サックスは、大ヒットした映画『レナードの朝』の原作を書いたコロンビア大学の神経学・精神医学教授。映画では彼しかできないだろうというロバート・デ・ニーロの演技力に脱帽した。脳の小さな部位を病むということの、一般人には想像もつ…

リチャード・ファインマン 『ご冗談でしょう ファインマンさん』(岩波現代文庫)2/2

リチャード・ファインマンは、トルーマンと軍部が主導しオッペンハイマーが指揮した、ロスアラモスでのマンハッタン計画に(初期のうちは下っ端の科学者として)直接参画した人である。上巻後半部の「下っ端から見たロスアラモス」の章にそのことが書かれて…

リチャード・ファインマン 『ご冗談でしょう ファインマンさん』(岩波現代文庫)1/2

1965年量子電磁力学の発展に大きく寄与したということで、朝永振一郎らとともにノーベル物理学賞を受賞したリチャード・ファインマンの自伝。この本は1986年に日本語訳の出る前にドイツ、フランス、韓国でも出版されたが、いずれも売行きは良くなかったらし…

ロス・マクドナルド 『さむけ』(ハヤカワ文庫)

アメリカのミステリー小説というのはあのレイモンド・チャンドラー以外に読んだことがない。そのレイモンド・チャンドラーの創りあげた名探偵フィリップ・マーロウは、本作『さむけ』の訳者でもある小笠原豊樹に言わせれば、「20世紀前・中期の非情な時代に…

吉村萬壱 『ボラード病』(文芸春秋)

ボラードとは、港の岸壁に必ずある繋船柱のこと。直径30〜50cm、大きな鋼鉄の人差し指を根元の方から地中に埋め込んだ形をしていて、地上部分の先端が少し曲がっている。もやいロープでボラードに繋げば、何万トンの巨大船でも完全に繋ぎ止めることが…

養老孟司 『講演集 手入れという思想』(新潮文庫)3/3

日本の「世間」というものの特異さ p268−9 私は死体を扱う仕事を長年やっていますので、目の前に横たわるこの人は日本の世間のどこにいた人なのだろうと時々考えてきました。日本全体という大きな世間をとりますと、まず第一に、そこに入れてもらうのは場合…

養老孟司 『講演集 手入れという思想』(新潮文庫)2/3

脳の男女差 p93−5 右脳は絵画脳、音楽脳で左脳は言葉の脳であるとよく言われます。絵画脳とは、主として空間認知をあつかう脳ということです。空間認知というのは、われわれがものがどこにあるか、物と物の位置関係がどうなっているかを把握することで、ふ…

養老孟司 『講演集 手入れという思想』(新潮文庫)1/3

安全が、ただいまの学生の行動原則らしい p62−5 東大をやめてから、いろいろな大学の大学院で講義をしています。オウム事件以来若い人たちのものの考え方に興味をもちまして、そばまで行っていろいろ学生に聞くわけです。大学院だと講座の定員は3,40人くら…

オルテガ・イ・ガセット 『大衆の反逆』(白水社)2/2

p144 満足しきったお坊ちゃんの時代 平均人というこの新しいタイプの人間の心理構造を、社会生活の方面からだけ研究すると次のようなことが見いだされる。 第一に、平均人は生まれたときから不思議な楽観を持っている。生は容易であり、ありあまるほど豊か…

オルテガ・イ・ガセット 『大衆の反逆』(白水社)1/2

少なくとも書名だけは知らぬ人のない古典である。集団として現れる大衆が「少数者が作ったよき文化」を滅ぼそうとしていることを嘆いている。しかし、オルテガの恵まれた出自は措くとしても、いかにもスペイン人らしく情に訴えるような言い分にはいささか論…

花田清輝 『鳥獣戯話』(講談社)2/2

鳥獣戯話の第三章『みみずく大名』は、1549年、フランシスコ・ザヴィエルが日本に漂着して以降、キリスト教がある程度広まったとされたことについて書かれたものだ。イエズス会が設立した学校,病院などの業績,日本国内の出来事などが報告されている『耶蘇…

花田清輝 『鳥獣戯話』(講談社)1/2

ちょっと考えれば誰でもそうだと気づくのだが、「歴史」は西洋でも東洋でも、ある王朝の編纂になる「正史」を中心にした既成神話の集積したものである。中華帝国の正史はすべて前代を滅ぼした後の帝国が自分たちの側から書いたものだし、そのことは支配人民…

ハラルト・シュテンプケ 『鼻行類(新しく発見された哺乳類の構造と生活)』(平凡社ライブラリー)

ある人の推薦読書目録でこの本を知ったのだが、なんといっても「鼻行類」という漢字三文字が目を引いた。「鼻」と「行」は普通並んでは使わない文字だからだ。副題に<新しく発見された哺乳類の構造と生活>とあるが、いったいこれは何の本だろうと思った。 …

スティーブン・キング 『シャイニング』(文春文庫)

ロッキー山中にある「オーバールック」(絶景荘)という超豪奢ホテルを舞台にした、いわゆる幽霊屋敷ホラー小説。読み始めて、だいぶ前にケーブルテレビでやっていた映画の原作であることに気付いたが、こういうものは映像よりも原作のほうが格段に楽しめる…

イザベラ・バード 『イザベラ・バードの日本紀行』下巻(講談社学術文庫)3/3

p102−9 変えようのないアイヌの生活 アイヌの生活は臆病で、単調で、ものがなく、退屈で、希望がなくまったく神のいない生活です。とはいっても、他の多くの先住民のそれよりはかなりましなものではあります。それにいまさら言うまでもなく、わたしたちの国…

イザベラ・バード 『イザベラ・バードの日本紀行』下巻(講談社学術文庫)2/3

p90 売買や商業にはおよそ向いていないアイヌ アイヌは客人にはさかんに与えようとするものの、こちらが何か買いたいと申し出ると、自分たちのものを手放したくないと言います。彼らが実際に使っているもの、たとえば煙草入れときせる、柄とさやに彫刻を施…

イザベラ・バード 『イザベラ・バードの日本紀行』下巻(講談社学術文庫)1/3

下巻の読みどころは当時のアイヌの記録。著者が北海道の平取(びらとり・苫小牧の東約30km)地区で実際に体験、見聞したものである。明治初期のアイヌの実生活の様子が、日本政府の意向をまったく気にしないイギリス上流女性の目線で遠慮なく描かれている…

イザベラ・バード 『イザベラ・バードの日本紀行』上巻(講談社学術文庫)2/2

p425−8 秋田・大館にて 誠実さと礼儀正しさ わたしは、日本の宿屋の経営者は、外国人に対しては日本人よりも高い料金をとってもいいと思います。なぜなら日本人なら六人から八人が喜んで泊まる一室を外国人は一人で占領し、室内で水を使えるようにしろとか…

イザベラ・バード 『イザベラ・バードの日本紀行』上巻(講談社学術文庫)1/2

イギリス北部、スコットランドに近いヨークシャーの上流夫人が、明治10年頃の日本、それも江戸時代の匂いが濃厚に残る東日本の農山漁村を、たった一人の忠実な男性通訳兼従僕とともに踏破した旅行記である。イザベラ・バードはウィキペディアによれば、当時…

スティーヴン・グールド 『ダーウィン以来』(ハヤカワ文庫NF)3/3

p167・172‐3 第12章 「前適応」の問題――化石では未発達に見える器官には、太古、別の器官としての役目があった 自然淘汰はダーウィン理論の核心である。それは、高度な適応構造の単なる一部分としての意味しか持っていないように見える諸要素を、次々と寄せ…

スティーヴン・グールド 『ダーウィン以来』(ハヤカワ文庫NF)2/3

p56−63 第3章 ダーウィンはダーウィニズムなど唱えていない ダーウィンの進化説はきわめてシンプルなものである。「生物進化は生物と環境との間の適応を増大させる方向に進む」というだけのものだ。ダーウィンは、「構造の複雑さとかいうことで定義される進…

[スティーヴン・グールド 『ダーウィン以来』(ハヤカワ文庫NF)1/3

スティーヴン・グールドはとてもまともなダーウィン主義進化論者である。訳者によれば、彼は30歳そこそこでハーヴァード大学の地質学教授になった秀才だが、彼をたんに自然科学者としてだけでなく、社会何々学など人文科学方面でも世界的に有名にしたのが、…

ウィングフィールド 『クリスマスのフロスト』(創元推理文庫)

いくつもの事件が時間差攻撃のようにほぼ同時に発生し、それを刑事が追いかけていく小説をモジュラー型警察小説と呼ぶそうだ。『クリスマスのフロスト』はその典型のような作品である。刊行の1974年、ロンドンの新聞書評でも「・・・・・巧みに配された謎、…

養老孟司  『大言論Ⅱ』(新潮文庫)2/2

石油が維持する世界秩序 P179-83 2003年のイラク戦争のとき、イラクの内政なんてアメリカには実はどうでもいいことだった。というより、もともとアメリカがどうこうするという問題ではない。とりあえず「イラクに民主主義を」と言っておけば済む、合衆国政府…

養老孟司  『大言論Ⅱ』(新潮文庫)1/2

西欧市民社会の「個人」に対応するものは日本の「家制度」である p27 「遅れた」日本には近代的自我が育たなかった、というのが私(養老)が受けてきた教育だった。しかし、例えば18−19世紀の日本は同時代のヨーロッパに少しも劣らない文明化された社会だっ…

内田樹・春日武彦 『健全なる肉体に狂気は宿る』(角川新書)2/2

プライド・こだわり・被害者意識の三点セット P134−9 春日 トンチンカンな自己主張をする人っているんですよね。うちの患者なんてもう個性の呪縛にとらわれている人ばっかり。ほかの病院からうちに回されてきたような患者さんに、「前の病院ではなんていわれ…

内田樹・春日武彦 『健全なる肉体に狂気は宿る』(角川新書)1/2

内田樹が精神科医の春日武彦氏と、角川書店で二日間カンヅメになって行った対談をまとめたもの。話の七割は何せ多弁な内田が喋り散らしている。対談本だから、新しい知見はほとんど披露されないし、春日さんは少し退屈なさったのではないか。 自分のキャリア…

コンラート・ローレンツ 『ソロモンの指輪』(ハヤカワ文庫NF)

いろいろな動物たちと自由に話ができたというノーベル賞受賞者コンラート・ローレンツの最初の著作。その後に、もう30年も前だったろうか、彼の書いた動物行動学の古典『攻撃――悪の自然史』を読んだが、その内容にひどく衝撃を受けた記憶がある。十分に若か…

養老孟司 『解剖学教室へようこそ』(ちくま文庫)

高校生向きに書かれたという解剖学の小論。しかし、独特の論理的飛躍がある養老さんの文章は――それは、あえて言えば禅坊主の公案にさえ似ているところがある。順接の接続語が逆接の意味になっていることもある。何冊か読んで養老さんのクセに慣れないと??…

村上春樹 『スプートニクの恋人』(講談社文庫)

1999年の作品。『羊をめぐる冒険』(1982年)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(1985年)、『ねじまき鳥クロニクル』(1993年)よりは後の作品であり、これに続いて『海辺のカフカ』(2002年)や『1Q84』(2009年)が書かれた。年譜的には…