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2010-01-01から1年間の記事一覧

山之内 靖 「マックス・ウェーバー入門」 2

[意図せざる結果という逆説] われわれに自分たちの決定的な限界を見せつけ、『鉄の檻』となって、逃れえない力を人間の上にふるうようになった『合理的生活態度』は、では一体なぜルターやカルビンのキリスト教的禁欲の精神から生まれたのだろうか。ルターや…

山之内 靖 「マックス・ウェーバー入門」 1

[いわゆる『欧州中心主義』] 丸山真男は、基本的にお人好しな思考法が日本の歴史意識の古層にあると言う。「制度」あるいは法体系を、「どこかよその誰かが」「秋に稲穂が実るようにいつのまにか」作ってくれた便利なものとする思考法である。それは、絶対者…

中田 力 「脳の中の水分子」

p49 液体の水は、単純な水分子の集合体ではない。水分子、ヒドロニウムイオン(H3O)、水素イオン(H)、水酸化イオン(OH)などが大小さまざまなクラスターを作り、ブラウン運動によって動き回っている複合体である。 p53 キセノンなどすべての全身麻酔薬…

TVから 「数の不思議」

素数の出方に方程式はまだない。ある素数に続くようにすぐ次の素数が現れるかと思えば、次が現れるまでかなりの間隔があく場合もある。その出現間隔はまったく気まぐれに見える。この気まぐれは数が大きくなっても変わらない。 1,2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,…

竹澤秀一 「法隆寺の謎を解く」

創建法隆寺が天智天皇の指示による放火で失われたという推理は(もはや常識に近いらしいが)面白く説得性があった。しかし、本一冊として言いたかった<北極星からの南北軸を絶対視するヨーロッパ―中国とは全く異なる、人々が住む風土に合わせた日本の多軸的…

岩井克人 「ヴェニスの商人の資本論」 「貨幣論」

[ヴェニスの商人の資本論] p68 あらゆる差異を解消する資本 資本主義の前には、どのような価値体系も孤立し閉鎖されたままではいられない。なぜなら、孤立や閉鎖が意味する独自性や異質性は、すべて資本主義にとってはおいしい「差異」の一形態に過ぎないか…

池田清彦 「環境問題のウソ」

この何年も、メディアとメーカーが大キャンペーンを張り続けている「地球温暖化の元凶はCO2だ」説は本当だろうか。「正義の物語」につきものプロパガンダは、そこにないだろうか。「正義」は、過去にローマカトリックや西側反共陣営が相手を非人間におとしめ…

馬場あき子 短歌

厚顔と偽善と怯懦の真ん中に、廉潔と誠実と果敢の遠弓を射込むような馬場あき子の短歌。彼女の定型は、日本語にとっては自由律などというものがだらしなさの美名でしかないことの証明である。 ・母の齢はるかに越えて結う髪や流離に向かう朝のごときか (飛…

小川洋子 『猫を抱いて象と泳ぐ』(文芸春秋)

読み終えて数日経つと、夢のシーンの連続であったような、残酷だが穢されてはいないチェスをめぐる不思議な物語が、読んだ人のなかにもう一度染みわたってくる。 p154 チェスの終盤が近づくと、達者なルークづかいのお転婆だった令嬢の動きが少しずつしとや…

レイモンド・チャンドラー 「ロング グッドバイ」 村上春樹訳

「偉大な歴史」の翳りがまだ始まっていなかった二十世紀中盤のアメリカ。探偵フィリップ・マーロウは、事件解決の翌日にもまた同じような騒動に巻きこまれるだろう。国民が自国(を世界と思うほど)の大きさと資源と軍事力に自足しきったところにだけ成り立…

アンドレア・ロック 「脳は眠らない」

p90 眼球の動かない深いノンレム(NON Rapid Eye Moving)睡眠に入ると、人間が計画、論理的思考、問題解決など高度な情報処理を行う前頭葉前部皮質は、真っ先にそして急激に活動を低下させる。この活動低下に伴って、活動を支えていたセロトニンとノルエピネ…

夏目漱石 「虞美人草」

p99 御機嫌に逆らったときは、必ず人を以て詫びを入れるのが世間である。女王の逆鱗は鍋、釜、味噌漉しのお供物では直せない。針鼠は撫でれば撫でるほど針を立てる。役にも立たぬ五重塔を腫れ物のように話の中に安置しなければならぬ。帝大卒の銀時計の手際…

TVから 「高齢馬だけの牧場」

すこし前TVで、年老いた馬ばかりを集めてゆっくりと余生を送らせる牧場ができたというニュースがあった。大きなレースを勝ったサラブレッドもいたし、名もない雑種の馬も映っていた。 そこのオーナーだったか、関係者の一人だったかは忘れたが、むかしは美…

福岡伸一 「生物と無生物のあいだ」

p142−3 分子のような微粒子は、液体中では拡散の法則によって、「統計学的な平均としては」濃度の濃いほうから薄いほうに徐々に広がっていく。しかし、観測のある瞬間をとってみれば、粒子のうちのいくつかは、拡散の法則からはずれて、濃度の薄いほうから濃…

アラン・ブルーム 「アメリカンマインドの終焉」 3

p250 興味あることはニーチェとハイデッガーの二人が、ドイツアカデミーの世界から、「いい人物なら好きになれないやつなんかいない」アメリカのマーケットに運ばれてきたことである。「幸福な人間」がいかに悪しき状態にあるかを知識人に説明するために作…

アラン・ブルーム 「アメリカンマインドの終焉」 2

[アメリカンスタイルのニヒリズム] P157−8 M.ウェーバーが言うように、計算をこととする理性が行き着く先は、結局、共同体の形成をおこなわず、共同体を支える価値も持たない、心情もなければ魂も欠いた、無味乾燥な管理であろう。一方、感情はうわべだけの…

アラン・ブルーム 「アメリカンマインドの終焉」 1

今世紀最初の年のニューヨークテロのとき、二機目が突入するのを、帰宅してすぐのニュースでリアルタイムで見た。そのとき「アメリカの終わりの始まりだ」とおもわず呟いたのを憶えている。ローマ帝国が周辺民族の反乱に耐えられなくなった時も、こういう事…

スティーブン・ミズン 『歌うネアンデルタール』

ホモ・サピエンス以前の初期人類(百五十万年前のエルガステル以降エレクトス、ジャワの小人のフロレシエンシスそしてネアンデルターレンシス)の言語はhmmmmm(全体的holistic、多様式的multi-modal、操作的manipulative、音楽的musical、ミメシス的mi…

本山美彦 「金融権力」

p3−4 格付け会社という、他人のふところ具合を勝手に覗いてふれ回る組織がある。よそさまの台所を、大金持AAAから多重債務者Dまでに格付けする会社である。格付けの基準は格付け会社に任されていて、金融当局による基準設定はない。驚くべきことだが、…

井筒俊彦 「イスラーム文化」

P32-34 イスラームは原則的に聖と俗の区別を立てない。このことは人間生活のいわゆる世俗的な部分まですっかりコーランのテクスト解釈によっていることを意味する。だから政治も、法律もそのまま宗教なのである。イスラームにおいては、宗教にかかわることが…

[[平野啓一郎]平野啓一郎 対談「ウェブ人間論」

p83 私たちは調和を重視するというが、それは悪くすると他者との距離を押しつぶしてしまうことでもあって、本気で議論しなくても「だよね?」「うん、だよね?」で分かり合えるといった、個性に対する一種の抑圧や暴力としても機能してしまう。「契約」とい…

小林秀雄 「私の人生観」 新潮社版全集第九巻

「私の人生観」 高校一年の国語の教科書に小林秀雄「私の人生観」があった。田舎の高校生はそれまで全く読書経験らしいものを持っていなかった。小林秀雄も知らなかった。ただし「私の人生観」は奇妙な文章だった。直観をそのまま書くほかに読者に理解を求め…

丸山真男 「歴史意識の古層」±α 3

[なりゆき] 東京裁判の膨大な記録を読む者は、当時の政治権力を構成した宮廷・重臣・軍部・財界・政党等の代表的人物をほとんど網羅する証人喚問と証拠提出によって、日本政治の複雑きわまりない相貌を明らかに知ることができる。 日本帝国主義の辿った結末…

ハナ・アーレント 「全体主義の起源」第三巻「全体主義」 3

p189 全体主義はあらゆる国で暴威を振るうが、その国が独裁者の本国である場合、事態は最悪である。このとき彼らは、自国民に対して極悪な外国人征服者のようにふるまう。全体主義独裁者が傀儡政府を好む理由もここにある。傀儡支配者は自国において最も血…

丸山真男 「歴史意識の古層」±α 2

[いきおい] 「いきおい」という大和言葉と対応する漢語はふつう、勢、権勢、威などの語である。しかし「いきおい」にはもう一つ、(我々がふつうに使う用法での)「徳」という意味があった時代があり、日本の価値意識がよく示されている。日本書紀で「天皇の…

ハナ・アーレント 「全体主義の起源」第三巻「全体主義」 2

p90−94 <シオンの賢者の議定書>というユダヤ人賛嘆の奇妙な文書がある。第一次大戦後ドイツで数十万部も刷られた。世界帝国の設立を考え、特定の国の革命については決して語らない。政治概念の中心にすえられているのは「民族」であり、人口では弱体で領…

丸山真男 「歴史意識の古層」±α 1

[つぎつぎに] よくもあれだけ厚顔無恥にと感心する道路の掘り返しを身近な例として、その経済効率の悪さが指摘されながら、愚劣な公共事業が少しもなくならない。私たちは頭が悪いんです、計画性がないのですと自白しているようなものなのに、公共事業の「つ…

マックス・ウェーバー  『プロテスタンティズムの教派と資本主義の精神』

p94 アメリカの世間のクラブでは投票によって欠員が補充されるが、それはひどく排他的であった昔のピューリタン教団加入の意義が世俗化した果てに生まれたものである。 いま最も民主的とされるニューイングランドでも、独立戦争前までは、教団内の完全な市…

夏目漱石 「草枕」

p58 蚤の国が厭になったって、蚊の国へ引越しちゃ、何にもなりません。 漱石はやはり大家である。猫、坊ちゃんから草枕のころまで、いったん書き始めたらほとんど書き損じて渋滞することはなかったらしいことを、後年鏡子夫人が関係者に述べている。昼も夜…

ハナ・アーレント 「全体主義の起源」第三巻「全体主義」 1

二十世紀政治哲学の最大の著作といってもいい「全体主義の起源」は第三巻から読み始めるのがいいとされている。一・二巻を見なければ分からない概念はほとんど出てこない。彼女が告発する「我々が犯した史上最大の悪」は我々が我々である限り、これからもどこ…