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木暮太一 「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?」(星海社新書)

 日本経済がデフレの蟻地獄に落ち込み、ユニクロでズボンが一○○○円、牛丼チェーンで昼ご飯が二五○円になっている一方で、サラリーマンの給料がずぶずぶと下がり続けている。
 この本は日本の“一般的”な働く人の、「世界の中で十分豊かな日本といわれているのに、わたしたちの働き方はなぜこんなにもつらいのか?」、「このラットレースのネズミのような暮らしはいつまで続くのか?」という切実な実感をとてもわかりやすく切り取ったものである。「合理的な理由を持って給料を下げ続ける資本主義」の「意図せざる悪」がサラサラ理解できるようになっている。
 いまのしんどさから抜け出す著者の処方箋は、特に目新しいものではもちろんない。そんなことはどうでもいい。格別な処方箋があるならデフレはとうに終わっている。そうであればこんな新書はそもそも要らないのだ。
 電車の中で二時間もあれば読める手軽な読み物である。世界全体を覆いつくす資本主義の本質的な「悪」の説明は、鬱陶しさがなく、顔が暗くならなくて済む。ただし、繰り返しがはなはだ多いので、舌打ちしてしまうところも何箇所かある。自説が依拠する(マルクスなど)偉人の名前は一、二度出さなくてはいけない、ただし読者の頭を悩ませるほど詳しく引用してははいけない、ペラペラ薄くては信用されない、重苦しく分厚すぎては初めから読む気が起きない」という「売れる」条件を満たした新書である。 
 日本の会社の給料は「必要経費」支払い方式
 p85-7
 労働力を再生産するために(明日も働くために)、食事をとらなければなりません。だから会社は、食事の分だけ給料としてお金をくれます。
 労働力を再生産するために(明日も働くために)、休息をとらなければなりません。だから会社は、家賃の分だけ給料としてお金をくれます。
 労働力を再生産するために(明日も働くために)、衣服を着なければなりません。だから会社は、洋服代の分だけ給料としてお金をくれます。
 労働力を再生産するために(明日も働くために)、ひと月に数回は気晴らしをしないとやってられません。だから会社は、飲み代の分だけ給料に上乗せされてお金をくれます。ただこれも「精神衛生を守るための必要経費」なのです。
 すなわち労働者は「明日も同じ仕事をするために必要な分」しかもらっていないのです。決してあなたが思うように、「がんばったから」「成果を出したから」お金を出してくれたわけではありません。
 そしてこれが、「なぜ、あなたの生活には余裕がないのか?」の答えになります。必要経費分しかもらえない、つまり最低限必要以上はもらえないのです。
 p127
 ユニクロが登場し、ファストフードや居酒屋チェーンの値段がさらに安くなれば、明日も働くための洋服代も食事代も気晴らし代も少なくて済みます。社会全体の相場としてモノやサービスの価格が下がれば、会社は、労働者が明日も働くための人件費支払いを下げても、社会的に大きな問題はなんら起きないわけです。

 「みんながレベルアップする」ことの落とし穴
 p132 
 A社が特別な技術開発をして、しばらく価格優位性を保てる商品を発売したとします。しかし資本主義経済においては、同業他社全員がその技術を超えるために日々研究・競争しているわけなので、まわりの企業も同じような技術を開発したり、A社の成功事例をどんどん取り入れていきます。
 これは「特別」だったものが「フツー」になることであり、「陳腐化」するということです。いいかえれば一時的に突出していたA社に他社全体が追いつき、「みんながレベルアップした」ということです。みんながレベルアップすればその商品の価格は必然的に下がり、A社は労働者に対して相変わらず必要経費分としての給料のみを払い続けるということです。つまりラットレースは明日もそのまま続きます。