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日高敏隆 『動物という文化』(講談社学術文庫)

 クラゲやサンゴ、イソギンチャクといった腔腸動物よりも少し進化が進んだ扁形動物(ゴカイ、サナダムシなど)以上の動物では、発生の途上で中胚葉という組織が生じる。腔腸動物までは皮膚などになる外胚葉と消化器・呼吸器などになる内胚葉の二つだけである。循環器官や排出器官、それに筋肉はこの二つの胚葉からは生じない。

 p167-8

 これらの装置のもとになるのは外胚葉と内胚葉のあいだにできるもう一つの細胞層である中胚葉である。中胚葉のでき方は単純で、原口から内部に入り込んで内胚葉になった細胞の一部が、まもなく外胚葉との間に進出し、増殖して中胚葉になる。

 このようなでき方から考えてもわかるように、中胚葉は体の外表面とも内表面とも関係がなく、全くからだの内部にある。そして、皮膚(動物の体の外表面)と消化器官の内面(内表面)との間にある、いわば動物のからだの実質は、ほとんどすべて中胚葉から生じる。血管、心臓、血液のような循環装置、腎臓のような排出装置、筋肉、それからいろいろな器官のすき間を埋める間充織や、つなぎ合わせる役目をする結合組織、骨などがそれである。

 そのようなわけで、中胚葉はたいへん大切な役目を持っている。さらに中胚葉の細胞のうちには、動物の内外の表面という形で早くから特殊化してしまう内胚葉・外胚葉と違って、何かの装置として特殊化しないままに、からだの内部にとっておかれるものも含まれている。このような細胞は、親になってもそのままでいて、動物のからだが傷ついたようなとき、そこへ移動していって傷口をふさぎ、やがて皮膚の細胞に変化して、傷を治したり、再生を行ったりする。生殖器官(精巣・卵巣)や生殖細胞も、中胚葉からできる。

 もっと高級な動物になると、中胚葉性組織のありかたが違ってくる。間充織という形で器官のすき間をびっしりと埋め尽くすのでなく、内・外の二層に分かれて、内層は期間の表面をおおい、外層は皮膚や筋肉からなる体壁のうら打ちをして、その間に空間が生じるのである。この空間は、体の外とは何のつながりもなく、体腔と呼ばれる。体腔に接する中胚葉性の細胞層は体腔上皮という。いろいろな器官は、この体腔の中に体腔上皮で包まれて、ぶら下がっていることになる。たとえば、私たちの胸腔、腹腔は体腔であって、腸はその中に腸間膜によってぶら下がっている。

 体腔は、原始的な動物ではまったく見られず、高等な動物ほどよく発達している。体腔が発達すると、内臓器官は体壁とは無関係に動くことができる。このことは、心臓が拍動したり、腸が蠕動運動をしたりするために、たいへん有利なことだと考えられる。